文芸部のお話 03
「篠田さんが部長だったんだですね。俺、初めて知りましたよ」
文芸部第二派閥クイズ研究会筆頭神崎健二は本当に篠田が部長だと今知ったのか以外そうな顔を浮かべている。
「ついこの間就任の挨拶したはずだが?聞いてなかったのか?」
そう。篠田は先月中旬、部長就任あいさつをここでしたのである。部費でお菓子とジュース買って。だが集まったのは副部長マクラナハンと20人前後の部員達のみであった。そして神崎はこの場にすら居なかった。おかげで参加者20人には1人10本のジュースと適当な数のお菓子が配られた。
「あぁ、あれですか。俺眠かったので寝てました。最初のうんたらこんたらは聞いてましたがそのあとのことは何も」
如何にも覚えてましたと言ったらアピールをしているが何にも聞いてなかったのが丸出しだ。
もう、ここまで言い訳をするならば最初から寝てましたと言ってくれた方がまだ、精神的な負担は軽くもないがまだマシだと思える。でもキツイものはある。
「だろうと思ったよ……」
深〜いため息をつき、先ほどまでサラが座っていた副部長マクラナハンと書かれた札を外しテーブルの引き出しに仕舞い込み、自分の名前が書かれた札を置き、指を組み、神妙な面持ちを見せる。
「さぁ!全員聞け!!今からお前達にはあることをやってもらう。そのあることとは各同好会の部会長名と同好会名そして所属人数をこの紙に1人ずつ書いていけ!」
「え〜面倒っち」
「お前俺が生徒会に目つけられてるのわかってるいるのか?」
内心桜崎に近づけてウホウホだがそんな表情あくびにも出さず切り抜ける。
「どうせ桜崎さんとお近づきになれてハッピーなんでしょ」
「それがどうした?」
「うわーこの期に及んで言い逃れですか……有名ですよ」
「は?」
最初は別に言い逃れなど簡単だと思っていた篠田部長だが……神崎が付け足した最後の一言により鉄壁の表情筋は崩れた。
「部長、桜崎さんを見つけると発情期の猿のように視線が胸の方に寄ってましたよね」
「え?」
え?である本人はそんなつもりない。見ていたのは桜崎の表情である。高校生活3年間同じクラスで妙な親近感と神のお告げが聞こえていた。一応篠田と桜崎は同じクラスである。ついでに言うと神崎も3年E組でクラスメイトなのだがよく忘れられる。
「無意識ですか……クラス内ではもうお持ち帰りしたと噂でしたよ、でもまだなんですね。これで門徒が開きましたね」
「そ、そんなわけないだろ!」
篠田はテーブルをバンと叩き、怒鳴るがこうなってしまっては部長の威厳など他に落ちたに等しい。元からこの部長威厳などなかったようなものだが……それでも最低限の威厳を保っていた。
「あーぁでもダメですね、今回の騒動のおかげでより近づけましたしね、俺たちを出汁にして全校生徒の女神を捕まえようと気持ち悪い作戦考えてますもんね」
「そんなことはしてない!」
「だってさっきサラ副部長言いかけてましたよ、部長の小説の主人公は部長でそのヒロインの名前は桜崎ってこれも有名な話ですよ。みんな知ってますよ。」
みんな知ってますよ
みんな知ってますよ
みんな知ってますよ
みんな知ってますよ
部長の頭の中で神崎の一言がループし、ループするごとにせっかくよくなってきた顔色が悪くなり動悸でもしてきたのか心臓に手を当て深呼吸をする。
「すーはーすーはーすーはー…………俺、ちょっと、保健室行って来るわ……」
力無くテーブルに置かれていた腕を無理やり持ち上げ壁伝いにドアに向かい、取っ手に指をかける前に扉が開く。
「あら。部長、大丈夫ですか?」
そこに居たのは先ほど、どこかにふらっと出て行ったサラであった。サラの手には食堂で無料で配られているお茶パックが3つ握ってる。どこからか持ち込んだの部費で買ったのかわからないがケトルでお湯でも沸かして飲むつもりなのだろうか?。
「サラ、か。俺保健室に行くわ気分が悪い。あとよろしく頼む………」
サラは不思議そうな顔を浮かべ合点がいったのか先に部室に入りよたよたと歩いていく部長を見送りどこかにメールを送る。
「あんた達バラしたの?、人間の屑ね。見損なった、神崎先輩」
「ん、うん?」
「明日からクイズ研究会の配分減らします。それに野次馬達も減らします。」
神崎にとって思いもよらぬ一言がサラの口から飛び出し、直撃した。そして火の粉を浴びる形になった野次馬達もそんな馬鹿な?と言った顔をしている。当然である。野次馬以上にサラが嫌っているものはない。あいつらは屑なのである。
ギャーギャー騒ぐだけ騒いで誰も責任を取ろうとせず善悪の判断をする前に批判する。人間の屑である。この世に殺人罪がなければ野次馬はこの世界から消滅していただろ。
彼らはこの日本に殺人罪があったことを喜ぶべきである。
校内でも日々◯◯と付き合ってる
◯◯の家から出てきたところを見た
などなど噂が経ち、無視する方の苦労も考えろって言うの!屑ども。
サラはそんな奴らの気持ち悪い批判を日々全身に浴びたおかげで批判耐性がついてしまった。
副業作家として時々小説を書いているが自称評論家気取りの素人がネットにつまんないだの、時間の無駄だの、如何にも素人らしく薄寒い事をつらつら匿名で書き込んでる。
悪質なものは全て出版社にお願いしてブタ箱に放り込んでいるが今でもちらほらとサラのアカウントに匿名のDMが届き、批判して来る奴がいる。
別に評価して貰いたいわけじゃないし。迷惑だし。
私が描きたいから描いてるのになんで文句言われないといけないんだろうね。それも全部ノンフィクション小説として描いてるけど。売れてるからよしとするかな、
「はあ?なんで。お前だって知ってただろ。」
「知ってました。でも私は言いませんでした。誰が何を書こうとそれを笑うつもりはないので。部長は自分の小説を真剣に描き自分だけの秘密にしていました。それをバラすのはフェアではありません。それをバラすような卑怯者には制裁を与えなければなりません。目には目を歯には歯を日本の名言です。神崎先輩。あなた先日行われたクイズ研究会主催のクイズ大会で不正しましたね」
「え?」
突如自分に火炎放射が飛び込んできた神崎は心当たりがあるのか部長以上に顔色が悪くなる。一体何の不正をしたのか野次馬達は今度こそ表情に出さないように聞き耳を立てる。
「特定の人にしかわからないような問題を出し、自分が優勝できるように細工しましたね」
「そ、その証拠はどこにあるんだ!」
確信をつかれた神崎はわかりやすい犯人がよく言うありふれたベタなセリフを吐き捨る。簡単に言えば自白した。だが残念それを言うのは素人相手にのみにしなければならない。だってのは目の前にいるのはガチの小説家である
サラ・マクラナハンである。
神崎の目の前に堂々と立っているサラ・マクラナハンは去年、最も売れた作家ランキングで1位に輝いた生粋の作家である。
本来であれば神崎のような屑がその顔を拝めることは一生あり得ないほどの人物である。
去年新作3冊発売して全てその年度中ににミリオンを達成ラブコメ、ノンフィクション、推理など幅広いジャンルで彼女は才能を発揮し超売れっ子作家としてテレビの取材や、雑誌、週刊誌の取材を受けている。そしてその美貌からファション雑誌ザブウェイでモデルとしても活躍している。そして国語の教科書にサラが執筆した『世界』が現役高校生作家として写真付きで掲載されている。
だがその性格はゴミである。