遺跡の魔物攻略
ダブル主人公を目指している為、姉視点、妹視点で物語が進みます。
だいぶ遅くなりました。申し訳ない。
※残酷な表現ありです。
通路から少し顔を出し、騎士の姿をした魔物の様子を見ながら
「分かってると思うがおさらいな。さっきと同じで、黒球対策であまり距離を取らずに魔物に攻撃。撤退する際は黒球の攻撃に警戒だ」
「5メートルくらい離れると黒球の熱線攻撃ですよね。騎士の姿してるのに、本当にいやらしいサブウェポンです」
魔物自体はあまり移動せず、黒球が距離を取った獲物を補足する。
「向こうのがレベルも高いし余計にな。黒球を破壊できたら良いが全く攻撃が通らないし、とにかく警戒を怠るなよ。そうだ、これ渡しておく。光と闇以外の魔術使えないんだろ?」
念のためだと言ってエスフェルト様は後ろ手で私に、雷魔術のスクロールを渡してきた。
「よし、行きましょう!」
私達は魔物に向かって走り出す。
攻撃しては通路に戻り、攻撃する。
遺跡の番人 Lv20
HP83/500 MP10/50 LP0/0
だいぶ良い感じになってる。魔物も焦っているのか分からないけれど、攻撃の際の振りかぶりが大きくなって隙がが出来ている。もう倒せそうだ、そう思った。
魔物が大斧を振り上げた大きな隙をついて、前に出たエスフェルト様が魔物の右腕を切り落とした。
弾みで大斧が宙に舞い天井に当たると、天井にヒビを入れて魔物の背後に落下した。
今が好機、そう思い私もエスフェルト様も魔物に接近するも、どこに隠し持っていたのかエスフェルト様に向けて剣で薙ぎ払い、後ろに下がる。
「こいつ、斧だけじゃ無くて剣も持ってんのかっ」
ぎりぎりで避けたエスフェルト様は胸のあたりの服を切られただけで怪我はないようだ。
声を掛けようと口を開いたが、魔物の咆吼によって遮られた。
頭上からパラパラと屑みたいな物が落ちてきて、上を見上げると天井崩れかけていた。
魔物の咆吼によって崩れ始めた天井から瓦礫が落下してくる。
私は咄嗟に瓦礫を避ける為、魔物から距離を取った。これが悪手だった。
「アレナ!」
私は瓦礫を避ける為に距離を取り、まんまと黒球に補足されてしまったのだ。
焦った顔のエスフェルト様が私に向かって手を伸ばし、思い切り突き飛ばした。目の前を黒球から放たれた熱線が走り、エスフェルト様の顔を遮った。私は仰向けに倒れて、その上をエスフェルト様が覆い被さってきた。
「エスフェルト様!」
怪我はないか、急いで声を掛けても返事がない。起き上がり見ると、エスフェルト様は首から上が焼失し、絶命していた。人の焼ける臭いと、かすかな鉄の臭いが鼻をつく。
何も入っていない胃が反応して喉元までせり上がってくるけれど、思い切り飲み込んだ。
大丈夫、エスフェルト様はセラフィムドール持ってるから必ず還ってくる。
だから私は動かなきゃ。私を救ってくれたエスフェルト様の期待に応えなきゃ。
転がっているエスフェルト様の剣を拾い、もらった雷魔術のスクロールを取り出す。
悔いるなら後で。今、私がやるべき事をなす。
魔物の剣戟を掻い潜って左腕を切り落とし懐に入る。人間であれば心臓のあたりに狙いを定めて剣で貫き、雷魔術のスクロールを叩き込みダメ押しする。私の力が弱いのか倒れてくれず、魔物は咆吼を上げ距離を取ると、思い切り私のお腹を蹴り上げた。
「これで、終わりだ!」
蹴り上げられて天井に背中を打ちながら、声の主を探す。
セラフィムドールの効果で復活したエスフェルト様が、体重を利用して魔物の大斧を振り回すように魔物の腰から袈裟懸けに上方へ振り抜くところが見えた。
大斧によって半分になった騎士は、黒い霧となって消え失せ黒球もまた消えた。
霧が霧散すると大階段の上の祭壇が輝き、何かが現れたようだった。
「あーーー、死ぬ程痛かった」
エスフェルト様はその場にごろんと寝転がり目を瞑った。
「ごめん、なさい」
私は彼の隣に座りエスフェルト様の手を握り謝る。
「ごめんなさい」
暖かい手。一度死んでしまったけれど、還ってきてくれた事に安心する。
私は謝るしか出来なかった。私が瓦礫に気取られなければ彼は死ななかった。
再三気をつけようと言われていたのに。私、全然だめだなぁ。
お姉ちゃん、私、役に立てない。それどころか人に迷惑かけてる。
「そんな顔するなよ。倒せたんだから笑えって」
エスフェルト様は起き上がると私のほっぺをぐぃーんと伸ばしたり上下に動かしたりして遊び始めた。
セラフィムドールは一度だけ、死を代わってくれる。でも痛みは代わってくれないのだ。
死の痛みは本人が受けてる。死の恐怖は一生克服できないか、もしくは死の虜になると言われている。私のせいで死んでしまったのに、どうしてこんなに優しく許してくれるんだろう。
「エスフェルト様、アレナ、絶対強くなる。もう絶対誰も死なせない。ごめんなさいエスフェルト様」
「オレが背中を預けても安心出来るぐらいになってろよ」
エスフェルト様が優しく抱きしめて「アンタは強くなれるよ。オレが保証する」と言ってくれた。私、絶対強くなる。
少し体を休めた私達は階段を上り、祭壇へ向かう。祭壇には宝石箱があり、祭壇横には緑に光る転位陣。
宝石箱を開けるよう促され、開けると指輪が入っていた。
白銀の指輪。羽をモチーフにした意匠がこらされている。
「セラフィムリング…」
セラフィムリングは、使い捨てのセラフィムドールと違い装備中は何度も効果を発揮する。死を代わり、身代わり後に全回復とステータス上昇してくれる中々手に入りにくい装飾品。このタイミングで手に入るなんて皮肉すぎる。
「エスフェルト様、これ預かっててください。アレナ、強くなって、エスフェルト様の隣に立っても恥ずかしくないくらい強くなる。それまで、持ってて」
「預かってやる。頑張れよ」
エスフェルト様と二人、転位陣に乗る。
優しい光に包まれるとさっきまであった疲労感が消え、ふわっとした浮遊感の後、重力を感じると遺跡の入り口に着いていた。
遺跡の入り口の近くには、声を掛けてくれたおじさんと数人の冒険者が野営して待っていた。おじさん達は私達が遺跡に向かって夕方、中々帰ってこない私達を心配してここで待っていて早朝、遺跡に捜索に入る予定だったそうだ。
私の未熟で浅はかな考えは、エスフェルト様だけじゃなくて、いろんな人に心配と迷惑を掛けてしまったのだと改めて実感した。もう、絶対過信したりしない。
私達は道すがら、おじさん達に遺跡の壁の紋様に吸い込まれ巨大な騎士の魔物と戦った話をすると、遺跡の紋様に触れてもその事例は聞いた事が無いと言われた。
なぜ私が触って反応したのか分からない。また遺跡の再調査がされるだろうとおじさんは言った。
ギルドでお姉さん達にも注意されて北中央本部に帰ってくると日付が変わってちょうど3時くらい。
エントランスの明かりが暖かく灯っていて、二人、誰かが立っている。
聖女様の部屋の明かりは消えていたから神官様かな。もう一人は誰だろう。
少し歩みを早めるとエントランスにいた一人がこちらに向かって走ってきた。
よく見るとお姉ちゃんだった。私は今日あった事を聞いてほしくてお姉ちゃんに向かって走り抱きついた。
「お姉ちゃん、あのね、アレナ、友達が出来たの!遺跡に行く前にね、エスフェルト様っていう男の子に会って。あ、今日、遺跡に行ってきたんだよ。
いろんな事があって、アレナはすごく未熟だからもっと強くなりたいの。また遠くとか行くんだけど、お姉ちゃん心配しないで。ちゃんとお姉ちゃんの所に帰ってくるから大丈夫だよ」
まだまだお姉ちゃんに聞いてほしい事がたくさんある。けれど、お姉ちゃんの纏う雰囲気は今は話しちゃいけない気がして、ずっと黙っていたお姉ちゃんの顔を見る。
「おかえり、アレナちゃん」
そう言うとお姉ちゃんは私を強く抱きしめた。肩のあたりに湿り気を感じ、お姉ちゃんの顔を覗こうとしたけれど、髪に隠れて見えなかった。
「ただいま、おねえちゃん。心配かけてごめんね」
読んで下さりありがとうございます。
ストックも無くなったので、今後はかけたら投稿と言う形に変えます。
申し訳ないです。