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王子様と騎士様

ダブル主人公を目指している為、姉視点、妹視点で物語が進みます。


姉パートお待たせしました!

せめて一週間に一度は投稿できるようにと考えていましたが、だいぶお待たせしてしまうので

今後は、もう少し一話一話のボリュームを小さくして投稿しようかと思います。

今日はフォルト殿下とアッシュさんが、私の元に来ているけれど、アレナちゃんは忙しいらしく不在。

二人とも体の調子が戻ってから、独自に魔王の居場所など調べてくれたらしい。

それで、その調査結果というやつの報告を兼ねての訪問らしい。


正直一人で会いたくないんだよなぁ、と思いながら応接室へ。

別に聖女の部屋でも良いのに、神官様が聖女の部屋に男性二人を招き入れる事はあまり外聞がよろしくないと言うので応接室で会う事になった。


聖女の事をあまり人扱いしないのに、性が絡むと一気に俗物に引き下ろすのはどうなのだろう。

神のような存在を穢す、背徳感のある悦びは私も分からんでもないけれど。


「フォルト殿下、アッシュ様、お待たせいたしました。

今日はアレナが不在なので、私一人になってしまいますが、よろしいかしら」


「いえいえ、とんでもない。今日は聖女様にお聞き頂きたい旨がありますので」


「ほらほら二人とも。そんな他人行儀な仲じゃないでしょうに。リラックスリラックス。

お茶でも飲みながらゆっくりしましょうよ」


アッシュさんにそう言われ、挨拶もそのままにカップを渡されソファに座る。

堅苦しい言葉遣いは苦手なので有難いけれど、殿下相手に良いのだろうか。


「じゃあ聖女様、せっかくですけど見ていただきましょうか。フォルト様、あの資料出してください」


「ん、これだな」


アッシュさんに言われフォルト殿下は地図と紙束を取り出した。

依然お会いした時も思ったのだけど、この主従、逆じゃない?


「聖女様、あれから我々は、魔王の動向と勢力について調べていました。

まず、今の段階で分かっているのは、魔王はこの大陸におらず、別の場所にいるだろうと言う事。

そして、聖女様もご存じかと思いますが日に日に魔物が強く、より凶暴化している事が分かりました。

ただ、凶暴化の影響を見るに、アルトヴァ王国より北がとても影響を受けている」


フォルト殿下がアルトヴァ王国の北、他国の陸続きの先にある少し大きめの孤島を指差す。


「そして、アルトヴァ王国より南部の他国、東の大陸も魔物の凶暴化の確認が取れています。

ただ、アルトヴァ王国の北部に影響がないのは聖女の力が影響していると思われます」


北部には例の地下聖堂がありますからね、とアッシュさんが続けた。


「さて聖女様、どう思いますか?」


アッシュさんて突然話振ってくるんだよな。どう思いますかって、よくぞ調べた褒めてつかわす、しか今のとこ出てこなかったです、すみません。


「そうですね…魔王が北にいるだろう、というのは当たっていると思います。

魔王に南国は似合わないという偏見もありますが、時々意識が北の方に呼ばれている気がします」


「呼ばれている…。それは重要な事ですね」


フォルト殿下はそう言うと地図の北部に書き加えた。


「それにしても、やはり魔物が凶暴化してしまうのですね。もともと魔物はおとなしいと認識しておりませなんだ。これからは魔物が民を襲う事が増えそうですよね。

あまり国防の話は流れてこないので、気になるのですがご存じですか?」


「合同軍が今後も王都を巡回して、地方の警備にも王国軍を派遣するそうです。

フォルト様の兄君、第二王子の方が王国軍に所属しているので、国防関係はフォルト殿下(うち)には何にもお鉢が回ってきてない状態ですね。

地方への派遣に伴い、現在王都でも多くの兵士を募集しているので外出の際はお気をつけください」


アッシュさんににこりと笑いながら忠告された。人の出入りが多くなれば治安も悪くなるし、気軽に散歩するのは止めておこうかな。


「現段階で俺達は自由に動けます。なので聖女伝承の地に向かい調査しようと考えています。

実はアッシュが勝手ながら聖女様のステータスを確認してしまい、現在聖女様のお力が弱まっている噂が本当だと実感しました。聖女様のお力が弱くなったのはあの時魔王を止められなかった俺達の責任です。

だから俺達は調査隊を編制して、各地に行こうと思ってます。

ただ、俺が調査隊を作ると色々厄介なので、是非聖女様から調査隊の任を俺達に出していただきたいんです」


聖女にそこまでの権力があるとは思えない。以前の謁見でうまくいったのは、勢いとタイミングが良かっただけ。交渉事は苦手だし。

ていうかアッシュさん何勝手に人のステータス見てんですか。ステータスはセンシティブって常識ですわよ。

もうお嫁に行けなくなっちゃうじゃないですか。嫁をもらうので別に良いですけど。同意得られたらアレナちゃんと二人きりの秘密の結婚式しますね。


「私に、そこまでの力があるか分かりませんけれど、大司教様に相談してみます。

しかしフォルト殿下は王族ですし、反対されるのではありませんか?」


「いえ。俺の王位継承権の順位は低いですが、王妃様と兄たちは俺に早く死んでほしいはずです。だから陛下の説得に回ってくれるよう頼みました」


何食わぬ顔で、自分の家族は死んでほしいはずだと、そうフォルト殿下は言った。自分の死を願ってる家族に対して何の感慨無く、さも当然のように。

王族だから継承争いがあると思っていたけれど、19年間でこんな風になってしまうの?


とっさに言葉が出てこず、アッシュさんに助け船を出してもらおうと見たら、苦笑してやれやれと肩をすくめていた。なんでやれやれなのさ。

そこは神妙な顔をして、フォルト殿下…って声掛けるところでしょ。もうそういうのは通り越した仲って事ですか。この手の話題は、もう少し情報収集してから突っ込もう。


本当、この主従の関係謎だわ。アレナちゃんはこの主従について特に言ってなかったからこれが彼らの普通、そういう認識なのか。


「…わかりました。ですが、絶対生きて帰ってくるように。生きて帰ってこれないようでしたら、私が調査に向かいますからね」


私はフォルト殿下に簡単に命を捨てないように釘を刺しておく。以前話した時には分からなかったけれど、そこはかとなく自分の命を軽く見てるか自己肯定感低い人な気がする。


「それで、調査の具体的な内容、どのように進めるのか教えてくれますか。私の名を出すのであれば、相応の案でなければ承知しかねます」


「はい、もちろんです。こちらが調査隊メンバーのリスト、調査場所の情報、日程です。

俺が兵を動かすのは謀反と取られかねないので、調査隊は少数です」


書類に目を通す。調査場所は聖女の伝承がある遺跡数カ所。

調査先で聖女の伝承についても調べたらこの候補地以外の遺跡も出てくるだろう。日程は一週間後の日が昇る前に出立。


調査隊メンバーは4名。謀反と思われない対策としても少ない気がするんだけど大丈夫かな。

調査隊隊長にフォルト・アルトヴァ。

命は大事にしてほしいところだけれど、言い出しっぺの殿下が行かないければ示しはつかないよね。

アッシュ・トラステリエ。殿下の側近だし着いてくよな。戦力的にも妥当。

ルークス・グラナトーム。無駄に長く生きているわけじゃないだろうし、知恵者兼保護者って事ね。

アレナ・グラノア。幾度かの襲撃を生き延び、聖女の妹という立場は調査隊の顔になり現地での協力を仰げる為、と記述されている。


「フォルト殿下、このメンバーに私の、大事な妹がいるようなのですけれど」


リストを破ってしまいたい衝動を抑えながら、フォルト殿下を見る。

フェルト殿下は、まっすぐ私の目を見て


「はい。今回、アリィにも…聖女様の妹御にも来ていただきたいんです。

彼女は過去に幾度も魔物や聖女を狙った事件に立ち会っていましたが彼女だけは無事だった

豪運とも言って良いぐらいの何かを持っている。

そして彼女は二ヶ月程前から冒険者ギルドにも登録して、夜半に活動しているそうです。

聖女様が心配になるのは分かりますが、彼女は自分の身を自分で守れる。

彼女はもう貴方の後ろについて回る可愛いだけの妹じゃありません」


そう、はっきりと言い切った。

可愛いだけの妹じゃない、それはそうだけど。そうなんだけど。


「アレナちゃんは、調査隊に加わると言ってたんですか?」


「ルークスさんには承諾していただきましたけれど、アリィにはまだ取ってません」


苦し紛れに言ったアレナちゃんの意志確認はまだのようでホッとした。


「ですが、アリィは聖女様の為に何かしたいと言ってました。だから承諾してくれると考えてます」


「な…」


アレナちゃんは、もし機会があれば行ってしまうのか。私の為に何かしたいと思ってくれるのは、すごくうれしい。でも、危険な事は絶対してほしくない。出来れば私の目の届くところにいてほしい。


「…では、アレナちゃんの意志確認後に許可します。アレナちゃんがもし承諾しなかったらこの書類の再提出をしてください。

それと、アレナちゃんの意志確認は私がします。それで問題ないですね」


「問題ありません。お手を煩わせて申し訳ない」


睨み合い、とまでいかないけれど私とフォルト殿下の間で少し空気が張り詰める。

普段は緊張して私と目を合わせず、赤面しながらうわずって話すのに、こういう時はまっすぐ目をそらさずに見てくる。


「フォルト様、聖女様に渡す用の遺跡資料を馬車に置いてきたみたいなんで取ってきてもらえませんか」


「忘れ物は無いか確認した時に無いって言ってただろ。聖女様、すみません。少し席を外します」


そういうと足早にフォルト殿下は部屋を出て行った。

この空気をどう変えようか悩んでいたので、アッシュさんの助け船にホッとする。

少し冷めたお茶を飲み、ひと息つくとアッシュさんがジッと私を見ていた。え、何怖い。


「聖女様、御髪に何かついてますね。ちょっと失礼」


アッシュ様はそう言うと私に近づき何故か隣に座ったと思ったら、髪を一房手に取り弄り始めた。

え、ホコリとか取ってくれる流れじゃなかった?


「聖女様、最近とてもアレナ様の事気に掛けておられますよね。どうしてです?

アレナ様の事をアレナちゃんなんて呼んでもいなかったし。お姉ちゃんと呼ぶのも眉を顰めていましたよね。どういう心境の変化ですか?」


爆弾を落とされた。アレナちゃん、めちゃくちゃお姉ちゃん子だと思ったから、アレナちゃんとの距離感はこれで良いのだと勝手に思っていた。

確かにアレナちゃんから"私"との関係について詳しく聞かされていない。

聖女とその妹で、数年前に王都に来て先代聖女に師事していたとしか聞いていない。

アレナちゃんは、どうして、教えてくれなかったのだろう。


「今までお姉ちゃんと呼ばせたくなかったのは、私に近づく為に幼かった聖女の妹を利用しようとする人間が現れると思ったからです。

ですがアレナは成長し、自身で考え、言動による影響を予測するようになった。

なので、許したのです。私達は、二人だけの家族です。別に変ではないでしょう?」


「へぇ、そう言う言い訳するんですね。私、姉に依存しているアレナ様は気持ち悪いなと思ってたんです。

でも貴方は他の人間と違って、他人に依存せずに一人で生きていこうとしてるように見えた。

だから、聖女様ではなく、マリッサとしての貴方に興味を持っていました。ですが見当違いのようです。

貴方たち姉妹は、互いに依存しあって生きていくんですね。本当に気持ちが悪い」


ぐいっと髪をひっぱり顔を近づけて「とても、残念です」というアッシュさん。

金蹴りされたいの?ねぇ、人のステータス勝手に見たあげく、今度は髪引っ張って残念って何だよ。私の方が残念ですわ!!


「貴方にどう思われようと構いません。私は私の妹を大事にしたいだけ」


手を振り払い睨むと、昏く侮蔑と失望を混ぜたような顔をしたアッシュさんがいた。

時が止まったかのように思考が停止する。関係に溝が出来た、そういう次元じゃない。

ここまでの黒い感情を、敵意に近いモノを直接向けられた事がない私は、呼吸を忘れ、必死に睨みつけるしかなかった。


「ごめん、待たせた、って何聖女様の隣に座ってんだよ。アッシュ、それ以上近づくな」


はいはい失礼しましたと言ってアッシュの野郎が元の位置に座る。

アレナちゃんがこのクソ野郎を苦手なのは、クソ野郎が内に秘めていたネガティブ感情に、無意識下で反応していたからなんだ。


確かにアレナちゃんは私に依存しているんだろう。でもそれで誰に迷惑を掛けた?

妹が姉に甘えるのは当たり前だし、姉妹なんだから少し依存してても良いじゃない。

私の事を、マリッサなのかわからない私を受け止めてくれたのはアレナちゃん。私もアレナちゃんに今はまだ依存してしまうのは無理もないでしょ。


「アッシュ、探したけど資料置いてなかったぞ。もしや離宮に置いてきたのか?」


「あ、それなんですがね、どうやら私が持ってたようです。いやぁ、無駄足させちゃってすみません。今後気をつけます」


アッシュさんはヌケヌケと言うと、横に置いていた鞄から資料を取り出した。

そこにあったんかい。私と二人きりになる為の口実に使われたようだ。


それにしても、アレナちゃんを気持ち悪いと言ったアッシュさんと同じ調査隊に入れたくない。さっきはアレナちゃんの意志を確認してからの調査隊に参加で承諾したけど、アレナちゃんに聞くまでもなく、外してもらいたい。

でもアレナちゃんの意志を無視して断るのはなぁ。モンスターペアレンツと同じだよね。

あぁ、悩む。そうだ私も同行してはどうかな。


「フォルト殿下、調査隊に私も加えていただけませんか?

私は聖魔法を使えますし、何か助けになると思うのですけれど」


「いや、それは無理でしょう。聖女様は大人しく王都で待っていてくださいな」


私はフォルト殿下に打診しているのであってアッシュさんにしていないのだけれど?

まぁ、フォルト殿下も難しい顔をしているし望み薄かな。


「来てくださったらとても有難いです。しかしアッシュの言うとおり、聖女様まではかなり難しいですね。

聖女様の同行に関しては、大司教様に直接お聞きください。俺の立場で聖女様を連れ出すのは無理です」


「ですよね…」


ちょうど、来週大司教様の元へ訪問する。その時に駄目元でもお願いしてみよう。

頭で考えていたって動かなければ、何もならないのだから。

アッシュさんから、遺跡の資料をもらって、二人は帰り支度をする。


「また、何かあれば報告します。今日はお時間をいただきありがとうございました」

「こちらこそ、またお話しできて良かったです。また連絡いたしますわ」



フォルト殿下とアッシュさんを乗せた馬車が離宮に向けて走り出したのを確認して、茜色に染まる空を見上げる。


アレナちゃんは朝から外出しているらしい。いつもどこかに行く前は、必ず私の所に来てくれるのに今日に限って会いに来てくれなかった。


アレナちゃんは帰ってこない。

もうすぐ、日が沈むのに。

読んでいただきありがとうございます!


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