援軍
「……コトアマツカミを使うか」
コトアマツカミはこの状況を打開する、まさに切り札的システムだ。だけど、碌な説明を受けていない。果たしていきなり上手く扱えるだろうか。
そんな強大な力を暴走させてしまったときには……。
「なんだ、使わないのか?」
やれるものならやってみろと、タケミカヅチは挑発的に言った。
迷っている暇はない、か。覚悟を決めろ。
「っ⁉」
その瞬間、タケミカヅチが何かに反応して後ろに下がった。遅れて、さっきまでタケミカヅチがいた場所に、何かが轟音と共に突き刺ささった。
「矛?」
続いて何かの接近音がする。
少々の違いはあるが、霊魂騎士がスラスターを噴かして移動するときの音だ。
つまり、接近しているのは霊魂騎士。タケミカヅチに向かって矛を投げたということは、味方かもしれない。
遠くに、やはりこっちに向かってくる霊魂騎士の姿が確認できる。
そこからが一瞬だった。
僕の機体のスラスター最大出力の時と同じくらいの速度で、ここまでやってきたのだ。
青白い、彗星が通過したのかと思わせる速さだった。
そう感じたときにはそれはもう、地面に突き刺さった矛の前にいた。
全体的に青が多めのカラーリングで、頭部、肩、脚などの装甲が尖っていて、荒々しい。攻撃的な印象を与えている。
機影はシャープで細め。全長は多分八メートルと、他の霊魂騎士と変わらないはずなのに、細いせいで少し小さく見えてしまう。
こんな機体は高天原では見たことがないし、聞いたこともない。
まさか、これを人間が? 霊魂騎士の技術を渡して、まだ一年と経っていないというのに。
あれを除いた機体でも、一年経たずに実戦で十分に戦えるレベルまで持って行けたのにも驚いたが、これはいくら何でも。
人間じゃなくて神の誰かと考えた方が自然か。
全く心当たりはないけれど。
「あの武神と渡り合える奴がいたなんてな」
「っ⁉ その声、ヤマトか⁉」
矛を引き抜きながら、その正体不明機から発せられた声は、間違いなくヤマトのものだった。
いったい何故ヤマトが霊魂騎士に乗っているんだ?
驚きながら僕が尋ねると、向こうも同じく驚きながら答えた。
「って、そっちはまさかニニギなのか? なんで武神と」
「言っただろ、大神になるためだよ。僕からも聞かせてくれ、なんでヤマトがそんな霊魂騎士に乗って戦ってるんだ?」
「いやまぁ、なんというか成り行きで。詳しいことは後で説明するからよ、まずはあの武神を何とかしねぇと」
「それもそうか」
様子を窺っていたタケミカヅチだが、釈然としない様子だった。
「やはり、乗っているのは人間か。だとしたらその機体はなんだ? おおよそ人間が作り出せるものではないぞ」
やはり、タケミカヅチもそれを疑問に思っていた。
と、そこに別の機体が近づいた。何かを伝えに来たようだ。
「そうか。やはりサルタヒコが協力者だったか。ニニギと正体不明機のこともある。このことの報告がてらサルタヒコの始末に戻るか。命拾いしたな。オレは一旦戻るが、次に会った時が最後だ」
「なっ、待てよ!」
「いや、いい。先延ばしにしたに過ぎないけど、高天原への突入の障害はなくなった」
ヤマトが追いかけようとしたのを制止する。今追いかける必要はない。
急いではいるけど、それよりももっと、やらないといけないことがあるからだ。
けれど、サルタヒコの元へタケミカヅチを行かせてしまった。
……サルタヒコ、死なないでね。
タケミカヅチとその他の神たちが引き上げた地上は、凄惨たる破壊の後が残っているだけだった。