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眠る聖女

ダブル主人公を目指している為、姉視点、妹視点の交互で進みます。


薄緑色の壁とほんのりと足下を照らす青い光の中、慎重に階段を降りる。


「確か貴方はここに来るの、初めてですね。」


聖女はふわりと微笑むと地下聖堂の説明を始めた。

ここは初代聖女が住んでいた家だった。それを建て直し、地下に聖堂を作ったそうだ。

長い廊下を突き抜けると、魔王を封印した石碑、それに連なるように聖女達の聖墓が並んでいる。

初代聖女が、遺体に遺された力で封印の補助が出来るように埋葬せよと申しつけたのだ。

以来、代々聖女達の遺体はこの地下聖堂へ埋葬され、家族だろうと立ち入り出来ないようになっている。


今ここに来たのは封印強化の儀式を行う為。護衛は皇太子であるフォルト殿下、殿下の騎士アッシュ、長寿種エルフのルクス、宮廷魔術師のルーモンド、他面々。


もっと護衛が必要なのでは?と疑問に思うところではあるけれど、地上にも、地下聖堂に入る階段の入り口にも神聖騎士が警備しているので、心配いらないのだろう。

ひんやりとした空気を感じながら、聖女の説明を聞き流し魔王が封印されている石碑をみる。石碑は封印、結界に使われる要石による幾重の封印陣の中に鎮座していた。


聖女は「私も、死んだ時はここの一員になるんですよ」と、カラの石棺に手を置き愛おしそうに見つめている。その様子に背筋が凍り、別の相容れない生き物に見えた。

気味が悪い。封印には聖女の力が必要なのは認めるが、聖女が封印を身を粉にして守る体制はなんとか出来ないのかと疑問に思っていた。だが聖女本人がこの様子ではどうにもならないのだろう。悪しき風習とまでは言わないが、心から、いち人間として普通に生きたいと思った聖女がいたとしたら、あんまりだ。


「では、行ってきますね」


聖女はそう言うと、石碑の前に立ち、まるで祈りを捧げるように胸の前で指を組み目を瞑っている。

かすかに聖女の声が聞こえ、聖女の声に応えるように要石が光り出した。聖女の周りに淡い光が飛び、聖女の魔力が部屋を満たす。神に抱かれているかのような安心感に気が抜ける。

うかつにも幻想的で心を奪われそうになった時、要石が砕かれ何者かが聖女に襲いかかった。騎士のアッシュが聖女に向けられた刃物をはじき、殿下が聖女を抱え後ろに引く。


「だめです、要石が…!!殿下、お離しください!!封印が解けてしまいます!!!」


聖女は襲撃者から守られ、庇われているのにかかわらず、封印がと叫んでいる。

腕から抜け出そうとする聖女を離さないよう、説得を試みる殿下。


「わかっている!!だが奴を排除しない限り安全に儀式はできないだろっ!!!」


ついに石碑にヒビが入り、砕け散った。

先ほどまで聖女の魔力で満たされ澄んでいた空気が石碑から漏れ出す魔力に侵されていく。

漏れ出す魔力はとても濃度が高くて重い、体の自由も思考をも奪っていく。

守護の陣を発動させる間もなく、ものすごい魔力の圧で私達は壁に打ち付けられ、意識が朦朧とした。

さすがは封印されていた魔王、先ほどのは魔力の塊をぶつけられただけというのに、絶対的力を見せられ手も足も出ない。


魔王が、姿を現す。魔王は聖女を見るとゆったりと、歩き出す。

聖女が壁に打ち付けられ咳き込みながらも聖魔法を何度も魔王に放ち、睨めつけて叫んだ。


「なに…そんな目で見ても、私は絶対貴方を封印します!貴方に、屈したりしない!!」


だが魔王は全く意に返さず、聖女の頭を鷲掴みにすると何かを唱えた。

すると魔王の手から白い光が放たれ、光は聖女の声とともに強さを増し


「ぁ…ぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


目を塞いでも眩しい光と耳を劈く人間が発していると思えない音が地下聖堂を支配した。




しばらくすると光が止み、恐る恐る目を開けるとすでに魔王も襲撃者も姿はなく、涙や涎など全身から体液を垂れ流し虚空を見つめる聖女が横たわっていた。




かくして、魔王の封印が解かれたのだった。






=========






グラノーシス大陸の大部分を治めるアルトヴァ王国 首都イェルン北部。

険しい崖を背に建てられた聖教会、最上部に位置する部屋には聖女が眠っている。

透き通るような白い肌、朝日に照らされ輝く青みがかった白銀の髪。白と紺を基調にしたベッドで昏々と眠る女性、聖女マリッサ・グラノア。私のただ一人の肉親にして4つ年上の姉。

今から2000年前、初代聖女が石碑に魔王を封印し、代々聖女達は幾重にも封印を施してきた。

今代聖女も例に漏れず儀式を行うはずだった。だが儀式の最中、何者かに封印を解かれ聖女様は魔王の手によって昏睡状態に陥った。

私も聖女付きとして聖女様とともにいたが恐怖で手も足も出ず、聖女様が苦しみ叫んでいるのを見ている事しか出来なかった。

宮廷魔術師によれば、聖女様は衰弱しており、さらには聖女としての力が弱体化しているという。

鑑定スキルの「情報開示」でステータスを見る事が可能だけれど、神官、治癒術士以外の他人への使用は禁止されている。そもそも私の「情報開示」で聖女様のステータスを見れるかどうか…。

私は聖女様に意識を向けて魔力の流れを読み取る。体に流れる魔力は弱々しく、死に際とは言わないが枯れかけの花のようで聖女特有の澄んだオーラも感じなかった。

ステータスを見なくても、これくらいなら感じ取れるし、不快感も少ないだろう。

でも、本当に、弱体化しているんだ。


「…お姉ちゃん」


姉が聖女となってから「お姉ちゃん」と呼ぶ事を周りの人間から禁止された。聖女様は天のように手の届かない神々しい、人々の希望の象徴だと。聖女という歯車に人間味は必要ない。そういう事なのだろう。

もしかしたら反応があるかもしれないと思い、二人きりの時はお姉ちゃんと呼びかけるようにしている。まあ、今回も反応はなく、彼女は眠り姫のように眠っている。


いつ目覚めるか分からない聖女、封印から解き放たれた魔王。

今のところ、魔王の目立った動きはないらしい。箝口令が敷かれているが、時間の問題だろう。冒険者達の話によれば、少し魔物が強くなっていると聞いた。

聖女の存在、聖女だけが扱える聖魔法と祈りが、世に蔓延る魔への抑止力。

私は聖女付きから今は聖女代行。その身分を利用して、もしかしたら今日こそは起きてくれるかもしれない、そんな思いで毎日来ている。

いずれ訪れ来る混乱の際、私は無力で、頼みの綱は姉の、聖女様しかいないのだから。


「また、来るね。お姉ちゃん」


眠り姫の聖女様。私のお姉ちゃん。いつか、目が覚めて、私の名前を呼んでほしい。

何があってもアレナはお姉ちゃんと一緒だよ。

聖女代行としての仕事をしに、私は部屋をあとにした。



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