総力戦
「僕たちは必ずお婆様に勝つ! その時にもう一度言ってやるさ!」
……とはいえ、常に最大出力を出していると稼働時間は一気に短くなる。それはみんな同じだ。
依然として、士気は高いままだけど、ちらほら片腕がもげたりとガタが来始めている機体も見える。
それに、どんなに抗ったって、質量はあっちの方が上なんだ。勢いは弱めているけど止めているわけじゃあない。
初めからそうだけど、一刻も早く破壊しないと。
そのためには――
「ヤマト、サクヤ、とりあえずこの一本だけでも破壊しよう。僕たちの所が一番削れている」
多分、三割くらいと言ったこところかな。
「確かにここが一番削れているが、そんなに一気にいけるのか?」
「ここで一旦最大出力の上、限界出力を解放して僕とヤマトで合わせて叩き込む」
「そりゃあ、かなりぶっ壊せると思うが……」
「……うーん」
それでも二割増しくらいだぞ、とヤマトは少し否定的だ。サクヤも同じくのようだ。
「出し惜しみをしてる場合じゃねぇってのは分かるがまだ一本目だ」
ヤマトの言うことは僕だって十分理解している。
度重なる戦闘にコトアマツカミの連続使用。最大出力もここまでに何度か使っているし、今はそれでフル戦闘だ。
その上で限界出力を出して戦おうものなら、あと十五分も持たないだろう。
けど、僕がそれでも使おうというのにはちゃんと理由がある。
僕の十次元の存在としての力が、強まっていると感じているからだ。
思いは力になる。
ツクヨミ様言っていた。一人じゃあないのならお婆様に勝てる見込みがあると。
ヤマトが、サクヤが、サルタヒコがいる。
多くの戦える八百万の神たちも立ち上がって、助けに来てくれた。
恐らく、ここに来ていない、戦う力のない神たちもその意思はある。
そんな今、一人一人の思いがある一つのことに集まっている。
お婆様を倒すという目的だ。
その結果、少しずつだけど力を発揮し、あの巨大な杭に抗っている。
それとは別にもう一つ集まっている思いがある。
このことで重要なのはそっちだ。
それは、皆が次の大神に僕を選んだことだ。
実際にはまだ僕は大神じゃあないけど、皆の思いが力になる。
その結果、十次元としての力が強まるんだ。
お婆様が上手く能力を扱えないのは、それも理由の一つなのかも知れない。
「大丈夫。ちゃんと、目途がついているから」
そのことをちゃんと説明したいけど、生憎そんなに悠長な時間はない。
だから、大丈夫なんだってことを声色に乗せて届けるしかない。
「……分かった、信じるぜ」
「私も信じる」
逡巡のち、承諾の声がヤマトとサクヤから返ってきた。
「ありがとう。カウント五でいくよ」
「おう!」
限界出力!
フツノミタマを大きく上段に振りかぶる。これが一番、威力が高い。
ヤマトもアメノハバキリを構えている。サクヤも帯の準備を整えている。
準備は出来た。
「五、四、三、二、一……はぁぁぁぁぁっ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「えぇぇぇぇぇぇい!」
まず、サクヤの操る九本の帯が一点を集中攻撃し、そこにヤマトが振りかぶっていたアメノハバキリを力一杯叩き込んだ。
ドドドドドド! っと、轟音が響き、大きな亀裂が走った。
その亀裂に向けて僕はフツノミタマを振り下ろす。
――フツッ。
亀裂をなぞるように、深々と斬り裂いた。
バシィッ!
フツノミタマを振りぬいたあと、やや遅れてそんな音が鳴り、亀裂が広がっていく。
それは止まることなく、全体に広がっていき、やがて耐えられなくなった杭の先端の方がバキリと折れた。
「おおおお! やったぞニニギ! 一本を破壊したぜ!」
「やった! っていいのかしら? あれ折れた先端が落ちて……」
「おぃぃぃぃ⁉ 冗談だろ? ダメっぽいじゃねぇか⁉」
喜びも束の間、絶叫するヤマトとサクヤだけど、大丈夫。
僕からしたら、これは出来すぎた事態だ。
本来ならあれで、半分くらい削れたらよかったなくらいに考えてたけど、砕くことに成功してる。
砕けなかった残りが落ちてきているけど、それは本来やるはずだったことで対処する。
「あれも破壊する! はぁぁぁぁぁ!」
両手を前に突き出して右手を前に持っていく。
そして――
「消えろぉ!」
次の瞬間に落ちて来ていた杭の先端部分が消えてなくなった。
「お? いきなり、砕けた?」
「っていうより、消滅したって感じね……」
二人が戸惑うのも無理はない。
「ニニギ様が杭を一本は解したぞぉぉぉぉぉ!」
「おおおおおおおおお!」
近くにいた神の誰かが叫んだ。
続いて歓声が上がる。
僕がやったのは、お婆様がやっていたことだ。
僕の金閃公の左腕を吹き飛ばした攻撃だ。
こうして自分で使ってみると、何をされていたのか分からなかったこれが、何なのか分かった。
時空を歪める球を作って飛ばしていたんだ。
十次元はあらゆる可能性が許された存在だから、イメージで出来るようになった。
霊剣で干渉できる、飛んでくる何か。それに触れたら消滅する。
この二つの事からイメージした結果、できたのが今僕がやったことだ。
お婆様がやっていたことがこれだったのかは分からないけど、同じようなことが僕のイメージで成り立ったんだ。
そしてこれで、分かったことがある。
ツクヨミ様は、大神になるための方法は二つだって言ってたけど、三つ目の方法がある。
それは、皆に選ばれることだ。
この場合、既にいる大神はどうなるのか分からないけど。
完全に力を扱えていない理由が、皆の思いにあったりすることもあるし、失われるんじゃあないかと思う。
すぐに、ってわけじゃあないだろうけど。僕が完全に大神になったわけじゃあないしね。
とにかく、この能力と皆の力があれば巨大な杭は破壊できる。
まずはそれが一番だ。
「皆、聞いてほしい! この通り、五本あるうち一本は今、破壊した! けど、残り四本は僕だけじゃあ厳しい」
神力の問題だ。このあとお婆様が残っている以上温存はしておきたい。
全員が限界出力を出せば、四回分の限界出力を僕は温存できる。
それに、全員で分散するから、一人が一回限界出力を使うだけ。全員、余力は残せる。
「一人につき一回だ。一回限界出力を出して打ち込んでほしい! それで残りの杭を全て破壊する!」
力強く、言い放つ。
それで大丈夫だ、何も心配することはないと、さらに、これ以上ないくらいに力を引き出すためだ。
サルタヒコが飛ばした檄のおかげと、僕とヤマト、サクヤとで一本破壊した。それがあって士気は高いけど、その上を行く。
士気の爆発だ。
「かしこまりました! 手前が先陣を切りましょう。続け!」
「はっ!」
「ニニギ様ァ、任せてください!」
僕の指示を受けたサルタヒコが、実行せんと前に出る。
それに他の神々も続いて行った。
「ニニギ、俺たちはどうすりゃあいい? まさか、一本ぶっ壊したからってあとは静観、なんかじゃあねぇよな?」
「うん。まぁ、ヤマトっていうよりはサクヤなんだけどね。キツイかもしれないけど、四か所とも援護できる?」
そう、ここまで戦ってきての憶測だけど、サクヤの操る真・素戔嗚の帯は射程がないのか、驚異的なまでに長い。
ここにいながら、四か所同時に援護ができるんだ。
「問題ないわよ、それくらい。初めて二か所同時で別の動きをしたときは大変だったけど、そのおかげで感覚は掴んだわ。ただ、全体を見ながらじゃないといけないから、大分大雑把になっちゃうけどね」
「それでも、かなり助かるよ」
無茶を言っているんだ、それに文句をつけたりなんかしない。やってくれる、できるというだけで十分だ。
「ニニギはどうすんだ?」
「僕はみんなが大打撃を与える四本の杭に止めを刺して破壊する。そのためにさっきのを四個用意する。みんなが総攻撃を仕掛け終わったら撃って、それで終わり。残すはお婆様だけだ」
「本当にいよいよ、だな」
「そうね」
「うん。けど、正念場だ。最後まで気を引き締めていこう……!」
そうして僕たちは、皆の全身全霊をかけた総攻撃が始まった正面を見据えた。
破壊の目途が立ったと言っても、あの杭が全てを葬らんとしていることには、依然変わりないから。
失敗すれば終わりだ。
そんな状況で気が緩むなんてとんでもない。




