表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

大司教様と

ダブル主人公を目指している為、姉視点、妹視点で物語が進みます。


姉視点、お待たせいたしました!

今回はほんのり、過激な描写があります

三日前、フォルト殿下が調査隊結成の話しを持ってきた日の夜。夜になっても帰ってこないアレナちゃんが心配で、神官様を問い詰めると遺跡の調査をするよう勅命を受けたそうで、一人遺跡に行ったと。


そしてアレナちゃんは早朝にやっと帰ってきた。

服は血で汚れて破れてもいたし、髪は焦げてチリチリになっていた。

しかし幸いアレナちゃんはそんな事よりもという感じで友達が出来た事をうれしそうにしていたし、心に芯が通ったような精神的な強さを感じた。


アレナちゃん曰く、心配掛けたくなかったから王城を後にそのまま遺跡に行ったそうだ。

同じ日にフォルト殿下が調査隊を発足すると言いに来た。つまり王族側だけれどフォルト殿下達は、アレナちゃんにそんな勅命が下るとは知らなかったのだろう。

何度も思うけれど、姉の許可も取らずに行かせるってどうなのよ。

確かに協力を仰いでたけど独断が過ぎるんじゃないかな。聖女怒りますよ。


そう言うわけで、私は貴族街にある聖教会西中央本部に来ている。

私は急遽大司教様に面会しに。元々大司教様とお会いする約束があったので、数日とはいえその日程を前倒しにしていただいたのだ。文句を、抗議をする為だけれど。


西中央本部は北中央本部と違い、そこそこ豪華な趣の作りになっていてお貴族様もそこそこ満足できそうな雰囲気。

色とりどりの花が咲き、控えめだけれど噴水がある。その先にテーブルと椅子があり外で茶会が出来るようになっている。教会で茶会って何だよと思うけれど、青空の応接間と考えてくれたら良い。


「して、聖女様。この爺に何か相談事があるとお聞きしましたが」


好々爺、そんな言葉が似合いそうなふかふかな白ひげを蓄えた細くも太くもないおじいさん。この人が聖教会のトップの大司教様だ。


「はい、大司教様。妹のアレナが(わたくし)に代わり遺跡の調査をしていると聞きました。

大司教様はアレナに高価な装備をくださったそうで、ありがとうございます。

おかげでアレナは無事帰ってきてくれましたの」


「えぇ、二週間程前、陛下からアレナ殿に遺跡の調査を頼むと言われたんですよ。

ただあの子を一人、というのはあまりにもと思って爺から良い装備を贈ったんです」


陛下に抗議できない老いぼれにできるせめてもの抵抗ですよ、と大司教様は髭を撫で始めた。


「そうでしたの。お気持ちとても有難いですわ。その装備のおかげでアレナはボロボロですが生きて帰ってきましたもの。本当に何度お礼を言っても言い足りませんわ。

ですけれど、血だらけで衣服が破れている姿を見て、とてもまたアレナを調査に向かわせるなんて出来ないとも思っています」


「それは、お気持ちはよくわかるのですがね…」


「分かるなら、(わたくし)もアレナと一緒に調査に行かせてくださいませ。

聖女の力を失ったのは(わたくし)の失態です。妹のアレナ一人に背負わせるのは、姉として聖女として、承服出来かねます。大司教様から、陛下に(わたくし)も調査に向かわせる許可をいただけませんか。これが(わたくし)の、決意の印です」


私は小箱を大司教様にお渡しした。

大司教様は難しい顔をしながら、小箱を開けると非常に困惑されていた。

まあ、そうだろうと思った。


「…聖女様、一体これは?」


(わたくし)の爪でございます。右手の小指の爪を剥ぎ、(わたくし)の決意の証として献上しようかと思いました。(わたくし)は聖女。聖女の爪ならば聖遺物にも成り得ると考え、価値があると思いました。

これで調査へ向かう許可をいただけないでしょうか」


爪を剥がす時、まず恐怖に打ち克つ事に苦戦した。そもそも爪を剥ぐ道具が教会に無く、自作するしかなかった。

小指をベッドの支柱に括り付けてスプーンをテコの原理で爪を剥がせるようにしただけのお粗末な仕掛けなのだけれど。

そのせいで何度も痛みで意識が遠くなったし何度もスプーンやらフォークやらを調達した。


何度も諦めようと思ったけれど、決意の証を示さないと、許可をもらえないと思ったから乗り越えられた。

私は頭があまり良くないし、うまい交渉術なんて知らない。だから、私に出来る精一杯の証がこれなのだ。


それに聖人の一部は聖遺物として扱われている。だから聖女の私の爪も対象になるんじゃないかと大きく出たのだ。。

しかし、そんな浅はかな希望は砕かれた。


「…聖女様、非常に申し上げにくいのですが…。調査に向かう許可は難しいと爺は考えます。まず、聖女様がこの王都を離れる事の影響。王都の民は非常に不安がるでしょう。

王都はこの国の要でもありますので、聖女様の清いお力が王都からなくなった時の影響も未知数です。今まで、聖女様がお亡くなりになる前に必ず次の聖女候補が現れ、国に尽くしてきた。聖女不在は前代未聞なのです。

どうか、どうか、この爺に免じてお考え直してくださいますよう」


大司教様は、申し訳なさそうに小箱をそっと私の方に置いた。

やっぱ駄目か。爪じゃなくて小指一本であれば本気度が伝わったかもしれないのに。

私の覚悟が中途半端だったせいで、アレナちゃんをまた一人、行かせる事に…。


「そう、ですわよね。ごめんなさい大司教様。小娘の戯れ言だと思って聞き流してくださいませ」


「誠に申し訳ないのう。聖女様のお気持ちも痛くわかります」


「いえ、世間知らずな小娘の願いです。話しを聞いてくださるだけでも、うれしいです。

でしたら、もう一つ、代案がありますの」


「……お聞きしましょうか」


これぞまさにお手本の困り顔というべき、眉毛をハの字に下げ、目は哀愁を漂わせて大司教様は言った。しかしそんな顔をされても私は動じませんよ。


「実は、フォルト殿下が遺跡の調査の為の隊を立案されたのです。それにアレナを合流させてはどうかしら。その調査隊メンバーにもアレナが入っておりましたし、フォルト殿下達と一緒であれば(わたくし)も安心です。もちろん、(わたくし)も行きたいのですけれどね」


「フォルト殿下がですか…。そうですな、それでしたら…確約は出来ませんがこれまでの経緯も含めて伺ってみましょう」


「良かった!大司教様、ありがとうございます。できれば(わたくし)も調査に向かいたいのですけれど」


私の遺跡同行は諦めなきゃいけないのだろうけれど、これアレナちゃんが一人で調査に行かなくて良くなっただろう。本当に良かった。


その後、大司教様から聖女様の伝承や、聖教会の成り立ちを教えてもらった。

大司教様は今の私が聖女としての記憶が無く力が弱体していると理解してくださって、わざわざ教えてくれた。

ただ一言、今は亡き宮廷魔術師のルーモンド・アロナーグ様からお聞きされてたと思いますがと添えられたけれど。


なんでも聖教会はこのアルトヴァ王国建国とともにあったそうだ。

アルトヴァ王国初代国王が少年時代、よく遊んでもらった近所のお兄さんが飢饉や災害によって生きる気力を失っていた村の人々を励ます為に伝えた教えが広まり、今やアルトヴァ王国や大陸で支持される程大きくなったとか。


他にも、アルトヴァ王国の王都は元々ここでは無く、他の国々を吸収して大きくなり、このアルトヴァ王国の中心に王都を移したのだとか。アルトヴァ王国初代国王の出身地が前の都だったらしい。この大陸の最西部に位置していて、今は旧都ベルヴルスと呼ばれているそうだ。


「そろそろ時間のようですな。今日はお会いできて良かった。また爺のところに来てください」


「はい、(わたくし)も大司教様とお話しできて良かったです。今度は聖教会の本部が四つに分かれたお話しを聞きたいです。また、参ります」


お話も興味深かったし、お茶請けも美味しかった。私ばかり頂いていたので、わざわざ若い層に人気のお菓子を取り寄せてくれたのだろう。


「そういえば、(わたくし)、先代聖女様の教えの通り毎日祈りを捧げているのですが、もし魔が差して呪ってしまったらと考える時があるのです。聖女の(わたくし)が呪ったら、この国は、世界はどうなるのだろう、と。

すみません。このような事を考えてしまうのは未熟者ですよね、もっと励もうと思います。

あと、遺跡の調査に参加できないのはとても心残りではありますが、アレナがフォルト殿下の調査隊に加わる話、何卒よろしくお願い致しますね」


大司教様が呆然として棒立ちになっていた。大司教様に恨みは無い、けれど聖女わたしの機嫌を損ねたら終わりなのよと陛下に伝えてもらいたいので、まだ呪おうとは思っていないけれど脅してみた。あいにく記憶が無いもので失う物は片手程度しか無い。


これが原因で暗殺されたとしても、呪って世界を、この国の人間を、生き物すべてを生きている事を悔やむ程に呪おう。背徳感に焦がれる気持ちをクールダウンさせる為に、すれ違う人間の数を数えながら馬車に揺られて帰った。


大司教様はどこまで頑張ってくれるのかな。結果が楽しみだなぁ。





読んで下さりありがとうございます!

そろそろ明るい感じのお話にしていきたいと思ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ