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私が聖女

ダブル主人公を目指してるので、姉視点、妹視点で進みます。


何かされた気がして起きたのだけど、狸寝入りをしてしまった。どうやら私はふかふかのベッドで寝ているらしい。

お姉ちゃん、と思わずぎゅっと抱きしめたくなるような声で呼ばれたが我慢した。

私には妹ではなく兄が居たような気がするし、金縛り並に体が重く、身動きしづらいからである。

あの子はまた来るって言ってたから、来てくれた時までには動けるように頑張るぞ。

まずは目を開くところから、と気合いを入れて目を開ける。


「ふんっ」


目を開けると天井ではなく、天蓋があった。

深い青色の天蓋に白いレースのカーテンが掛かっている。全体的に白と青でまとまっている落ち着いた部屋。私の部屋、いつの間に模様替えしたのだろうか。やんわりと日の光が入ってきて、うーん良い朝!なんて出来るかも。

他にも見たいのだけど、勝手に瞼が下がる。なんだか私は、とても疲れてるみたい。

強い睡魔に耐えられず、私はまた意識を手放した。



=======



気持ちいい。水の中を浮くような、無重力空間で漂っているような、浮遊感。

無限にこの感覚を味わっていたいと噛みしめていると、何かが聞こえてきた。


(………………に、魔王を……て……)


人の声、女性だろうか?あまり聞こえない。


(お願い………代わりに、……を……て……)


全く、聞こえない。どうやら何かしてほしいようだ。だが、それ以降何も聞こえなくなってしまった。

1回目は『魔王』2回目は『代わりに』総合するとたぶん『代わりに魔王を倒して』だ。

なんて夢なんだろう。私、勇者かぁ…頑張る…よ…。



==========



香ばしい香りがした。焼きたてのパン、ガーリックバターの匂い。

あとは、ミネストローネだろうか?トマトの匂いがする。

夜、なのだろうか。朝と違って日の光とは違う淡い明るさを感じる。

耳を澄ませば小さく聞こえる咀嚼音と時々聞こえる陶器に当たる金属の音。


え、ご飯中??????


空腹で頭も体も起きた。食べたい!寝てる私の横でおいそうな匂いのご飯食べるとか!!!

食べるとか!!!前に目が覚めた時よりだいぶ力が入るようになってる。

腹が減っては戦は出来ない!けれど!!ご飯食べるための底力を!!今こそ!!!!!!


力が漲る。私の中の、生きる気力。つまり食欲!!!!!目覚めろ、私!!!!!!!


(私にも、それください!!!!!!!)


目を見開き、手に力を、腹に欲を込め、息を吐きながら私は横に転がって起き上がった。

匂いがする方向を見ると、千切ったパンを口に運ぶ途中のまま呆然としている女の子。

大きく見開いた女の子の目に涙がたまる。そっと、パンを置き女の子は「お姉ちゃん、おはよう」とはにかんだ。はにかんだ拍子に流れた涙はきらきらと月の光を優しく反射して、私の心は射止められた。


「もう、お姉ちゃんはお寝坊さんなんだから」


そう言って妹ちゃんは遠慮がちにこちらに近づくけれど、私にしっかり抱きつき、静かに涙する。妹ちゃんの頭と背中をゆっくり落ち着かせるように撫で「心配かけてごめんね」と安心させるように私は言った。妹ちゃんは、私が眠っている間何があったか涙ながらに教えてくれた。封印から解放された魔王の動向。聖女の私が眠っていたのはちょうど一ヶ月で、少しずつ魔物達が強くなっていること。妹ちゃんはいつでも私を守れるように冒険者の資格をこっそり取得したこと。私の代わりに聖女代行として頑張っていること。コロコロ表情を変えて話す妹ちゃん。

私に妹は居ないのだけど、この穏やかな時間、私達は姉妹なのだ。




しばらくして泣き止んだ妹ちゃんは、とても久しぶりにお姉ちゃんに撫でてもらっちゃったと恥ずかし嬉しそうに笑った。可愛い。


「そうだ、アレナ、神官様を呼んできますね。ルクスお兄ちゃんも呼びましょうか?」


小首をかしげる可愛い妹ちゃん。アレナ。カッコ可愛い名前だなぁ。

自分の事をアレナと呼ぶのか。可愛いから許す。

しかし、ついに私は告げなければならない。

アレナちゃんの話を聞いていて確信を得た。私の兄弟は、兄だけ。

私には、アレナちゃんやそのルクスお兄さんの記憶が全くない事。

聖女や魔王の存在なんて知らないし、そんな記憶もない。

そもそも私は一体どこに居るのだろう。私は一体、誰なのだろう。


……このアレナちゃんをまた泣かせるのかという葛藤はある。

それでも、偽りの姉妹で居るのはきつい。"私"を思って泣いたアレナちゃんを欺く事はしたくない。腹をくくれ。


「アレナちゃん、私ね、記憶がないの。私が誰だか知らないし、実はアレナちゃんの名前も知らなかった。ここがどこかも、そのルクスお兄さんも知らない。

聖女だった記憶もない。忘れているんじゃなく、知らないの。

けど、私がしなきゃいけない事はわかってる。私は、魔王を倒して世界を救うよ」


私は、ゆっくり、アレナちゃんにはっきり伝わるように言った。

アレナちゃんの可愛い顔が青ざめ強張り、私を抱きしめる力が弱まる。


「そ…いう…冗談は良くない…です…」


私はアレナちゃんに、ごめんね、としか言えなかった。

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