最初の霊魂騎士
最初の霊魂騎士?
一体何千年前から存在しているというんだ。それほどの時間が経過しているというのに全く綻びを感じさせないし、最新鋭機の僕の金閃公よりも高性能さを感じさせる。
もちろん、サクヤが変身したスサノオ様の意思のこもった青藍一式よりもだ。
「一つ、教えてやろうかの。貴様の金閃公と搭載されているコトアマツカミ、それは本来妾が更なる高みへと至るために開発させたものじゃ」
「どういうこと?」
更なる高みって大神の先に何があるっていうんだ?
「妾が大神の座につき数千年。一番の神として権威を保ってきたがそれでは足りぬのじゃ」
そう、その権威とやらのためにお婆様は、自分以外は何とも思わぬことを何度も繰り返し続けてきた。それだけやってまだ何が足りないというんだ。
「かつての大神が成したような偉業。それをせずして、それを超えずして、なぜ一番と言える?」
お婆様はまるで自分のことを憂うような声音で言った。
「偉業ってのはなんなんだよ?」
「知らぬか。まぁよい所詮は人間じゃ。この世界そのものを創り出したのが、最初の大神コトアマツカミじゃ。それにあやかって開発したシステムに名付けたのが『コトアマツカミ』じゃ。そして次の大神は創り出された世界に理を作った。その次、妾の父母であった大神はそれらを完成形にまで持って行ったのじゃ」
「そりゃあすげぇな。なら、あんたにゃ偉業を成し遂げるのは無理だ。さっさとその大神の座をニニギに渡しやがれ! 偉業を成すのはニニギだぜ? 暴神? 愚神? どっちでもいいか。そのあんたを倒して平穏をもたらすっていう偉業をな!」
「ほざけ」
「いや別に僕は偉業を成したいわけじゃあないんだけど。別に一番の大神じゃなくていいし。けど、お婆様、あなたを倒して圧政からこの世を解放する、そして僕が大神になってより良い世界にするっていうのは絶対だ」
「議論はするだけ無駄じゃな」
同感だ。端から話し合いで解決するとは思っていない。そうでなければもっと穏便に事を運んでいた。
「ヤマト!」
「ああ、わかってる」
なにをしてくるか全くわからない。その情報を集める必要もあるけど、先手必勝で倒すくらいの気持ちで攻撃だ。
「コトアマツカミ起動!」
六次元まで移行し、すぐに予知を始める。
未来は……なにも行動がない⁉ そんな馬鹿なことが。
「おい、なに止まってんだよ。速攻だって言っただろ?」
それで動きを止めてしまった僕に、お婆様に突撃しながらヤマトが言った。
「ダメだ、ヤマト止まって!」
動いてはいないけど、何もしないなんてあり得ない。きっとわからない何かが起こるんだ。
なにせ相手は大神、十次元の存在だ。僕たちとは文字通り次元が違う。
「あ? うおっ⁉ くそ、何だってんだ!」
瞬間、僕の制止は間に合わず、青藍一式は真横に飛んでいった。
「なに、ちょっとした余興じゃ。人間は弄ぶくらいがよい」
ほほほ、と上品に高笑いするお婆様。余裕だな。油断している。油断しているけどどうしようもない。
敵を前にして油断できるのは、油断していても問題ないから。
油断が油断にもならない。
何が起きているのかわからないことをどうにかしたいけど、多分すぐに理解できるようなことじゃない。
だから、これ以上未来を見ても意味がない。何かわからないことだけが分かるだけだから。
見るとしたら僕自身とヤマトだ。
少なくとも何かをされた結果、どうなるかくらいは見える。
「さっきは速攻って言ったけど、迂闊に動かないで行こう」
「だな」
まずは分析からだ。
分かっているのは天帝黒陽孁が高次元の能力で何か分からない攻撃をしてくること。
それ以外の機体性能は不明だけど、僕たちの霊魂騎士より上だとみていいと思う。
武装も今のところ見受けられない。丸腰の状態だけど、これも何かあると思っていい。
出てくるとすれば霊剣なんかの特別な武器装備だろう。
それについては僕たちもアメノハバキリとフツノミタマがあるから渡り合えはする。
技量についてはお婆様より僕たちが勝っているはずだ。
本来、お婆様は戦士ではないから霊魂騎士で戦う必要はない。その必要がないということは戦う技術を持つことはない。
取りあえずはこんなところだ。必要な情報が圧倒的に足りていない。
兎にも角にも情報を集めることが必要だ。
何をされているのかわからなければ対策のしようがない。
「サクヤ、その機体って遠距離攻撃とかできたりする?」
肉弾戦がメインの霊魂騎士にとって、遠距離武器なんて必要ないものだから無用。僕の金閃公にも備わっていない。
でも、特別過ぎるサクヤが変身して生み出した機体ならあるかもしれない。
「多分、ていうか、ないわね」
そんな僕の期待は潰えた。
「どうする、遠距離攻撃が必要なら最初の時みたいに投げるか?」
「今考えたらアメノハバキリを投げつけるってとんでもないことだよね」
「却下に決まってるでしょ」
「じゃあどうすんだよ」
「僕が探る。六次元で手に入れた能力ならいけるはずだから」
「あのよく分かんねぇやつか」
それならいけるんじゃないかということで二人の了承を得て実行にかかる。
「何をしようとも無駄なのじゃがな。その二振り、アメノハバキリとフツノミタマのようじゃが、それも届かぬことにはさして意味はない。それが妾に届くことはまずないであろうしのぅ」
まずは自分の未来を見る。
何しなければ上に飛び上がって……いや、違う、飛んでいるんじゃあなくて引っ張られているみたいな。その後は凄い速度で、引っ張られているように上下左右、に移動移動移動。
しかも、引っ張られる速度が以上に速い。途中から訳が分からなくなった。
あの速度は、この金閃公の最大出力で出せる速さをはるかに凌駕している。
負荷がかかり過ぎるから使ったことはないけど、限界出力よりもさらに上。
機体もあり得ない方向に曲がっていた。あの速度に耐え兼ねっていうのもあるけど、それとは違う力も働いている気がする。
とまぁ、見えた未来はこんな感じだ。
一言でいうなら、死。
あれだけのことをされて無事でいられるわけがない。
始まりがわからない以上、回避のしようがないぞ。
それはつまり回避のビジョンが見えないということ。それでは完全回避の未来を創造することができず、その未来にたどり着くことができない。
いや、回避でなく元の状態に戻っていることを想像してその未来にたどり着ければ……。
それもダメだ。
タケミカヅチとの戦いは例えば、横薙ぎの攻撃であれば後ろに下がるなり、飛ぶなり、屈むなりと回避の方法はあった。完全回避の結果が訪れるのはそれを理解していたから、その状況がどうであれ望む未来へ到達することができる。
つまり見えない過程の中にもちゃんと筋は通っているということだ。
けど、お婆様のこれは違う。
考えられる選択肢の一つも見えやしない。
これじゃあ繋がらない。
「ふむ、理解したようじゃな」
「どういうことだよ?」
「タケミカヅチとの戦いで見せた、六次元の能力を使ってもどうにもならない。どうしようもないってことだよ」
「っ嘘だろ⁉」
「本当だ。お婆様には僕らの常識は通用しない」
なにせ、常識の外にある力なんだから。
「脆いものよの。どれ、引導を渡すとしようかの」
嘲笑交じりにお婆様が言う。




