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魂魄機動 霊魂騎士ーソウルナイトー  作者: ワンサイドマウンテン
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コトアマツカミ起動

「これ以上はやらせない。ここでコトアマツカミを使う!」


「分かった!」


 その暇は与えないとばかりにタケミカヅチは、抜刀した二振りの大刀を地面に引きずりながらダッシュし、勢いよく振りぬくことで地面の破片の弾丸を飛ばして牽制してくる。


「それはもう効かねぇぜ!」


 飛んできた破片をヤマトが矛で薙ぎ払い砕く。


「大振りに振りぬいて、隙だらけだぞ、小僧!」


「僕がいる!」


 大刀と太刀がぶつかり合う。瞬間的に力の向上を使われて押し負ける前に!


「コトアマツカミ起動!」


 コックピットの下、機体の腹部から黒い輝きが漏れ始め、真っ黒な直径二メートルほどの球体が出現した。


「でるか、完成版コトアマツカミ。オレもどの程度まで至ったのか知らんのだ。どこまでいったのか、興味がある」


 僕がコトアマツカミを起動すると同時に、鍔迫り合いだったタケミカヅチは下がり、見物の姿勢をとった。


「いいのか? 戦闘中だぜ!」


 そんなタケミカヅチにヤマトは攻撃を仕掛けたが――


「心配するな。誰一人としてマークは外してはいない」


 矛を掴まれ力の向かう方向へ投げられ、青藍一式はくるりと空中で一回転し地面に落ちた。


「軽いな。まぁ、そこでゆっくり見ておけ。これから目にするのは、高天原の持つ技術をすべてつぎ込んだ最新のシステムだ。半分人間に渡ってしまった様なものだが、この後、オレが取り返す」


 地面にうつ俯せに転んだ青藍一式を上から押さえつけてタケミカヅチが言った。


「くそ、動けねぇ。サクヤ」


「無理、重心を抑えられてる」


 こうして、僕が奥の手を使っている状態でも尚、タケミカヅチは動じず己の武を見せつけてくる。

 完全な起動はまだか⁉

 出現した真っ黒な球体は、五つの勾玉をその周りに出現させたかと思うと一つだけがとどまり、四つは球体の中に入っていった。

 そして、ゆっくりと上昇していきモニターから外れ、恐らく機体の頭上で上昇を停止した。武双の

視線を見ればわかる。


「……それが完成品のコトアマツカミか。オレの機体に搭載されている試作品とはやはり違うな」


「試作品って言ってもお前も持ってんのかよ、あれ⁉」


 ヤマトの声に応えるようにタケミカヅチは言った。


「見せてやろう。コトアマツカミ起動!」


 タケミカヅチもコトアマツカミを起動⁉ 当然か。向こうも持っている以上、こっちが使ったのなら使うだろう。

 試作品のためか僕のものとは少し違う。

 真っ黒な球体が腹部から出現するのは同じだけど、輝きを放っていないのと、出現した勾玉の数が最初から一つだけだ。

 それがどういう意味を示しているのか、分からない。


「この力がどういうものか説明してやろう。コトアマツカミは高次元に至るシステムだ。出現した勾玉の数だけ上の次元へと至れる。試作品で高次元へ到達することに成功した。なら、完成品は何次元まで行けるのか、答えは五つ上の次元までようだな」


 高次元へ至るためのシステム? それはつまりどういうことなんだ?


「人間は三次元の存在だ。そして、悠久の時を過ごせる我々神は時間軸の加わった四次元の存在。そのシステムはそこから霊魂騎士を介して、さらに上の次元に到達できるようにするものだ」


「そこからさらに上の次元の存在って、大神⁉ そんな馬鹿な⁉ お婆様がそんなことを許すはずがない!」


「ああ、だから言っただろ。完成品はどこまで至れるようになったか、とな。勾玉が五つということは九次元まで。つまり、十次元の存在である大神には及ばない。アマテラス様はギリギリまでを求められたようだ。そもそも、神工的に大神と同じ次元に至ることなど不可能な話だが」


「ということはお前は五次元までしか行けねぇんだろ? なら、どうやっても九次元まで行けるニニギに勝ち目はねぇじゃん」


「そう簡単なものではない。これはいわば進化のようなものだ。普通の進化は長い時間をかけて徐々に変わっていくだろ? 少しずつ新たな肉体に馴らしていくためだ。これは一気に到達する分、なかなか肉体が追い付けない。あくまで霊魂騎士を介して疑似的に高次元に到達しただけだから尚更な」


「一朝一夕じゃあどうにもならねぇってか?」


「そういうことだ。つまり、何度か使用したオレに分があるということだ」


 流石にそう都合のいいものじゃあないか。けど――


「オ(・)レ(・)に(・)は(・)()て(・)な(・)い(・)、じゃなくてオ(・)レ(・)に(・)()が(・)あ(・)る(・)、ってことはタケミカヅチもまだ慣れ切ってないんじゃないの?」


 そう、今までは「オレには及ばない」「オレには勝てない」とか確定事項だと言っていたタケミカヅチが「オレに分がある」と、初めて結果が確定していない発言をした。

 まだ大丈夫だ、と余裕がなくなってきている感じだろうか。

 とにかく、コトアマツカミを使用しての戦闘なら戦闘経験はあまり変わらない。まぁ、〇と一じゃあ差は大きいけど。

 さっきまでの戦闘は万の経験に一で挑んだようなものだけど。そう思えば絶対的にどうにかならないようには思えない。


「……高次元の戦いを甘く見ているようだな。まぁ、今すぐにわかる」


 タケミカヅチほどの神でも難しいことで。未だに扱いきれていない、と告げられた。

 事実、僕も起動はしたものの五次元の存在になったという実感はない。


「五次元の存在に至れば、今とは違う別の世界を認識することができる。……要するに未来を見ることができるということだ。熟練パイロットの未来予測などが塵に等しく思える力だ」


 なるほど、今ではない世界。すなわち未来か。


「これにも練度はある。どこまで未来が見えるか、だ。この五次元同士の戦いではそれが勝敗を分ける」


 それでは仮に僕の練度が一で一秒後の未来が見えるとすると、仮にタケミカヅチの練度を二とした時にタケミカヅチは二秒後の未来が見える。

 お互いに未来が見えるのだから成立しないかと思うが成立はする。それが今わかった。

 見えた未来はあくまで可能性の存在。どう行動するかによって自分の思う通りに進むかそうじゃないかに別れる。


 僕が一秒後の未来を確定させるために動くことは、二秒後の未来が見えるタケミカヅチにはわかっている。当然、それに対処するように動くだろう。

 そうなったとき、確定する未来はタケミカヅチの思ったとおりの未来になるというわけだ。

 これは練度の差がモロに出るというより、そのまま決着に繋がる。

 それだというのに、タケミカヅチが「オレに分がある」という言い方をしたのはどういうことだろうか。

 それだけじゃあないということだろうか。


「これくらいでいいだろう。決着といこうか」


 タケミカヅチは押さえていた青藍一式を解放して二振りの大刀を構えた。

 来る!

 未来を見る、か。どうすれば……ってこれは。

 右の大刀を袈裟に振り下ろす映像。


 それが頭に流れ込んできた。これが未来。左の大刀は右上への切り上げを行うために構えているのも見える。

 わかっているなら対処は簡単だ。この機体ならタケミカヅチの動きに反応することも十分可能。

 けど、僕よりもさらに先の未来が見えているタケミカヅチは僕の動きに対する行動に変えてくるだろう。僕の見た未来は意味がない。


 そのまま受け止めるのなら、の話だけど。

 あくまで可能性の話だけど、僕より少し先、具体的には僕の見たタケミカヅチの行動に対する僕の行動まで見えているとしたらさらにその先は見えていない。多分、あの口ぶりだとそう長くは見れないはずだ。


 そこについては確実な対処はされにくいということだ。

 僕がやるのは、見えた未来の先を予測すること。情報はある。なら、どういう風に動いて来るか予測することは可能だ。

 右の袈裟斬りからの切り上げは、後ろに下がって左に行けば回避が成功し、反撃することも可能だ。


 けど、そう動くことは見られている。それにどう切り返してくるのかを予測してやれば対処はできる。未来は絶対じゃないから、見えることで思う通りに持っていきやすくなるというだけの話。

 予測できるのは主に二パターン。

 まず、初手が袈裟斬りではなく刺突。後ろに下がるのだから前に突き出せば僕の回避は上手くいき、タケミカヅチの攻撃は仕方は失敗ということになる。


 二つ目は、袈裟斬りの後に切り上げではなく左薙ぎ。僕が回避した方向に向かって攻撃が来るのだから避けようがない。

 さっきのヤマトみたいに攻撃の速度を上回る速さで動けば別だけど。

 と、ほんの一瞬の間にここまで思考を展開できるのも、五次元の存在に至ったためだろうか。脳の処理速度が向上している。

 やってきたのは袈裟斬り。ということはパターン二の可能性が高い。

 僕が取るべき手段は……。

 直後、轟音が響いた。


「ニニギ!」


 ヤマトの叫び声が聞こえる。

 ヤマトから見れば僕とタケミカヅチは、轟音とともに発生した大量の砂煙の中にいて安否がわからない状態だ。


「ほう」


 そうこぼしたタケミカヅチの顔は見えないが多分、ニヤリと笑っている。そんな気がした。


「まだまだ粗いが、一応形にはしたか。見事なものだ。貴様の潜在能力(ポテンシャル)には驚かされる」


 響いた轟音は、僕の太刀がタケミカヅチの大刀を弾いた音だった。

 今のはタケミカヅチがやってみせた瞬間的出力の向上。それを真似た。咄嗟のことだったけどなんとか形にはなったようで助かった。

 予測だけじゃなくて、そこからさらに裏をかくくらいしないとタケミカヅチには届かない。


「オレに分があると言ったのはこういうことだった。ここからは五次元の存在ということを踏まえての、パイロットとしての技量勝負だ」


 タケミカヅチに認められたということだろうか。


「全体的に拙いがオレから悉くを盗みギリギリで喰らいついてくることは評価に値する。そこの人間。貴様もだ。貴様からも拙いがニニギとは違った脅威の片鱗を感じる。このオレを楽しませる存在だ。存分にかかって来るがいい」


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