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酔いしれる

ダブル主人公を目指している為、姉視点、妹視点で進みます。

日が昇らず、まだ夜の暗さが漂う時間に、目が覚めて私は軽くストレッチをする。

いつものように、タンクトップ、膝丈のズボン、軽鎧と、もらった貝殻のブレスレットを身につけ、くたくたの破れているローブを目深かにかぶって、窓から外へ飛び降りた。


私は人目に付かないよう素早く冒険者ギルドの建物に入り、残っている冒険者や夜番のギルド職員から魔物や魔王の情報を仕入れてから依頼をこなす。


お姉ちゃんが眠り続けて私に出来る事はないか悩んだ末に、お姉ちゃんの目が覚めない時は私が魔王を、と思って冒険者になった。


「今は別に殺せなくてもいいかも」


でも、お姉ちゃんが魔王を倒す為の時間稼ぎになるぐらいの怪我を負わせるぐらいには強くなりたい。


5体の赤黒い光を身に纏い赤い目をした魔猪に闇魔術で毒と麻痺を付与して動きを鈍くする。一度一斉攻撃を食らうがダメージは5。ブレスレットに血が付かないように、一体ずつ魔猪の目を突き刺してグルリと回し、ひるんだ隙に蹴飛ばして脳天へ短剣を突き刺し絶命させる。その間他の魔猪に攻撃されるがせいぜいダメージは1ずつなので、作業のように殺していく。

依頼は魔猪5体の討伐だけど、今日はついてるのか、まだ魔猪の群れが居た。雀の涙でも経験値がほしい。


…………………………

……………………

………………

…………


今日も順調に魔物が狩れたなと死体を眺めて思う。

しかし王都の周りの魔物はまだ魔王の影響を受けてない為、今順調に魔物狩り出来たとしても、もっと強い魔物を狩らなければ強くなれない。

そもそも王都イェルン周辺は、王国軍と神聖騎士の合同軍が巡回し、レベルの高い魔物は狩られているので、その取りこぼししか残っていないのだ。私はステータスを表示させる。


 アレナ・グラノア Lv12               


  HP 44/50    力  15  幸運 20

  MP 40/50    魔力 18  守備 22

  LP 50/100    技  26  魔防 18

  MOV 5      速さ 20  魅力 22


  状態:なし


  クラス:冒険者

  装備:軽鎧 短剣 ボロ切れのローブ 貝殻のブレスレット

  Aスキル:魅了Lv3 情報開示Lv1

  Pスキル:因果結び【固定】 戦闘指揮Lv1

  魔術:光魔術Lv2 闇魔術Lv2


地道に魔物を狩っていたけれど、Lv10あたりからLvが上がりにくくなって今はLv12のまま。

Lv10になった時ワンランク上の依頼を受ける事を伝えたら、1週間でここまで行けたのは天賦の才だねと、ギルドのお姉さんや私をか弱い娘のお遊び呼ばわりしていた冒険者のおじさん達にめちゃくめちゃ褒められた。少しうれしい思い出。


「うーん、でもそろそろ合同軍が巡回していないところで魔物を狩りたいな」


魔物を解体して素材と魔石を回収する。質の良い素材は手に入らなかったし、私はもっと強くなるんだ。

冒険者のおじさん曰く、王都を出た先に深い森があり、それを抜けると遺跡があるらしい。少しの遠出だから適当に外出申請をして今度そこに行ってみるのも良いかもしれない。


太陽の光がかすかに存在を主張し始め、少しずつ夜が追い出される。

ギルドへの報告は明日の朝、依頼を受ける時に報告しよう。私は急いで聖教会の私の部屋に帰り、装備をすべて外してベッドに沈む。3時間ほどで朝日が差し込み、朝を告げる鐘が鳴るだろう。それまでは仮眠をとって神官様の執務室に行こうかな。


この時私は、自分がそこそこ強いと勘違いし、そして聖女の為に行動をしている自分に酔いしれている事に気づかなかった。


もし気づいていれば、あの様な事にはならなかったのだろう。

私は、後に悔やむ事になるとは露知らず、睡魔に身を委ねたのだった。



==========



予定通り神官様に報告をしに執務室へ。聖教会北中央本部の責任者代理、神官のノア様。ハーフエルフのノア様は、新緑の髪と琥珀の瞳を持っていて人離れした美しさを持っている。ノア様は、この姿と誰にでも気さくで丁寧な人柄で密かにファンクラブがあるらしい。


「記憶がない事はともかく、目覚めていただけて良かった。この一ヶ月、よく頑張りましたね。急ぎ、城へ使いを出します。アレナ様は聖女様のお食事と身支度、現状の説明をお願いします。準備が出来たら私も聖女様へ伺いましょう。聖女様の体調も良く、謁見が可能であれば登城しましょう」


私の報告を聞いたノア様はそう言うと他の者にも指示を出し、書きかけの書類を机の隅に追いやって新しく書状を書き始めた。

私はノア様に一礼して厨房へ向かう。お姉ちゃん、そろそろパン粥じゃないものが食べたくなりそうだし別のご飯を作ろうかな。何が良いだろう。

聖女様専用の礼装も準備して、念のために正装の方も一緒に出して置いた方がよさそう。





「変じゃない?本当に変じゃない?」


お姉ちゃんの髪を梳かして結い上げ、着替えを手伝い頭にベールを着けた。これで聖女様の正装に着替え完了。

正装は、今代聖女のカラーの白と紺。特殊な刺繍が施されて生地には光の加減で浮かび上がる細工があり、ベール、正装には精霊の加護が込められているので時折煌めき、より一層聖女を神秘的にしている。素敵なお姉ちゃんに見惚れてしまう。

最中、お姉ちゃんは、ずっと「変じゃない?本当にこれ着るの?ドッキリじゃないよね?」なんて眉毛を八の字に下げて泣きそうな顔をしていた。今もしている。綺麗なのにな。


「変じゃないよ、すごく好き。寝間着のふわふわお姉ちゃんも大好きだけど、聖女様の正装着てる清廉な感じのお姉ちゃんも好き。すごく似合ってるよ。だからそんな顔しないで」


お姉ちゃんに抱きついて背中をとんとん、と優しく叩く。良い匂い。お揃いの匂い。幸せの匂い。


少し前、普段着用の礼装に着替えて待っているとノア様が来て、急ぎ城に来るように仰せつかったと伝えられたのだ。そして城に行く為、正装に着替えて今に至る。


「じゃあお姉ちゃん、行こう。アレナも一緒だから大丈夫だよ」

「……わかった。お姉ちゃん頑張る」


お姉ちゃんは少しだけ唸ると決意を固めてくれたようだ。

登城命令を聞いた時は、「行く行く!王様に会うのは初めてだけど、私の演技力を披露する時が来たーー!!」なんて行く気満々だったのに、そんなに正装嫌なのかな。綺麗なのに。


部屋を出て、長い長い階段を下りる。

階段を下りて曲がったりまた階段を下りいろいろ歩くとエントランスがある。

一人にしたらお姉ちゃんは迷子になるだろう。

エントランスを出ると聖教会の紋章が刻まれた馬車と神官ノア様、神聖騎士達が待っていた。

「これに乗って行くんだよ。少しだけ市街地を通るから、観察すると気分が紛れるよ」

「アレナ、ありがとう。是非、そうするわ。この一ヶ月、部屋に籠もっていたもの。街の様子を見た方が良いわね」


こっそりお姉ちゃんに耳打ちすると、隣には雰囲気や仕草、喋り方まで、清廉でしかし厳かな聖女様がいた。聖女様だ。私も自然と心が引き締まる。

「足下にお気をつけください、こちらへ」ノア様が先に馬車の踏み台に乗り、聖女様の手を取って引き上げる。御者は神聖騎士が務め、市街地だが城の応接室までは神聖騎士が馬に乗って同行する。

聖女様は馬車に揺られながら街並みと眺め、こちらに手を振ったり、祈るように跪く街の人に対して、微笑み手を振っている。私はノア様と同じように聖女様を見ていた。


少しだけ、お姉ちゃんが遠くの人になってしまった気がして寂しかった。



===========



北中央本部の最上部、聖女の部屋。


私達は、無事、謁見にて目的を達成し帰って来た。

謁見の間は人払いがされていて、陛下、王妃様、宰相、王国軍の将軍、聖教会の大司教様の6名を除いて騎士達の姿はなかった。


当初、聖女の記憶がおぼつかず力も弱まっていると伝えた時は皆どよめき、大司祭様はとても青ざめていたけれど、有無を言わせない絶対的な圧で聖女様は力を取り戻し魔王を封印ないし倒す事を宣言した。

そして聖女様は宰相、将軍、大司祭様のお三方に協力するよう約束を取り付け署名までさせて、陛下からのお墨付きも頂いたのだった。


「アレナちゃんだっこ。ぎゅってして、聖女命令」


あのすごい謁見のあと、部屋に戻ると聖女様は瞬く間にお姉ちゃんになり甘えてくる。

大の大人が気圧されるくらいに微笑む聖女様なお姉ちゃんも癖になるけど、甘えんぼなお姉ちゃんもすき。二人きりの時は寝間着が似合うふわふわお姉ちゃんが良い、そう思いながらお姉ちゃんにぎゅっと抱きついて二人してベッドに転がる。

命令なんかしなくてもいつだってぎゅってしたいのに。お姉ちゃんかわいい。


「明日はフォルト殿下とアッシュさんのお見舞い行くんだよね。やだなぁ。

ずっとここでアレナちゃんとごろごろしてたいよぅ。」

「アレナも一緒だから大丈夫だよ。ちょっと挨拶してお礼言って帰るだけだから。

フォルト殿下とアッシュ様は顔なじみだし、そこまで緊張しなくて良いんだよ」


お姉ちゃんは私の胸に顔を埋めて何かもごもご嘆いてる。


「お姉ちゃん、お見舞いに行く前にルクスお兄ちゃんに会いに行こうよ。すごく心配してると思う。約束の時間までに間に合うだろうし、先に会いに行こう?」

「うーん…まあアレナちゃんがそこ言うなら…会いに行こうかなぁ」

「じゃあ、ルクスお兄ちゃんに会いに行くって出しておくね!」


私は急いでルクスお兄ちゃんのお家に知らせを出して、その後お姉ちゃんに抱っこされて一緒に眠った。目覚めてから私しか会わずにいたから、謁見の後もいろんな方々に声をかけられ対応で疲れっちゃったんだね。お姉ちゃん、お疲れ様。

幸せの匂いと温度に包まれながら、これから先、もっと大変で、でもきっと楽しい事が待っているような気がしてわくわくしていた。


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