特別授業の復習
ダブル主人公を目指している為、姉視点、妹視点の交互で進みます。
今回は少し長くなってしましました。
良ければ読んでいただけると嬉しいです。
用事を済ませて私の部屋に戻ってきたアレナちゃんはご機嫌な様子だった。
どうやら孤児院で子供達と遊んだりしてたそうで、子供の体力は馬鹿に出来ませんと言っていたが、思い出しているのかにやけている。
私の分までブレスレットを孤児院の子達にもらったそうで、時折ブレスレットを見ては、ふふと微笑んでいる。アレナちゃんが可愛い。
私のブレスレットはアレナちゃんと同じ貝殻がいっぱい付いていてアクアオーラと呼ばれる石が2つ。とても爽やかで海を感じさせるブレスレット。アレナちゃんとお揃いだ。
アレナちゃんは子供達と遊んだせいか結構疲れてるみたいでいつもより眠そうだった。
ゆっくり休んでほしかったけど、特別授業はまだ終わってないです!と言われてしまい、最後までみっちり教えてもらった。
聖女の演技指導も熱心にしてくれて、お姉ちゃん大好きのアレナちゃんしか違いが分からない仕草や発声、抑揚の付け方まで指導してくれて、私は大女優になれた気がしている。
アレナちゃんは今、部屋に戻っている。さすがに疲れてる様子のアレナちゃんに教えてと言うほど勉強家ではないのでやっぱり帰ってもらった。消化するまでに私は時間が掛かるので今から復習。
まず魔王と聖女の童話から。
昔々、魔王という存在がこの世に現れました。何故どのように現れたのかはわかりません。
けれど魔王は魔物達を更に強化し、ありとあらゆる生き物を襲いました。
人々は恐怖に震えましたが、アルトヴァ王国初代国王達率いる聖十字軍が勇敢に戦いました。
しかし、いくら戦っても魔物の数は減らず、力を増すばかりです。
親玉である魔王を倒そう、そうすれば、きっと我々は、世界は救われるのだ。
そう考えた国王と聖十字軍は魔王の住まう城へ乗り込もうとしました。
ところが、魔王の元へ行く前に、魔王がアルトヴァ王国へ襲撃に来たのです。
国王は応戦しますが度重なる戦で疲れているため本来の力で戦えませんでした。
そして不運にも魔王の凶悪な腕が国王を貫いてしまいます。
魔王がとどめを刺そうとした時、一人の女性が立ちはだかります。
その女性は国王の親愛なる王妃様。王妃様は魔王に向けて、光り輝く力を放ちます。
魔王はその光を受けると苦しみました。しかし魔王は倒れません。
王妃様は魔王に突き飛ばされしまいます。ですが王妃様は諦めません。
何度も光を放ち、魔王をじりじりと攻撃します。
魔王と対峙している王妃様を見て、国王は最後の力を振り絞り魔王に剣を投げつけました。
剣は魔王に突き刺さり、王妃様はその隙をみてとても大きく神々しい光で魔王を包みます。
その光はやがて収まると、魔王は石碑の中に閉じ込められていました。
ようやく、魔王は封印され、人々は恐怖の時代を生き抜いたのです。
王妃様は国王に近づくと国王の傷を治しました。奇跡の力です。
その奇跡を見た騎士達は、互いに抱き合い喜びました。
死んでもおかしくない傷を治した王妃様は国王にお願いをします。
どうか、私が死んだ時は私が住んでいた家に魔王とともに埋めてください。
魔王は封印しましたが、倒せていません。ですから、私が未来永劫、魔王の封印を守ります。
王妃様はそう言うと倒れて、目を開く事はありませんでした。
魔王を封印した代償はとても大きく、人々は王妃様の死を悲しみます。
国王は王妃様の言うとおり、かつて王妃様が住んでいた所に教会を建て、
地下に聖堂を作って王妃様のお墓を、魔王が封印されている石碑を置きました。
国王は最愛の王妃様の助けになるように、エルフと精霊様に助言をもらい
石碑の周りには要石を置き封印を強化したのです。
そして、魔王が封印されて以降、王妃様と同じ輝く力を持つ女性が現れ、
祈りを捧げ、代々、魔王の封印を守っています。
それが今日の聖女様。私達は、聖女様の力によって守られ生きているのです。
魔王と聖女の関係をざっくりまとめると、大昔に魔王が生まれ、初代聖女が封印して石碑に変えた。その石碑を初代聖女の願いによって初代聖女ゆかりの地に安置していて、聖女達は
封印を守っている。守る為に必要なのは聖女の祈りと受け継がれていく聖女の力。
聖女継承の折りに、力と記憶を受け継ぐらしい。ファンタジーでSF。
ちなみに聖女は血統に限らず、聖魔法を使える者がなるらしい。
私は教えてもらったステータスの表示をする。ステータスは口に出すか念じると出るらしい
(ステータス)
マリッサ・グラノア Lv1
HP 23/30 力 2 幸運 20
MP 100/100 魔力 10 守備 5
LP 20/50 技 3 魔防 10
MOV 4 速さ 10 魅力 15
状態:なし
クラス:聖女【固定】 第一形態
装備:なし
Aスキル:聖女の祈りLv1 聖女の鼓舞Lv1 魅了Lv1
Pスキル:聖女の威圧 戦闘指揮Lv1
魔法:聖魔法Lv1
魔術:光魔術Lv2
MOVは移動距離だろう。Aスキルはアクティブスキル。Pスキルはパッシブスキルかな。
聖女の第一形態については分からないけれど、たぶん聖女は進化する生き物。何を言ってるか分からないだろうけれど、私もよく分かっていない。
聖魔法の他は光魔術。魔法と魔術って違うのかと思うけれど、魔術書入門によれば、人間で魔法が使えるのは聖女だけらしい。この聖魔法が唯一魔王と対抗できる魔法。荷が重すぎる。
アレナちゃんは、魔王に記憶を奪われたから聖女としての力が弱まったんじゃないかと言っていた。確かに、普通の生活をしていても大体Lv3はあるらしいけれど、私はLv1。
全属性魔術を使えたと聞いていたけれど光魔術しか使えなくなっている。これが弱体化の影響だろうな。
おまけにステータスが思ってたよりゲーム画面のようで面食らう。
改めて思うけど、私、勇者じゃなくて聖女だし。
魔王が存在するのなら欠かせない存在の勇者。
アレナちゃん曰く、この国にも勇者は存在するけれど、勇敢に古代竜種や凶悪な魔物と戦い死んだ者を勇者として祀っている。そして勇者の家族や村は国から多額の報酬を得るのだとか。
ひしひしと伝わってくる聖女絶対主義。ようは聖女と同じ土俵に上がらせないようにする為と、力ある者に魔物と戦わせる為の人身御供措置。この国怖すぎ。
そして私の意識が変わったのが、アレナちゃんのステータスを見せてもらった時だ。
軽い気持ちでステータス見せてと言ったら、涙を目尻に滲ませて恥じらいながら「いいよ、アレナのこと、見て…?」なんて言われた。そう、ステータスはセンシティブだそうです。
あまり人に見せてと言わないようにしましょう!
それはともかく、アレナちゃんのステータスには私にない項目があった。
ステータスの横に、アイテム、装備、ステータスと■■■で潰された項目3つとシステムの項目。明らかにゲームのメニュー画面だった。
システムにはオートセーブ機能とセーブ・ロードの空きスロット。
もう、その時点でここがゲームの世界である事は嫌でも分かった。
この世界は、アレナちゃんが主人公のゲーム世界なのだろう。
そしてこの世界は、何のゲームなのか。何を持ってクリアなのか。
まず、私のステータスのMOVから予測されるのは、まずシュミレーションRPG。
そして魔王と聖女の存在、魔王の封印が解かれた事から、クリア条件は魔王の討伐及び再封印。
冒険だわーいと喜んで良いのか、分からなかった。
魔王に一度能力も記憶も奪われているうえ、怪我人も死者も出ている。
ようし、今から魔王を倒しに行くぞー、なんてまだ切り替えできてない。
けれど、私の体は違うらしい。昏睡状態から起きてこの方、なんと北の方にぐいぐい何かを感じているのだ。たぶん、そこに魔王がいるのだろう。
私は空腹を感じて、アレナちゃんが作ってくれたパン粥を食べる。クッキーは食べて良いのに、ご飯はまだパン粥とは……何故だいアレナちゃん。お姉ちゃんは分厚いステーキ、唐揚げ、卵とじカツ丼と箸休めのサラダが食べたいよ。
「はぁーーーーー」
パン粥を食べ終わり食器をナプキンで拭いてアレナちゃんが持ってきた箱に入れてベッドの下に隠す。明日アレナちゃんが回収してくれるそうだ。
私は人物関係のノートを開いて書き留めた情報を見る。
マリッサ・グラノア。彼女の家族はアレナちゃん以外すでに亡くなっているらしい。私が聖魔法を覚えて、アレナちゃんと一緒に聖教会で先代聖女様に教えを請うていた時、古代竜種による襲撃を受け全滅。当時13歳の私と9歳になったばかりのアレナちゃんは、二人だけの家族になってしまったそうだ。
幸い私に家族の記憶なんてないからそうなんだとしか思えないけど、その事を語るアレナちゃんは、とても思い詰めているようだった。
死を身近に実感した事がないから、私がアレナちゃんに言えたのは月並みの言葉だったけれど、アレナちゃんは健気に「お姉ちゃんがいるから大丈夫」と笑ってくれた。
そして、あの魔王が復活した日の犠牲者。聖女マリッサ・グラノアを守ろうとして亡くなった人。
宮廷魔術師のルーモンド・アロナーグ様。
この方は、宮廷魔術師でありながら、先々代聖女様の時から聖女の為に、粉骨砕身されていた老臣。
魔術指導、心構え、王国に続く逸話や歴史を聖女に語り、時には師、時には親のように聖女を支えてくれた人だそう。彼は、私が魔王に捕らわれた際、助けようと果敢にも挑み、消滅した。文字通り、遺体の欠片すら残らず、身につけた衣服も、装備も、すべて塵と消えたそうだ。
彼の死は、未だ公表されていない。公表すれば魔王の封印が解かれた事が露見してしまう。
その為、この北中央本部の殉職した聖職者達が埋葬されている庭園に、ひっそりと彼のお墓がある。
私は、この方を知らないけれど、長く聖女達を支えてくれた彼の存在を大事にしたいと思った。
いつか、ちゃんと彼の事を、みんなに伝えたい。
「聖女とは、全くもって罪深い存在だねぇ」
私はなんとも言えない気持ちで枕に顔を埋める。
さすがの私も、知らないところで、私がお世話になった人が怪我をし、亡くなった。
櫛歯が数本折れてしまったのに音を奏で続けるオルゴールを聞いている気分だった。
明日、アレナちゃんは神官様に聖女の目が覚めたと報告する。つまり、明日から聖女を取り巻くすべてが動き出すのだろう。
アレナちゃんは特別授業を終え、最後に言った。
私は聖女の記憶がないけれども、聖女としての自覚はあり、自分が何をすべきか知っている。ただ聖女の知識と力が少ないだけで、聖女を継いだマリッサ・グラノアとして聖女の役目を全うする。必ず、聖女の力を取り戻し、魔王を封印すると宣言する事。
私自身の、記憶がない事は秘密に。政治的な傀儡となる可能性を潰すためだそうだ。
さて、もう夜が来た。さすがにこの暗さでは字が読みづらい。
ゆっくり、最後の、マリッサとしてではない私で居られる時間を堪能しよう。
優しい月明かりが明かりの無い部屋をほんのり明るくする。
この世界がゲームの世界であるのは理解した。この先魔王と対峙しなければいけない事は確実だけれど、でも、きっとなんとかなる。
アレナちゃんと私は、最高で最強の姉妹なんだもの。
そうだ、明日アレナちゃんにセーブしておくように言っておかなきゃ。
私はゆっくりと瞼を下ろし、今度こそ眠りに落ちた。