象徴として
「……終わった、んだよな?」
しばらく誰も何も言わないでいるとヤマトが口を開いた。
予想もしていなかった終わり方だ。どう反応を示していいのか分からなくなっている。
「うん、終わり、だよ?」
ヤマトに応える僕もつい、疑問形になってしまった。
「そ、そうか。終わり。終わったんだな」
「私たちの勝ちだね」
「そう、僕たちの勝利だ」
この場を締めるのにふさわしい言葉をサクヤが言ってくれた。
「ニニギ様」
サルタヒコが寄ってきてそっと耳打ちした。
「勝鬨をお願いします」
「あ、そうだね」
一歩前に出る。
そして右手を上に勢いよく掲げて声を張る。
「この戦い、僕たちの勝利だ!」
「おおおおおおおおおおお! おおおおおおおおおお!」
一斉にたくさんの腕が天を突く。
高天原全土に響き渡るような、大きな勝鬨の声が上がった。
遂に勝利したんだ。僕たちの手で勝ち取ったんだ。
勝鬨もほどほどに、皆近くの者と肩を組んで、拳を合わせて、抱き合って、それぞれで勝利の喜びを分かち合っている。
「やったな、ニニギ」
「これで夢が一つ叶いそうね」
ハイタッチを求めるヤマトとサクヤと三人で両手を打ち合った。
「ありがとう! 二人だけじゃあない皆のおかげだ。一人だったら絶対にここまでたどり着けなかった」
「そんな大袈裟な、とは言えねぇな。それだけ強大な相手で困難な道のりだった」
「ほんと、達成感がすごいわ」
これまでの道のりを振り返ってみると、崖っぷちスタートだったからなぁ。
「ニニギ様、戦勝に浸っているところ申し訳ありませんが、この後やることがたくさんありますのでそろそろ」
サルタヒコの言う通りだ。
お婆様に勝つことが目標だったけど、それで終わりじゃあない。
そこからが新たなスタートでもあるんだ。
さしあたっては人間との和睦と関係修復。それと戦いで荒れた高天原と葦原ノ中国の復興だ。
「そうだね。すぐに行こう」
「ニニギ様は神力を使い果たしてしまわれたので、扉は手前が開きましょう。こちらに来た人間たちもその時に一緒に」
こうして、サルタヒコの指導の下、戦後処理と復興が始まった。流石だなぁ。
人間との和睦は、僕との協力関係にあったことやイナゲさんの取り計らいでスムーズに事が運び、無事終了した。
ヤマトとサクヤとはここでまたしばらくのお別れだけど、今度はそう遠くないうちにまた会える。
そのことを約束して僕は高天原に戻った。
戻った後は、事の顛末を神々に説明し、同意を得られたこころでようやくこの一件が一応終息した。
僕の神力が回復し次第、最終決戦で荒れた土地を元に戻したりと色々やることはある。
けど、今はこのことを喜んでゆっくり休もう。
終わったかと思うと、途端に疲労がのしかかってきた。不思議と悪い気がしないどころか、むしろ少し気持ちがいいくらいだ。
達成感に満ちた疲れと言うやつなんだろう。
社の自室まで戻ってくると、部屋の扉の前にサルタヒコがいた。
「お待ちしておりました。が、お疲れのようですね」
「そういうサルタヒコもだよ」
自然と僕とサルタヒコから笑いが漏れた。
「どうなることかと思った節もありましたが、まずは何よりおめでとうございます。ニニギ様」
遅くなりましたと、サルタヒコは片膝をついて頭を下げた。
「ありがとう。僕の方からもお礼を言わせてほしい。ヤマトとサクヤもそうだけど、サルタヒコには最初から最後まで助けられた。感謝してもしきれないくらいだ。本当にありがとう」
サルタヒコの手を取って、片膝をついていた状態から立ち上がらせ、同じ目線になって言う。
「……ニニギ様! そのお言葉、身に余る光栄、恐悦至極にございます!」
再びバッと片膝をついてサルタヒコは言った。
まさか、ここまで感激されるとは。
けど、それだけサルタヒコにとって思いが深かったってことだ。それは僕もすごく嬉しい。
非常に密度の濃い二日間を過ごした後の朝は、何だか今まで以上に和やかで落ち着いていた。
早朝っていうのもあるんだろうけど、やっぱり激戦の後っていうのが大きいのかな。
なぜ、早朝に起きているのかというと、個人的にやり残したことがあるからだ。
僕が向かったのは霊魂騎士が収容されている格納庫だ。
最後まで僕の無茶に付き合ってくれた戦友にもちゃんと、お礼を言っておかなければならない。
ボロボロになっていた金閃公はまだ修理されていなくて、昨日の戦いの直後のままだ。僕の神力が尽きてしまったから、復元してやることができなかった。
「君もお疲れ様。どんな無茶にも付き合ってくれて、ありがとう。ある意味、君が一番の功労者だよ。これからは、象徴としてよろしくお願いします」
天帝黒陽孁を破壊してしまった今、新たに大神専用機として挙げられたのが金閃公だ。
僕はもう、大神専用機とかいらないんじゃあないかと思ったけど、象徴と言うのは必要らしい。
ただ、今度はお婆様のような、自分の能力を誇示するような象徴なんかじゃあなくて、皆の拠り所になるような象徴だ。
それなら、存外、いや全然悪くない。いいと思う。
格納庫に外からの光は差し込まないけど、金閃公が金色のフレームを光らせたような気がした。




