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魂魄機動 霊魂騎士ーソウルナイトー  作者: ワンサイドマウンテン
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天孫降臨

 僕がシズオカに到着したときには、ほとんど戦線は崩壊していた。

 あちらこちらに霊魂騎士の残骸が散らばっている。それは神のものではなくて、人間のもの。


 今も数一〇メートル先では戦闘が続いているようだ。霊魂騎士が動き回る音と、金属が叩き潰される歪な音が聞こえている。

 神側の霊魂騎士がずらりと並んだ先に、一機の重厚な霊魂騎士が、多数の霊魂騎士を相手取っている。


 タケミカヅチの駆る()(そう)だ。

 黄色いその機体は通常の霊魂騎士よりも少し大きく、大刀を手に、複数機で挑んでくる敵機をねじ伏せている。


 隙の無い精錬された完璧な立ち回り。二機をいっぺんに叩き潰すほどのパワー。通常の霊魂騎士よりも巨体であるにもかかわらず、的にはなっていない。また、そのパワーに頼り切らず技を繰り出している。

 正直、僕との模擬戦で見せたものなんて目じゃない。


 今、目の前で起きていることに比べれば、あれなんて優しいものだ。優しすぎるくらいだ。

 相手があの武神であろうとも、僕は戦って乗り越えなければならない。こんなところで立ち止まっている暇なんてないんだから。


 今度こそ本当に計画を実行するために、今タケミカヅチが戦っている前線へ向けて機体を走らせる。

 背後から迫る霊魂騎士の駆動音、足音に気づいた、神たちは臨戦態勢を取った。

 しかし、さっきの神とは違い、機体を見ただけでそれが誰の機体なのかを理解した彼らは警戒を解いた。


「ニニギ様⁉ 作戦の発動はまだのはず、なぜここにおられるのですか?」


 しかし、やはり困惑はしているようで、それがよく見て取れる。

 僕はその声を無視して突っ切った。


「なりません! タケミカヅチ殿が制圧されるまで今しばしお待ちを!」


 そんな制止なんて聞きはしない。

 前に出ると僕は大声で叫んだ。


「僕はニニギだ! ある目的をもって舞い降りた! よってこれより、作戦名『天孫降臨』を発動する!」


 そういうとモードを通常移動からスラスターに切り替えた。

 そして、青白い光を推進剤を噴出するエンジン――バーニアから出しながら、機体を加速させて一気に前に突っ込んだ。


「あれは、ニニギ様⁉」


 流石にこれには、あのタケミカヅチも動揺したようで、戦闘中にも関わらず、一瞬だけ動きが鈍ってしまっていた。

 普通に見れば、僕が人間の霊魂騎士に向かって突撃をかけたように映るだろう。

 だけど、違う。僕が狙うのはタケミカヅチだ。


「いっけぇぇぇぇ!」


 直前で緊急停止。瞬時に機体を半回転に捻り、スラスターの余波と機体の運動で大量の砂煙が舞い、煙幕となる。


 今が絶好の好機(チャンス)なんだ。タケミカヅチの位置は把握している。この突然の出来事でさしもの武神も動きが止まった。それに、味方に攻撃されるはずがないという、ごく当たり前の認識もある。


 奇襲を成功させる条件は揃った。

 煙幕ごと、太刀で切り裂いた。

 がしかし、手ごたえも金属が破損する音もなかった。


 その代わりにあったのは、馴れた感覚。鋼と鋼がぶつかり合う感覚と音だった。

 その余波で一気に煙幕は吹き飛ばされ、視界が開ける。


 思った通り、僕の放った太刀は、タケミカヅチの大刀で受け止められていた。

 その光景を見て、神も人間も等しく固まっていた。全員が目を疑っただろう。

 アマテラスの孫と武神が戦っているように見えるのだから。


「ニニギ様、これは一体どういうおつもりだ!」


 タケミカヅチが叫んだ。怒りと困惑が混じった声。


「これが作戦『天孫降臨』だ」


「そんな、馬鹿な⁉ オレが聞かされていたものと全く違う。いや、周りの反応を見るに、オレだけではないな」


「そうだ。この場にいるすべての者に聞いてほしい! 僕は今この場でお婆様に反逆する! この惨状は目に余る。これを支持したお婆様にはもう、ついていくことなどできない! 以前から思うところはあった。それが今回のことで爆発した!」


 神々に訴えかけながら、人間たちにも聞かせる。


「同じことを思っている者がいるならどうか、力を貸してほしい。ともに立ち向かってほしい! 今こそ、数千年続いたお婆様の独裁を終わらせる時だ!」


「……」


「どうやら、誰もいないようだ。ニニギ様、今すぐこんなバカげたことは止めなされ。さすれば、このことは不問にいたしましょう」


「……嫌だと言ったら?」


「いかにニニギ様と言えども、我が主に仇なす敵として処理するのみ!」


「たとえ、どんな障害が立ち塞がるとしても僕は絶対に乗り越える」


「……最後通告は終わりだ。ニニギ、貴様を反逆者として処理する」


 瞬間、大刀で太刀は押し返された。その力を利用して後ろに退り距離を取る。

 こうして本当に敵として対峙すると分かる。タケミカヅチは武の塊だ。存在がデカイ。


 物凄いプレッシャー。目の前に立つだけで委縮してしまいそうになる。

 本当に勝てるのか? 本気でない戦いで百戦以上やってようやく引き分けだぞ?

 いや、そんなことは今更考えるだけ無駄だ。考える必要はない。


 勝てるかどうかじゃなくて、勝つしかないから。

 そのために、まずは分析。

 訓練機と専用機では天と地ほどの差がある。あれと同じだと思って挑めば即死だ。

 まず見た目だが、気持ち的な意味でも外面的な意味でも大きい。大きな存在感を放っているし、事実大きい。


 一般的な霊魂騎士は八メートルほどだが、タケミカヅチのは、大体十二、三メートルはある。

 大きな機影で、装甲が分厚いのは言うまでもない。

 サルタヒコが事前に調べていた情報によると、出力は大体同じか向こうが僅かに上。


 守りが固く力が強い、典型的なパワータイプというやつだ。

 その分、機動力では僕に分があるはずだ。

 武装は、大刀が今手にしているのと腰に下げているのとで二振り、剣が一振り。見える範囲だとこれだけ。武器がなくても格闘はできそうだ。


 あとは、この機体に搭載されている新システム「コトアマツカミ」。それの試作品が向こうにも搭載されている。

 聞いた話では、コトアマツカミが搭載されていれば一機で戦局を左右するほどの力だという。量産は難しいらしい。そんなものを量産されたら、たまったものではものじゃない。

 分析はこんなところ。


「参る!」


 武双が大刀を振りかぶり、斬りかかってところで改めて、勝負が始まった。

 装甲を一撃で粉砕する大刀が横薙ぎに迫る。

 予想よりも早い。やっぱり、模擬戦の時のは全然、全力じゃなかったんだ。


 けど、まだ避けられる。

 後ろに飛んでそれは回避。

 けど、タケミカヅチの猛攻はまだまだ続く。

 大刀なんてものを全力で振り切ったら、霊魂騎士と言えども多少は持っていかれてよろめく。


 しかし、あの機体は重量で踏ん張り、さらにパイロットの技量で、ついた勢いを殺しきらぬまま次の一撃へと持っていく。

 恐ろしいことに、連撃が続けば続くほど威力が上がっていくのだ。

 事実、僕が回避したあと、その攻撃に直撃してしまったビルは木端微塵に砕けた。


「回避の腕はあるな。拙いが見切りもできている。だが、躱すだけでは戦いには勝てんぞ」


 やや大振りな攻撃。これも回避できる。


 少しずつだけど、分かってきた。タケミカヅチの攻撃で、どこにいればいいかが。

 上段からの切り落としはその後、右上に向かっての切り上げのパターンが多い。左の斜め後ろに下がれば躱せる。


「甘い」


 僕が回避した方に向かって大刀の腹での打撃⁉

 回避する場所を読まれた⁉ いや、違う。そこに回避するように誘導されたんだ!

 何回か同じ動きをすることで、そのパターンであると認識させるために。


「くっ」


「ギリギリで回避したか。流石の反応速度だ。機体の性能に助けられたな」


 今のは本当に危なかった。

 とはいえ、一旦、連撃は止まった。また、手が付けられなくなる前に今度は、こっちから仕掛けないと。


 タケミカヅチに絡め手は通用しない。さっき見たく、完全に意表をついてもあの結果だ。

 倒すには真正面から。アドバンテージを持つ速さで挑む。


「はぁぁぁぁ‼」


 スラスターモードで最大出力。ペダルは一気に深く踏み込む。

 超加速。


「まるで、閃光だな。確かにこの速さにはついてはいけないが、別に脅威ではないな」


 衝突。

 超スピードを乗せた僕の太刀と武双がぶつかる。

 鋼と鋼がぶつかる凄まじい音が響き渡り、二機を中心に大量の砂塵が発生する。


「なっ⁉」


 砂塵が晴れてきたとき、モニターに映ったものが信じられなかった。倒せてはいないとは思ったが損傷は与えたはず。しかし、僕の一撃は大刀でしっかりと防がれていた。

 あの速さを見切るなんて。


「速すぎて自分自身もついていけていない。どこを狙うとも的確に決まっていない攻撃など、こんな簡単な方法で防御できる。が、」


 攻撃を受け止めた大刀にビシリと亀裂が走り、砕けた。


「なんでもないただの大刀とはいえ、このオレの武器を砕いた。それは評価に値する」


 そう言って、二本目の大刀を手にとって構えた。ゆったりとした動作だというのに動けなかった。

 精神的にも、機体の状態的にも。

 あれほどの超加速をした後だ。少しの間、スラスターの出力は大きく低下する。


 斬られる。

 そう思った瞬間、本能的に動いていた。

 防げるかどうかは置いておいて、太刀で防御した。何もしないよりはマシだ。


「ぐっ」


 直後、レバーが重くなった。

 振り下ろされた一撃を受け止めたからだ。

 元々が重すぎる一撃は、位置エネルギーの力も加わって、さらに重くなっていた。


 レバーを前に倒せない。腕の各フレームが曲がってしまう。

 実際、腕のあちこちから力に耐えかねたパーツたちがギチギチと悲鳴を上げていた。

 力をそらさないと。

 このまま押しつぶされてしまう。


「ああああ‼」


 根限りの力でレバーを動かし、機体全体で斜めにそらしてどうにか受け流すことができた。


「どうにかなったけど、太刀が……」


 砕けてはいないが亀裂が走っている。まだ他に剣を持ってはいるが、この調子だとそれもすぐに駄目になりそうだ。


「……コトアマツカミを使うか」


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