吸血鬼娘は森の古城には帰りません!
我輩はミッドナイト三世。由緒正しき吸血鬼一族の末裔である。我らは、深き森の古城を代々受け継ぎ、ひっそりと暮らしていた。
しかし、そんな暮らしをぶち壊す者が現れた。我が愛娘リリィ・ミッドナイトである。
「ナウい吸血鬼は、森の奥なんかにいるべきじゃないわ!」
そう叫んだが早いか、森の古城を飛び出したのだ。
森周辺の村との盟約で、血を提供される代わりに、森の凶暴な動物から村を守る。また、条件として、我らが森を出ることは禁じられているのだ。
そんな掟を知ってか知らずか、リリィは人間に化けて、村の娘たちから世間の流行を聞き出していた。その事は私も知っていたし、多少のことには目を瞑っていたのだが、今回は看過できない。
私はリリィ。吸血鬼の娘。吸血鬼は森の奥深くに住んでいるなんて噂は500年も昔の話。私の一族は、森に引きこもっていたけれど、多くの吸血鬼は人間に紛れ暮らしている。
特に私みたいなイマドキの吸血鬼は、もっと流行の最先端をいかなくちゃ!
お気に入りのゴスロリとフリルがたっぷり付いた日傘。あと、黒猫のぬいぐるみ。
「姫様!早く森の古城にお帰り下さいニャ!」
「ちょっとうるさいわよ、ノアール。」
この子はお目付け役のノアール。ぬいぐるみに魂を入れたペットみたいなもの。もちろんノアールのいうことを聞く気はない。
「私はこれから、最新のスイーツを食べて、ショッピングをして、理想のダーリンを探すのよ!」
「ナウいとか、ダーリンとか、ちょっと言葉が古い気がするニャ…」
ノアールが何か小声で呟いているが気にしない。はぁ、ワクワクが止まらないわ。森周辺の村では、不健康そうなダサい男達しかいないのだもの。だからといって、お父様が用意した他の一族の吸血鬼と結婚するなんてまっぴら。私は、理想の相手を見つけて、大恋愛するのよ!
「この気配は…、お父様ね。」
スイーツとショッピングを堪能し、日が暮れた頃。どこからともなくやってきたコウモリたちが段々と人影を形づくり、現れたのはミッドナイト三世だった。
「リリィ、いい加減に帰ってきなさい!」
「イ・ヤ!」
こうなったら、私の覚悟を示すしかないわ。自分の影から、大鎌を取り出し、お父様が放った稲妻を切り裂く。
「お父様が心配するのもわかるわ。でも、私は私が決めた道を行くの!」
笑顔で宣言したリリィに、ミッドナイト三世の攻撃の手が緩む。その瞬間、リリィは影に溶け込み姿を消したのだった。
お読み下さりありがとうございました。感想、評価、ブクマありがとうございます。励みになります!