六次元へ
「さて、どうする? ニニギ」
試すようなタケミカヅチの言葉。
武器を失った。相手がただの霊魂騎士ならまだしも、武双だ。徒手空拳の戦法なんて効果がない。あの装甲を前にこちらが損害を被るのは目に見えている。
仮に装甲を突破できるにしても、そもそものパワーが違う。最早話にもならないだろう。
タケミカヅチもそれが分かっている。分かっているから、どうするのか、と問うているのだ。
それはが意味するのは、諦めろということだ。
だが、そういうわけにもいかない。こんな序盤で、挫けるわけにはいかないんだ。
僕の思考がが導き出したのは一つ。
コトアマツカミだ。
この装置はまだ能力の全てを出し切っていない。
不安要素は多分にあるが、それにすがるしかなかった。
「……コトアマツカミ!」
「勾玉が二つか。六次元まで行くようだな」
最初に一つだけ残ってあとは球体に入り込んでいったのはこういうことか。次元を上げていくたびに一つずつ出現する。
どうやらこれで六次元に至ったようだけど、その力はいまいちわからない。
「が、やはりまだ能力はつかめてはいないようだな。今のうちに、殺す」
「ニニギ!」
少し、反応が遅れた。とにかく回避を。
「遅い! 気を切らしたのが貴様の敗因だ」
フツ。胴体が切断される。さらに止めとコックピットのある胸部にフツノミタマの切っ先が向けられた。機体が崩れ落ち、地面に衝突した衝撃がコックピットを揺らす。モニターに移る景色が途切れ途切れになる中、最後に迫ってくるフツノミタマが映った。
「馬鹿な⁉」
気が付いたときにはモニターに、狼狽するタケミカヅチの武双が映っていた。
僕自身も困惑している。
一体どういうことなんだ。さっき確実に機体の胴体を切断され、コックピットにフツノミタマを突き立てられ止めを刺されたはずだった。
それなのに、さっき立っていた位置とは少しずれた位置にいた。
ヤマトも、サクヤも、オリタさんたちもこの場にいる全員が戸惑っている。
「……それが六次元の領域、というわけか」
しばしの静寂を経てタケミカヅチが言った。
僕もそうだとしか思えない。
けど、何がどうなってこうなったのかが全く分からない。
「六次元だろうが何だろうが斬るのがオレの役目だ」
そう言うとタケミカヅチはフツノミタマを構え直した。
とにかく、戦わなければならない。まだ、戦えるから。終わっていないから。
六次元の存在になったからといって、五次元の存在のときに使えていた力が使えなくなるわけじゃあない。
先の動きはこれまでと同じように見える。
タケミカヅチはスラスターを噴かせて、左右にジグザグ運動を繰り返し距離を詰めてくる。
そこから繰り出されるのは右への斬り払い。そこから半分捻っての斬り落とし。
今の僕には武装がないから回避しか選択肢はない。
恐らくあのジグザグ運動は横でも前後でもどこに逃げても対応するための行動。一番手っ取り早いのは、完全な間合いからの離脱。
最大出力ではないが、通常より高い出力でスラスターを噴かして離脱する。
「ッ⁉」
その直前、フツノミタマが胸部を掠めかけた。
腕一本分軽くなったせいか武双の動きが若干速くなっているようだ。
正に紙一重で何とかなったが、そこは見直さないといけないな。
「オレの投げた大戦斧を拾ったか」
この場に残っている武器は大戦斧しかなかった。回避行動で距離を取った先にあったものだ。
回収はまずさせてくれないと思ってたけど、武器の確保に成功した。
させてくれないと思っていたことができたってことは、タケミカヅチの余裕を奪っているってことか。
いい加減、決着をつけないと。
この重量級の武器は辛うじて扱えるけど、金閃公の規格に合わせて作られたものじゃあないからバランスが取りにくい。
ないよりは随分とマシだけど、正直どこまでやれるか。
まだ、掴めてはいないけど、六次元になって得た力とヤマトのアメノハバキリ。この二つに頼るしかない。
六次元の力と言うのは分析してみるに、五次元で未来が見えるなら、その先の六次元はそれより上の力と考えるのが普通だ。
五次元の能力は見れるだけで、その結果を得ようとするならばそうなるように行動することが必要だった。
だとすれば六次元の能力とは未来が見えて、自分が望む未来を得られる力くらいにはなるんじゃあないか?
さっき斬られた時もなぜか無事だったのは、そうあることを無意(識の(・)う(・)ち(・)に(・)望ん(・)だ(・)から。
そうだとするなら、勝負は決まる。
単純に僕がタケミカヅチに勝利する未来を望めばその結果になるから。
多分、やり方は未来を見るときのような感覚でやればできる。
「もう、決着をつけようか」
「そうだな。その場合、貴様らの敗北と言う形でだが」
「それは俺らのセリフだっっつーの!」
お互いがスラスターによる加速で一気に距離を詰める。
予知で見えたタケミカヅチの動きは外から大きく左に斬り払い、右上へ切り上げて斬り落としの三段攻撃。
まずは回避を最優先に、望んだ未来に到達する仮説を確かめる。
だから本気の回避行動。
それでもあの攻撃は掠めるくらいに速く、脅威だ。
もし、仮説が正しかったとしたら掠めても完全回避した状態になっているはず。
そうでなければまた考えないといけなくなるけど、正しければ攻撃に転用して勝利だ。
「予知通りに動いたか。もうその手は通用せんぞ」
半ばその考えは読まれていたようで、すぐに僕の動きに合わせた攻撃に切り替えられた。
僕もそれは織り込み済みだ。
突きを左に躱し、左薙ぎ払いを回転するように右側に回避。さらに、スラスターの噴射とわずかに上体に捻りを加えたことにより加速した斬り払いを下がることで回避する。
――フツ。
やっぱり掠ったか。左腕の外部装甲の一部が小さく見事なまでに綺麗にパックリと斬れていた。
それはいい。本題はここからだ。
ここまでの一連の動作が全て終了した時、斬られた左腕を見ると、あったはずの損傷が見られなかった。
やっぱりだ。仮説は概ね正しかった。
これを攻撃に転用すれば。
僕に攻撃したあと斬りこんできたヤマトと打ち合うタケミカヅチ。そこに僕が割り込んで行った場合は、当然のようにカウンターが待っている未来が見える。
けど、関係ない。
「終わりだ、タケミカヅチ!」
繰り出されるカウンターに、なんの対策もなく無防備に飛びこむ。
僕に対して斬り落としが見舞われる。
激戦のうちにしみ込んだ防衛本能に駆られて無意識のうちに体が反応して回避行動をとってしまったけど、間に合わない。
唐竹割りのようにフツ、と一刀両断された。
直前に回避行動をとったからかコックピットからは横に逸れたけど、こうなってしまっては終わりだ。直後に爆発が起こるだろう。
けど――
「あれ?」




