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魂魄機動 霊魂騎士ーソウルナイトー  作者: ワンサイドマウンテン
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腐っても大神

「っく! 思ったよりも堅く、削れていない、のか?」


 皆が限界出力を出して攻撃を仕掛けたけど、サルタヒコの言うように、あまり削れていない。万全の火力が出ていないとはいえ、サクヤの支援があってもか。

 僕とヤマトの霊魂騎士は特別製だからか? それでも、数の力で何とかなると思ったけどダメなのか?

 僕の方の準備も完了していない。


 限りなく近づいているけど、僕はまだ正式には大神ではない。

 あれを四つも作ろうと思えば少々時間はかかる。

 それでも間に合うと思っていたけど、思ったより効果がなかったから計算にズレが生じる。

 ……間に合うのか?


「皆、聞け! 全力の総攻撃を仕掛けたが、思ったより効果が薄い。よってもう一度、限界出力状態による総攻撃をかける! ただし、次は攻撃を合わせる。力を集めれば破壊力は増す! 手前の合図で仕掛ける! 全機、攻撃態勢!」


 サルタヒコ⁉

 もう一度、限界出力の全力攻撃だなんて、無茶だ。

 神力がそんなに多くない神だっているのに。

 もう一度やったら、その神たちはその場で戦線離脱だ。そうなったら彼らはこんな、戦場のど真ん中で動けなくなってしまう。

 そんなことはサルタヒコも、皆も分かっているはずだ。


「待っ……!」


「行くぞ! 総員、攻撃だ!」


 止める間もなく、サルタヒコたちは本来予定されていなかった第二次攻撃を決行した。

 無茶は承知だってことなのか?

 ……いや、彼らが正しい。


 正念場で、失敗が許されないからって、僕は弱気になっていたんだ。

 失敗が許されないからこそ、全力でかかる。

 無茶をする。無茶をしてでも乗り越える。

 必死さを見せる。


 それを見せつけられて、もっと安全な方法があるはずだなんて、悠長なことは言っていられない。

 彼らが道を開こうとしているのに、それに僕が水を差すことなんてできない。

 僕がやるべきことは、そんな彼らの想いをしっかり受けとって、繋ぐことだ。


「サクヤ、もう一回頼める?」


「当たり前でしょ!」


 言うと同時に高速で帯が伸びる。

 それとほぼ同じタイミングでサルタヒコたちが一斉に攻撃を開始した。

 威力を増すためだろうか、うねりを付けて、全員が一丸となって目標に挑む。

 その光景はまるで一匹の龍だ。

 サクヤの操る帯が髭みたいで、尚更龍を彷彿とさせる。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 サクヤが全体を捉えられる位置にいないといけないため、攻撃に参加できないヤマトが叫んだ。

 せめて、声だけでも、といったところだ。

 うねった龍は全心全力を持って杭にぶち当たった。


 ――ゴガガガガガガ!


 巨大なもの同士が擦れるような大きな音が響き渡る。

 彼らは杭を接地面から、削る、削る、削る。大きく削る。

 時間にして約二十秒弱。

 龍を作り出していた彼らは瓦解した。


 中には力尽きたようにその場に落ちた機体も見られた。

 成果は上々、半分は削ったみたいだ。

 そこまでやってくれたのなら、あとは僕の仕事だ。

 皆が作ってくれた時間、皆が整えてくれた舞台。

 四発分、僕の準備は出来ている。

 あとは――


「撃つ!」


 手元に留めておいた四発の球を、それぞれに向けて放った。

 それから遅れること数秒、僕たち全てを葬らんとしていた四本の杭は消滅した。

 音を立てることもなく、それは静かに消滅した。消し去った。

 歓声は上がらない。


 消えた巨大な杭の向こうには、僕たちの最終目標がいるからだ。

 その目標である漆黒の霊魂騎士、もといお婆様は目の前で起きた光景に声も出ないようだ。

 コックピット内のお婆様の行動が、そのまま機体に現れているようで小さくワナワナと震えている。

 そんな天帝黒陽孁を、僕たち全員で囲んでいた。


「これが、お婆様が雑魚だと罵った力だ」


 フツノミタマの切っ先を向けて言う。


「……ふん、何を。妾はまだ負けておらぬ」


 やっぱり、どこまで行ってもお婆様は変わらない、か。

 嘆息ものだ。


「貴様ら、いい気になっているようじゃが、それもここまでじゃ。どれ、まずは有象無象共から消してくれよう」


 クサナギノツルギを鞘に納めた?

 とにかく予知だ。

 ……ほとんどの霊魂騎士が消される未来か。


 時空を歪めると仮定したあの力、単体だけじゃあなくて範囲にも使えるというのか。

 そんなことをされたら、対抗できる霊剣が僕とヤマト、サクヤのとで十一本分あっても対処しきれない。大勢がやられてしまう。


 けど、それは僕がお婆様と同じ領域に至っていなかったらの話だ。

 今は違う。

 意味が分からなかったあの攻撃も理解できるし、同じような力を僕も扱える。

 そうなれば当然、対処も難しくはない。

 あれはお婆様を中心に外側に向かって広がっていく。

 なら、その逆、外側から内側に向かって同じ力を使えばいい。


 九次元の能力の時と同じだ。

 Aには同じAをぶつけて相殺する。

 未来を見たからタイミングを合わせることも容易だ。


「そうはさせない!」


 お婆様が展開した外側に展開する。

 そして、外から抑え込む!


「――ッ⁉ なぜ消えぬ⁉ ニニギ、貴様何かしたな!」


「当たり前だ! そうそうやらせはしない!」


 お婆様が発動してから何秒経っても僕たちに被害は出ない。


「ニニギはもうとっくにお前なんか凌駕してんだよ! もう諦めな、バァさん!」


 お婆様が状況を理解しきれていないうちにヤマトがアメノハバキリを打ち込んだ。


「何を⁉」


 天帝黒陽孁、相変わらずの機体性能だ。

 ヤマトの猛攻を一応、受け切っている。

 これまではその機体性能のせいで、僕とヤマト、サクヤの帯を加えても崩しきれなかった。

 けど、今はもう違う。


「ニニギ様たちだけにやらせるな! 手前らも加わるぞ!」


「御意ぃぃ!」


 サルタヒコたちも加わる。

 杭を破壊するための全力攻撃によって、半数以上は脱落したけど、それでも三割近くが残っている。

 脱落した彼らの想いもしっかりと双肩に乗せている。

 仲間とこの想いの力がお婆様を打ち破る。


「せぇぇぇぇぇい!」


 皆に続いて僕もフツノミタマで斬り込む。

 予知は常に発動させて、すぐに対処できるように。


「アマテラス、覚悟!」


 サルタヒコの駆る七芒が左腕のワイヤーアンカーを射出する。右手には太い手槍が握られている。

 アンカーで相手の動きを止めて、右手の手槍で仕留める。それがあの機体の戦い方のようだ。

 捕えられれば勝負は一気につくだろう。何せ、この人数だ。


 だけど、天帝黒陽孁は中々アンカーに捕まらない。

 捕まれば危ないことが分かっているから、アンカーを最優先で回避するようにしているようだ。

 その分、他の機体の攻撃は多く掠めたりしている。

 僕やヤマトの攻撃も同様に最優先で回避される。

 それだけ警戒されているということだ。


 どうにかそれを利用できないだろうか……。

 生半可な損傷を与えたくらいじゃあ、たちまち復元されてしまう。

 事実、今まで与えた小規模や中規模の損傷は復元されている。

 倒すときは確実に、一撃で。じゃあないとダメだ。

 未来を見た感じ、やはり防戦一方で反撃は見えない。


 サルタヒコの射出したアンカーを、ひらりと躱しながら次々と襲いかかって来る刃を掠めながらも回避する。

 ここで、一度躱したアンカーが戻って来るがそれすらも避けてみせる。

 避けた先には帯が待ち構えているがなんとか打ち払って捌いて、続くヤマトの振り下ろし攻撃も受け止める。


 僕が仕掛けるのはここだ。

 けど、斬り落とし、斜め左上への斬り上げ、横薙ぎの三連撃は全て回避される。

 そんな未来だった。

 サルタヒコやヤマトにこれを伝えている時間はない。

 最後の僕が決める。


 お婆様が取った僕の攻撃に対する行動は、左に逸れて斬り落としを回避し、続く斬り上げは、左脚を軸に滑らせるように機体を半回転させて回避、最後の横薙ぎはそのまま後ろに下がって躱した。

 多分、初撃は袈裟斬りでも横薙ぎでも、何でも躱される。

 だから、初撃は斬り落とし、そこから即座に繰り出せる斬り上げはそのままで、三撃目を変える。

 相手が後ろに下がるなら突きだ。

 こうして、算段を整えている間にも予知した通りに事態は動いている。

 帯を凌ぎ、ヤマトの攻撃を防いだ今、僕の番だ。


「あああああ!」


 初撃、二撃目までは僕もお婆様も予知の中と同じ動きだ。

 勝負の三撃目。


「せぇぇい!」


 半回転して回避した天帝黒陽孁の胴体中心めがけてフツノミタマを突き出す。


「くっ……!」


 タイミングは完璧だった。

 半回転のアクションが終わって、機体が正面を向いた瞬間には突き出していた。

 かなりぎりぎりだったみたいだけど、それでもお婆様は回避してみせた。

 見てから動いている⁉


 確かに、天帝黒陽孁の性能なら、それくらいはやってのけられるかもしれないけど。

 それをやるには、お婆様が操作をしなければならない。

 仮にお婆様が反応できていたとしても、それを即操作に移せるほどの技量はないはずだ。


 なら、なぜできているんだ?

 操作をしないと回避はできない。でも、操作はできないのに回避できている。

 ……操作をしなくても回避ができる、ということなのか?

 そんなこと、可能なのか? 直接的な操作をしないで行える。考えられるとしたら脳の命令をそのまま機体に伝えれば自分の身体を動かすように操れるだろうけど。


 いや、その線で考えれば可能なのかもしれない。

 僕の乗っている金閃公は天帝黒陽孁を模して作られたものだ。

 だから、天帝黒陽孁にある機能は劣るけどこの機体でもできる。


 逆説的に、この機体でできることは当然のように天帝黒陽孁でもできる。それも金閃公を上回ってだ。

 金閃公では、ヘッドギアを装着することで、脳波で機体の体幹制御を行っている。

 この機体でできるのはそれだけだ。

 このことから、天帝黒陽孁では脳波のみで機体を操縦できてもおかしくはない。いや、そうじゃないと説明がつかない。


「難しいな……」


 攻めあぐねる。


「今更だけどよぉ、あの天帝黒陽孁ってぶっ壊してもいいのか? 大神専用で大事な物なんじゃねぇのか?」


 そんなことはつゆ知らず、攻撃の手を緩めることなく、ヤマトがそんな疑問を口にした。

 本当に今更だ。

 お婆様をどう倒すかばかりで、そこは頭から抜けていた。

 けど――


「問題ないよ。思いっきりやっちゃおう」


 サルタヒコたち、参戦している神々は皆、全力で倒しにいっている。それが答えだ。

 だから自信を持って言う。


「おっしゃ!」


 ヤマトがさらに意気込んだところで、思考を戻す。

 お婆様を確実に、一撃で倒す方法だ。

 現状は数に任せて、お婆様を防戦一方にさせている。

 お婆様のパイロットとしての技量は、決して高いものじゃあないから普通なら物量戦で押し切れる。

 けど、そう上手くはいかない。


 お婆様の技量が低くても、それを補えるだけの恐ろしい性能が天帝黒陽孁にはある。

 未だに決着がついていないのは、それのせいだ。

 小、中規模のダメージは与えられるが、決定打になるような大ダメージは与えられない。

 そして、大ダメージじゃなければ、たちまち復元されてなかったことになってしまう。

 このまま戦いを続けていても、意味のない持久戦になるだけだ。


 そうなったら、神力を消耗している僕たちに勝ちはない。僕だって、杭の破壊にほとんどの神力を使ってしまっていて、もうほとんどの残っていない。

 一撃で倒す手段はある。

 このフツノミタマとヤマトのアメノハバキリ、霊剣並みの帯九本に加えこの数の霊魂騎士だ。

 その手段をどう使うか、それが問題なんだ。


 簡単なようで簡単じゃあない。

 考えるんだ。ヒントはある。

 防戦一方になっているお婆様は能力を使う余裕がない。

 さっきから使っていないのが証拠だ。

 正直、僕たちが押しているこの状況でも、能力を使われれば大きな被害がでる。


 防ぎきることはかなり難しい。

 だから、それはかなりありがたい。

 決着がついていないのは、決定打になる僕や、ヤマトの攻撃、ついでに決定打に繋がるサルタヒコの攻撃が警戒されているからだ。


 五次元の能力はそこまで効果を発揮しない。

 虚をついても反応されてしまうからだ。

 元々、お婆様は十次元や九次元といった、高次元の能力しか使ってこないから、五次元の能力同士の読み合い勝負にはならない。

 読み合い勝負なら絶対に勝てる自信があるけど、そうはならない。

 尤も、今は能力を使う余裕すらも奪うほどに押しているから、考えるのは無駄だ。


「ニニギ様、やはり決め手に欠けますか」


 動きを止めていた僕に、サルタヒコが自身の機体を寄せてきた。

 サルタヒコも考えていたことは同じみたいだ。


「うん。決定打になる僕やヤマトの攻撃は、最大限警戒されていて届かない」


「……天帝黒陽孁。流石の性能ですね」


「それも大きいけど、これだけの密度の濃い回避を続けていれば、機体性能に助けられてはいるけど、お婆様の技量も上がる。どうにかしないと」


「やはり、ニニギ様やあの青い霊魂騎士の攻撃が届けば、天帝黒陽孁と言えども倒せるのですね」


「間違いないよ」


 最大限で警戒されているのが理由だ。


「手前の出番ですね。作戦を考えましょう」


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