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故郷おもいて

作者: にお

*この作品は習作のために書いたものです。深い意味はないので軽い気持ちでお読みください。

 淀んだ沼地に日本語で書かれたラベルが浮かんでいた。


 一体どうやってここへと辿り着いたのか誰も知る由もない。


 それを近くの村の子供達が宝物でも見つけたかのように掬い上げると、黄色い声をあげながら村へと帰

ってきた。貧しい村だが、活気だけはあり子どもたちの帰りを大人たちが微笑みながら見守る。


 大物でも取ったかのようにラベルを掲げて走る少年セベスは子どもたちを代表として、村の奥にある小さな家へと転がり込んだ。


「サガス!ミツケタ!」


 カタコトな日本語が家中に短く響き、私は涅槃の体勢からゆっくりと体を起こした。


 少し寝すぎたようで頭はまだ眠っている。


 目を軽くこすり、大きなあくびを一つしているとセベスが私の手にラベルを握らせた。


「ヨンデ!」


 両肩を掴んで激しく揺するが私は抵抗などせずされるがままに震えてみるので、セベスはそれが面白くて手加減することなく大笑いしながら続ける。


「わかったわかった」


 声を振動させながら読むことを伝えると、ピタリと手を止めてくれ、三角座りとなって私の言葉を待つ。


「なになに、えーっと」


 丸まったラベルを手のひらで押さえつけて伸ばしてやる。


 所々、印刷された部分が剥離しており辛うじて読める部分を探す。


「スカッ!夏の暑さに負けるな。体は水分を欲している!」


 一部読めない箇所は前後の文字から想像で考えて言う。



 文章の最後には制服姿の女子高生が勢いよくジャンプするイラストが描かれている。


 爽快な笑顔で夏を克服しようというありふれたキャッチフレーズに私は懐かしさで頬を緩めた。


「イミ、ナニ?」


「ナツ、カツ。カラダ、ミズ、ホシイ」


 私はセベスでも分かるよう重要な単語のみを伝えた。


 一回で理解することは到底難しいのだろう、セベスは私の瞳を見つめたまま口を半開きで理解しようと

していたので、もう一度今度はゆっくりと伝える。


「ワカッタ。オボエタ」


 羞じらうように笑って誤魔化した。


「絶対おぼえてないだろ」


「イイヤオボエタ」


「なんで今の言葉はわかるんだよ」


「ミヤカワのクチグセ」


 私は少々苛立ち、手でどこかへ行けと合図すると、笑いながら家を出ていった。


 すぐ外で待っていた子どもたちと合流すると、再び集団は黄色い声で無鉄砲にどこかへ走り去っていく。


 床に残されたラベルを拾い、私はアルバムの1ページに追加した。


 ページを2、3ページ戻ればこの地で手にした日本語で書かれた雑誌の一部などが載っている。


 寝起きだった頭も冴え始め、タバコを口にし窓際に立つ。


 それから眼前に広がる密林を見ながら、遠くにそびえ立つ島内最大の山を見つめた。


 一口吸い、ゆっくりと煙を吐いた。


 あの山を越えた先に日本がある。帰りたくても帰れないかつての故郷。


 友の罪を被り、日本から逃げてきた私だが近頃、妙に恋しくなるときがある。


 私には肉親は一人もおらず、友には妻子がいたためそれならばと私は申し出た次第であった。


 再び逢う事は叶わないだろうし、日本にも帰れないだろう。 


 この地では熱帯低気圧が起こる。


 やがては発達して台風となり、秋頃に日本へと多く飛来する。


 私の想いも乗せていってくれないだろうかと淡い気持ちで、再びタバコに口をつけるのであった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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