援軍
「ニニギ様、あれを破壊するには少々戦力が足りないのではありませんか?」
この声は⁉
「サルタヒコ!」
後方から聞こえた声に振り向くと、お婆様の行動で地形が変わってしまい、大きく盛り上がってしまった場所に薄桃色の霊魂騎士の姿があった。
上半身、特に肩の部分が盛り上がった独特の機影。反対に下半身はスリムでアンバランスに見える。手槍とワイヤーアンカーで武装したその機体はサルタヒコの駆る
「七芒」
この状況で一機でも味方が増えるのはすごく大きい。
「申し訳ありません。タケミカヅチから逃げられたのはよかったのですが、機体の修理に時間がかかってしまいました。しかし、あのタケミカヅチを倒すとは流石です、ニニギ様」
「いいよ。無事でいてくれて、こうして戻ってきてくれただけで十分だ」
人間界で戦力を整えて仕掛ける時間ができて、ちゃんと成果も上がったし。十分どころか、むしろかなりおまけがついた方だ。
「それと、タケミカヅチを倒すのは僕一人じゃあ無理だった。ヤマトとサクヤが一緒に戦ってくれたおかげだよ」
二人がいなかったらここまで来れていなかった。
サルタヒコ、ヤマトにサクヤ、それからイナゲさんやオリタさんたち、ツクヨミ様、タケミカヅチとたくさんの協力があっての今だ。
そこは忘れちゃあいけない。間違っても全部、自分だけの力でやってきたと思ったらそれは、お婆様と同じになってしまう。
「ニニギ様、あなたはやはり神格者のようです。それゆえに、多くの者が動いてくれました」
サルタヒコが言い終わると同時に、サルタヒコの機体の後ろにずらりと霊魂騎士の一団が現れた。
「ははは、これほどの霊魂騎士が並び立つ。素晴らしい!」
あれはオリタさんか。その周りには人間の霊魂騎士が見える。
よかった。無事だったみたいだ。
サルタヒコの機体が立っている、盛り上がった場所の向こう側に待機していたんだろう。
それにしても、あれは一体。
援軍はサルタヒコだけじゃあない? オリタさんたちはともかく、他の霊魂騎士は神側のものだ。
「その霊魂騎士たちは……」
援軍だということは分かる。
ありがたいことだから、気にする必要はないことかもしれないけど、彼らはどこから?
そういう疑問だ。
ヤマトは息をのんでいるのか、無言だ。けど、思っていることは大体僕と同じだろう。
「先ほども言いましたが、ニニギ様の神格が招いたことです。彼らを味方につけるのには、少々時間がかかりましたが、皆こうして力になってくれました」
ってことは、高天原の戦える神たちが味方としてここに来てくれたってこと?
「……おいおい、ありゃすげぇぜ」
ヤマトの声は、驚きのあまり呆然となっているのが分かる声色だった。
援軍に来てくれた霊魂騎士の数は、ぱっと見でも百は下らないだろう。
それだけの数があれば心強いなんてものじゃあない。
だって、このことが意味するのは――
「お婆様、見えていますか? これが答えです。次の大神は僕だ! 個人でその地位を独占したお婆様とは違う! 皆に選ばれたんだ!」
今までは、有無を言わさない力で押さえつけるお婆様に、皆怯えていた。
けど、今この状況はそうじゃあない。
遂に、立ち上がったんだ。
もうお前は、大神じゃあないと。
「見えておる。有象無象共が。よかろう、ならばこのままニニギと共に消えてもらうまでじゃ。妾の統治する世界に、貴様らのようなものどもはいらぬ! 妾は貴様らの答えなど求めておらぬわ!」
お婆様が叫ぶと、天帝黒陽孁が両手をバッと左右に広げた。
すると、心なしか、迫る巨大な針――もはや、巨大な杭と言った方がいいのかもしれない。
巨大な五本の杭が迫る速度が上がったような気がする。いや、間違いなく速度は上がった。
そもそも、それほど時間はない。
サルタヒコや援軍に来てくれた皆にいろいろと話したいことはあるけど、それはあとだ。
今はあの杭を破壊するのが最優先事項だ。
その後でお婆様を倒す。
話はそれからだ。
「お婆様を倒すにはまず、あの杭をどうにかしないといけません。あの杭を破壊します! お婆様は今はあれの操作に集中していて動けない。だから、臆さず戦ってください!」
僕が動かずして誰が動く。
簡単な指示を出して、スラスターを噴かせ、迫る杭に突撃する。
「よっしゃあ! 行くぜぇ!」
ほぼ同時にヤマトも動いた。
「はぁぁぁぁぁ!」
出力最大!
フツノミタマを上段に構えて振り下ろす。
機体の加速の勢いと、限界まで上げた出力とが合わさって強大な力になる。
フツノミタマで斬ったときに鳴る、独特の斬撃音をかき消すくらいに激しく、大きく杭の表面を削り飛ばした。
「ぐぅぅ! 重っ……!」
巨大な杭も、僕らを潰さんと動いている。当然ながら、金閃公の腕を通してその重みは、コックピットのレバーに伝わってくる。
これに負けてちゃあダメだ。
今の一撃で削り飛ばしたのは、全体の一割にも満たない極々小さな一部分にしか過ぎない。
「まだ、だぁぁぁぁぁ!」
二連撃、三連撃とフツノミタマと振り続ける。
その度に、フツっという斬撃音と、表面を斬り砕く音が混じった、激しい音が響く。
「俺も負けてらんねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
少し離れた隣では、ヤマトが矛――アメノハバキリを振り回し杭を破壊し続けている。
もちろん、サクヤの操る九本の帯もだ。
「我ら一人一人の力は小さくとも、束になれば大となる。皆、先陣を切ったニニギ様に続け!」
サルタヒコが号令をかけると、次々に霊魂騎士たちが杭に向かっていく。
「貴様ら如き雑魚がいくら集まったとて、何も変わりはせん! 丁度いい、まとめて排除してくれるわ!」
巨大な杭に阻まれて天帝黒陽孁の姿は見えない。ただ、お婆様が叫んだのが聞こえただけだ。
「くっ、さらに重く……!」
姿は見えないけど、杭を操る力をより強くしたようだ。
「力を振り絞れ! ニニギ様だけにやらせるな!」
「おおおおおおお!」
サルタヒコが檄を飛ばした。
皆もそれに応えている。
百を超える霊魂騎士たちが五本の巨大な杭に向かって必死で攻撃を仕掛けている。
「重さにやられ、腕が千切れたのなら、蹴ってでも破壊しろ! 脚が千切れたのなら体当たりしてでも破壊しろ!」
「おおおおおおおおお!」
さらにサルタヒコの檄が飛ぶ!
それに応える皆も、まだまだ勢いの衰退は見えない。
士気の高さは十分だ。
後は僕が選ばれたものとして、それを導き望むものへ繋ぐ。
それが僕の責務だ。
「聞いていますか、お婆様。お婆様は他者を見下しぞんざいに扱う。今だってそうだ。ここに集った皆を雑魚だと言い、雑魚がいくら集まっても何も変わらないとも言った」
また少し、杭の勢いが強くなった。聞こえている証拠だ。それは、聞く気はない、黙れと言っていることを表している。
聞く気が無くても関係ない。聞こえているなら、僕の声を届けてやる。
勢いが強まった杭に負けじと、力一杯フツノミタマを振るって砕きながら続ける。
「そんなことはない! 集まった個々の力はこうして抗っている。現に、お婆様が言う雑魚をまだ潰せていないのがその証拠だ!」
「そうだぜ、そもそも俺たちは雑魚なんかじゃあねぇ!」
「私たちに追い詰められてたこと、忘れたの?」
ヤマトとサクヤも手を止めずに言った。
「お婆様、あなたの敗因は自分を至高だと勘違いし、それに気づかず、個の力に執着したこと。それと、他者を見下し、遠ざけ、虐げてきたことだ!」
「妾の敗因じゃと? そんなものは勝ってから言うがよい! 尤も、貴様らが勝つことなどあり得はせぬがな!」
「僕たちは必ずお婆様に勝つ! その時にもう一度言ってやるさ!」




