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3分読み切り短編集

もう一人の自分

作者: 庵アルス

「もしも、自分がもう一人いたらどう思う?」

 図書館から借りてきた本を読んでいて、話のネタになりそうな内容が出てきたので、目の前の友人に尋ねた。

 スマートフォンでゲームをしていた友人は、わざわざ手を止めてこちらを見る。

「⋯⋯自分がもう一人いたら?」

「そう」

「それってさ」

 友人はゲームでニヤついていた顔をきりりと引き締める。

「トイレはどうなるの」

「⋯⋯⋯⋯え?」

「トイレはどうなるの」

「え、あ、うん、いや、そうじゃなくて」

 友人はいたって真面目な表情である。

「え、トイレ? なんでトイレの心配?」

 言いたいことはわかるけど⋯⋯、と言いたかったが、全く理解できなかったので、そう訊いた。

「だってさ、自分がもう一人いて、そっちもトイレ行かなきゃいけない身体ならさ、タイミング一緒かもしれないじゃん? そしたらウチのトイレひとつしかないし、取り合いになるよね?」

「あー⋯⋯」

 ようやくわかった。友人は不思議そうな顔になって続けた。

「あと食べ物も二人分必要なのかどうか? 体力はどうなってるのか、一人分の体力を二つの身体で分けるのか、それとも二人分なのか? それぞれが体験した内容は共有できるのか? それはどうなってるの?」

「えっ、それは――――」

 そんなこと考えて質問したわけじゃない。

 止めようとするが、友人の口はぺらぺらと動く。

「一人に戻れるのか、そうじゃないのか? 疲労や睡眠時間はそれぞれか、それとも片方が負担すればもう片方は動けるのか?」

「えー⋯⋯?」

 ここまで喋られると、『もう一人の自分がいた場合の疑問点』が、いっそ気になってきた。

 確か、忍者漫画の影分身は、本体に収斂すると、経験や疲労も本体負担になる仕組みだったな、と思い出す。言ったらややこしくなるから黙っておくけれど。

「できることは同じ? 性格も全く一緒? ガチャ運も一緒? 片方が具合悪かったらもう片方は?」

 面白くなってきた反面、そろそろ飽きてきたな。

「ごめん、そんな深く考えさせようとしてなかったんだ」

 友人に謝ってネタばらしする。

「『もしも、自分がもう一人いたらどう思う?』って、心理テストの質問なんだ」

「あ、なーんだ、そうだったんだ!」

 友人はあっけらかんと笑う。

「⋯⋯で、どう答える?」

「そんなの、『面白い』に決まってるじゃん」

 この心理テストの解答は、『その人が周りの人にどう見られているか』になるそうだ。

 本から目を背けながら、友人にもう一度謝る。

「ごめん、今、ちょっとめんどくさいって思ってる」

2020/11/09

もし自分がもう一人いるなら家事と育児分担する。

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