次元戦闘
予知からの予測、読み合いの究極形とでもいうべき戦いが、僕とタケミカヅチの間で繰り広げられていた。
斬って、躱して、予想したところに構えてカウンター。もしくは出端をくじいての攻撃。
それの繰り返しだった。
その中で五次元としての僕の練度はみるみる上昇していき、今では十数秒先の未来まで見ることができるようになった。それはタケミカヅチも同じなんだけど。
けど、ヤマトの介入もあってか、圧倒的に開いていた差は頂を拝めるくらいまでには縮まっていた。
ヤマトもタケミカヅチがやっていた、地面を砕いてできた岩の破片を飛ばす技術なんかをまねるようになった。
一秒にも満たない短い時間の中で、未来を見てからさらに相手の動きを予測し合っている。これは言うまでもなく、どっと疲れがのしかかってくる戦いだ。
常に全体に注意を払いながら、それをこなしているタケミカヅチにはなおさらだ。
「サクヤ、もっと出力上げれるか?」
大きな声でヤマトが言った。
「できるけど。大丈夫なの? ちゃんと制御できるの?」
「だからできるかって聞いてんだ」
「わかった、任せて」
「おらぁぁぁぁ‼」
僕の攻撃を防ぎ反撃したところに、青藍一式が精一杯矛を振りかぶり、突っ込んだ。
結局、矛の初撃はそれが一番強い。斬り合いの一撃目を打ち込むのに小細工はいらない。見ていて分かったことだ。
攻撃を出し切った後が一番無防備になる。ヤマトはいいタイミングを狙った。
だが、タケミカヅチはそれでは倒せない。倒せるかどうかはその後の動きにかかってくる。
二対一という圧倒的有利な状況だから、どちらかが戦っている間に、もう一方が相手の隙をついて仕留める。常套手段だ。これで勝負が決まる。
しかし、武神にはこれが通用しない。倒そうと思ったら、これよりもう一歩先に行かなければ倒せない。隙をついたはずなのに反応して対処してくるタケミカヅチにさらにもう一撃、有効打を叩き込むくらいしないと通用しない。
その足りない何かがまだ見つけられずにいるわけだけど。
とにかく、崩しの一撃目だ。
「タイミングはよくなってきているが、それはもう何度目だ? 来ることが分かっていればオレには通用しない」
そう言ってタケミカヅチは矛の軌道上に大刀を持っていった。
ゴガガっと矛と大刀がぶつかり合う。
どれ程タイミングを合わせようと、防がれてしまうのだ。
当然、このタイミングで僕も仕掛けているけど、
「貴様も同じだ。その程度ではオレには届かん」
「くっ」
出の早い突き技による局所攻撃も、簡単にピンポイントで防がれてしまう。
今のは完全に僕のミスだ。未来を見るべきだった。同じく未来を見られるタケミカヅチに奇襲の類は通用しないというのに。
なら、やっぱり主攻はヤマトに務めてもらうべきか。
ヤマトは未来が見えるわけではないから、従来の経験と予測で対処できる。だからタケミカヅチは予知の力を使わない。というより、僕に対してしか力を使わないし、周りには使いたくても使えないんだ。
五次元の未来を見る力は、一度につき一つの対象にしか使うことができないとみるべきだ。練度が上がれば、その限りではなくなるのかもしれないけど、現状は一つの対象にしか使えないというところだ。
見えるだけじゃ、大して意味はない。一瞬で見えたことに対して正しい選択をしないといけないから。その情報量が多すぎると、それを実行することは不可能に近い。
そういうことだ。
「まだまだ終わりじゃねぇぞ! サクヤ!」
ヤマトが叫ぶ。
「まだ行くの?」
「ああ、限界まで上げてくれ!」
「わかったわ!」
僕の太刀を弾いた直後のタケミカヅチに、再びヤマトの矛が襲い掛かる。
「どらぁぁぁぁぁ‼」
「ぐうっ」
その一撃はしっかりと大刀で防がれていたが、力でもって防御を叩きつぶした。武双が持つ二振りある大刀のうち一振りが砕ける。
「くそっ」
完全に叩き潰される前に何とか離脱したタケミカヅチだったが、これはこちらにとって反撃の絶好の機会だ。
どうせ僕の動きは見られているから決め手になることはないけど、一つの未来を取り合うことで、他の数多ある可能性からそこにタケミカヅチの行動を誘導することができる。僕もその一つに誘導されているんだけど、僕には見えていないことでそれにとらわれていない仲間がいる。
それがこの勝負の行方を分ける大きな差だ。
「完全に力負けだと⁉ だが」
やはり僕の攻撃は残ったもう一振りの大刀で受け止められる。
もう一合打ち合って距離を取った。
これは、かなり押してきている。今打ち合ったのと、戦いが始まったころに打ち合ったので感覚が少し違っていた。
多分、今のヤマトの渾身の一撃を受け止めたときに、武双腕の内部骨格や一部のパーツが少しイカレたんだと思う。
それに防戦一方になってきているって感じだ。
次の未来は、ヤマトの攻撃で残った大刀も砕かれる、か。
攻めるなら絶対ここだ。これでなにか隠し玉でもなければ、残ったタケミカヅチの武装は腰に下げてある剣のみ。
大刀を失った瞬間に僕が仕掛けるのは確実に読んでいるはず。
けど、どうやってもその状態からは抜刀斬りしか選択肢はない。
右斜め上に向かっての斬り上げまでは見えた。
その動作が始まると同時に、右下にできる空間に潜り込んで斬ってしまえば勝負はつくけど、そうはいかない。
あの状態から取れる動きはもう一つある。左斜め上からの袈裟斬りだ。
それらのタケミカヅチの動きに対する対応は考えている。
僕の金閃公の予備武器の剣を大刀が破壊された瞬間に投げつける。それは見られているだろうから予想される斬り上げか袈裟斬りのどちらかで剣を打ち落とす。
それを待ってから僕が斬りかかる。
見えた未来の中にヤマトの行動が入っていなかったから、すぐに攻撃を再開させられなかったということだろうけど、遠距離攻撃でワンアクション置いて僕が攻撃することで、普通に仕掛けるより長い時間僕に注意を大きく向けさせられる。
それがあればヤマトも再度攻撃を仕掛けられるだろう。
……これは勝てる。
これで勝てると思ったのは、青藍一式がタケミカヅチの武双を力で完全に凌駕したから。
さっきも瞬間的出力向上を使っていたようだけど、それも上から抑えこんでいる。
残りの武器が一つになったところで攻撃を加えれば完全に突破できる。
「行け!」
「無駄だ。すべてな!」
予想通り、僕の投げた剣はタケミカヅチの抜刀斬りによって打ち落とされたけど……。
「なんだよ、あれ」
ヤマトがこぼしたように僕も思う。
今、鞘から抜かれたあの剣の放つ気配が尋常じゃあなかった。