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魂魄機動 霊魂騎士ーソウルナイトー  作者: ワンサイドマウンテン
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発令 アマツミカボシ

 すべてが決まった後、僕は再びフジサワまで戻った。

 参戦が非公式のヤマトとサクヤに、作戦を伝えるためだ。

 そもそも、僕の機体がフジサワにあるのと、その関係で出撃地点がフジサワになったから自然なことだけど。


 すっかり夜も更け街の明かりも消え、いよいよ病院から臨める海も真っ黒になった十一時前。サクヤには後で戻るから、と言ってヤマトを呼んでもらっている。


「お、来たか」


「ごめん、遅くなった」


「ううん、作戦は決まった?」


 サクヤの体調もすっかり良くなっているようだ。


「二人には最初に言っておくけど、公式に二人の参戦は認められない。だけど、作戦の開始に合わせて強引についてくれば黙認してくれるって」


「まぁ、俺ら立場は民間人だからな」


「作戦の開始時刻を教えるから、その時間に僕の機体が収容されている軍の施設の近くに来て。そこから出撃することになってるから。開始時刻は四時四十五分」


「任せとけ!」


「ギリギリまで人の姿でいられるから出撃と同時に変身すれば問題ないね」


 僕たちは顔を見合わせて破顔した。気分としては、大人には内緒で企みをする子供のような感じ。高校なんてとっくに卒業したのに、なんだかあの頃みたいだ。


「あ、そうだ。肝心の作戦について聞いてなかった。向こうに行ってからどうすりゃいいんだ?」


「私たち高天原のこと、何にも知らないしね」


 と、そんな風に感慨深いものに浸るのも束の間、話を前に進める。


「高天原に入ったらすぐ、入り口でタケミカヅチと戦うことになる」


「……いきなり武神との戦いかよ」


「テンション下がるわね」


 さっきまでの意気込みはどこへやら。二人は分かりやすく沈んだ。

 ヨコハマでの作戦会議の時もそうだが、いきなり武神と戦うと言われれば誰だってそうなる。僕だって嫌だ。


「でも、タケミカヅチさえ倒してしまえば、あとは一気にお婆様のところまで行けるはずだから」


「武神以外にも戦力はいたはずだろ?」


「タケミカヅチが倒れれば、他はきっと揺れる。そうしたら立ち塞がるのはせいぜいお婆様の近衛くらい。近衛の相手は軍の人たちがしてくれるから、僕たちはお婆様のところへ行く」


「最初さえ乗り越えりゃ、一気に大将のとこに行けるってわけか」


「それなら行けるって感じで言ってるけど、武神の力はヤマトも見たでしょ? ちゃんと気を引き締めなさいよ? 私たち、まだ一回しか戦ってないんだから」


 あの時は戦ったと言っても矛を投げたくらい。いわゆる戦闘行為はほぼしていないに等しい。僕も実戦はたったの二回だけど。


 戦いのイロハはタケミカヅチにみっちり叩き込まれたけど、いざ実践となるとそこはやはり経験値がものをいう。

 けど、強敵との戦いは乗り越えれば劇的に成長すると言うし、戦いの中で強くなるしかない。


 無茶苦茶な方法だけど、それしかないんだからやる。やってみせる。

 ヤマトとサクヤの方だけど、サクヤは何をどうすればいいかが自然にわかったって言ってたから、それほど心配はいらないかな。サポートありきみたいだったけど、初めてでも上手く扱えてたヤマトも同じく。案外、そういう才能が元からあったのかもしれない。


 となるとやっぱり僕の方が問題だ。

 タケミカヅチにも言われたけど、僕が機体の性能に追い付いていない。

 これじゃあコトアマツカミを使うなんてとても。

 考えたところでどうにかなる問題じゃあない。なら、考えるだけ無駄だ。


 きっとお婆様は、「言っていることに追い付いていないにもかかわらず挑もうとする愚者だ」と嗤うだろうけど、それを成し遂げてしまうのが英雄だ。愚者と英雄は紙一重。


 そこに理由なんてない。楽観的なわけでもない、初めからそうなるしか、選択肢は用意されていないから。


「無茶を言うようだけど、戦いの中で慣れていくしかないよ。最初でやられなかったら、望みはある」


「そうだな。俺ら人間からしたらもう、崖っぷちなんだし。今更そんな崖っぷちで動じてられるかってんだ」


「あと一つ、気になってたことがあるんだけど。変身したサクヤの機体って、なにを動力にしてるの? 稼働時間とかの問題はすごく大事なんだけど」


「あー、確かに。人間側の霊魂騎士って電力で動いてるもんな。でも、そんなもん使った覚えはないし」


「んー、よくわかんない。けど、精神的にごっそり持っていかれた感じだった、かな?」


「僕ら神と同じような感じか」


 それが本当ならサクヤにも神力があることになる。そうだとしたらサクヤは……。


「初めてだったから疲れたけど、次はもっと行けるから大丈夫、安心して!」


「作戦時間は人間たちの霊魂騎士の稼働時間を考えて、五時間弱だと思って。それ以上長引いたら失敗だ」


「わかった」


 これでだいたいの打ち合わせは終わりかな。いや、一つ忘れていた。


「変身した機体になにか特殊な機能とかはない?」


「特になかったな。超攻撃特化の(パワー)と大出力。あとは速さがあるなって思ったくらいだ」


「私の方でも特にないわ。ただ、攻撃に特化している分、防御面に不安があるくらい」


「わかった。僕の機体には「コトアマツカミ」っていう、それ一つで戦局を左右するような新システムが搭載されているから。そっちの機体も特殊だし、なにかあるかなって思ったんだ」


「つまり、必殺技って感じか? いいなぁ! 俺たちもどうにかなんねぇのか、サクヤ」


「無茶言わないでよ」


「……あはは。とにかく、伝えることは全部伝えたから。また明日、よろしく頼むよ」


「ああ」


「うん」


 なんだか懐かしいやり取りをしたあと、僕は病院を後にした。



 二人の元を離れた後、少しの休息をとっていよいよ出撃の準備に移る。

 訪れたのは霊魂騎士のドック。作戦に向けて、整備士の人たちが夜通しで出撃する霊魂騎士の整備や改装を行ってくれていた。


「おはようございます。仕上がってますか?」


「これは、ニニギ様。はい、万全ですよ。ニニギ様の機体は、特に念入りに整備させてもらいました!」


「ははは、それじゃあ他の人たちがかわいそうですよ」


「もちろん、他の機体もいつも以上に仕上げてありますよ! しっかり使ってやってください。整備士泣かせくらいがちょうどいいんですから!」


 整備士泣かせくらいがちょうどいい。高天原でも聞いた言葉だ。職人と言うのは神も人も関係ないんだな。等しく同じ。

 こうした歴とした事実があるというのに、それが当たり前にできていない。

 出撃前にそれを目の当たりにすることでより気合が入った。



 ドックには僕の機体も含めて十三機の霊魂騎士が鎮座していた。足元にはまだ、整備や改装の後、片付けられていない工具やパーツなんかがちらほら散らばっている。


 そこから、作戦のために夜通しでの作業だったらしいけど、ギリギリだったのだということが伺える。

 しかし、こうしてみると改めて思う。一年足らずで霊魂騎士をここまで持ってこれたものだ。


 戦艦大和や零戦の時もそうだけど、日本人の技術力は半端じゃない。確か、あの時もお婆様が原型のようなものを授けたけど、短期間であそこまで昇華させていた。


 パイロットの練度を見るに、霊魂騎士は早い段階から試験機を稼働させていたようだ。

 そんなことを思っていると、作戦に参加するパイロットたちが続々とやってきた。


「ニニギ様、お早いですね。自分は今回出撃する霊魂騎士隊の小隊長オリタ ソウジです。本日はよろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします。」


「それにしても、ニニギ様の機体はカッコいいですね。黄金のカラーリングといい、機影といい。……ああ、すいませんつい。自分は元々、空軍所属だったのですが霊魂騎士に魅入ってしまい、執念で霊魂騎士部隊に転属したんですよ」


 他の隊員たちからも「それだけで操縦技能が上達するんすからずりぃっすよ」なんて言われている。どうやら、オリタ ソウジという男は、霊魂騎士への愛だけでここまでやってきたということらしい。


 作戦時間が迫ってきたため、交流もそこそこに、各パイロッはが機体に乗り込んでいく。

 僕も金閃公に乗り込みヘッドギアを装着。機体を起動し立ち上がる。既に立ち上がっていた霊魂騎士に続いてドックを出る。


 十三機分の重たい足音が響く中、外の広場まで進む。そこで僕を先頭に、十二機の霊魂騎士が隊列を組んで待機する。


 少し離れたところに、イナゲさんをはじめとした将校たちも集まっている。この近くのどこかにヤマトとサクヤの二人も潜んでいるはずだ。


「本日、〇(まるよん)四五(よんご)より、作戦名『アマツミカボシ』を発令する! 本作戦は追いやられた我々人間の神への反攻作戦である! 諸君らの使命は、ニニギ様を筆頭に神々の世界、高天原に侵攻し、大神アマテラスを葬ることである! 作戦の成功と諸君らの健闘を祈る!」


 イナゲさんの号令とともに作戦が開始される。


「出撃するぞ!」


 オリタさんが叫ぶ。

 同時に僕が神力を使って空間に歪みを作る。歪みはすぐに広がり、一本の道が現れた。高天原への道だ。

 これが、と言う声を後ろに進む。

 オリタさんたちがそれに続こうとしたとき、青色の閃光が走り。僕の機体と並んだ。


「おっし! 約束通りやってきたぜ、ニニギ!」


「来てないんじゃないかと思ったよ」


「あの将校さんの話の途中だと士気に関わるかなって思ったのよ」


 無論、それはヤマトが搭乗したサクヤの変身した機体だ。


「なんだいきなり、ここで敵襲か⁉」


「いや、でも後ろから来たぞ。味方なのか?」


「あれは、この間の青い正体不明機(アンノウン)⁉ やはり、カッコいい!」


「オリタさん⁉ 作戦行動中っすよ! 抑えてください!」


 当然なにも知らないオリタさんたちは騒めく。オリタさんはちょっと違う反応だったけど。


「皆さん、安心してください。この機体は味方です! 僕の協力者ですから」


 それで部隊は落ち着いた。混乱を招かなくてよかった。そこは予想できていなかったから。……うん、今思うと予想できていなかったのはまずいな。どうにかなって本当に良かった。


 一本の道がある以外は何もない真っ白な不思議な空間。この道はそんなに長くない。もうじき高天原だ。


「高天原はもう目前です、準備を!」


 全員が臨戦体勢を整え高天原に突入した。


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