3章2 猫ちゃんが来ました。
久々の更新です。
文体に違和感があるかも知れませんが、久々なのでお許しください。都度ごとに修正いたします。
深雪は釣鐘帽を被り、猫の後ろについていった。路地裏に入り、少し進んだところで猫は止まった。
「んにゃ」
そこにあったのは、建物が密集した隙間にぽつんとある空地だった。家具が沢山捨てられており、その隙間には沢山の猫が見えた。
猫たちはこちらに気づくと、鳴きながら一斉に近づいて来た。
「みゃー」
「あにゃー」
「わっ、わわわっ」
深雪は驚いて転びそうになったけれど、なんとか踏み止まった。それを見て、猫又の猫が「にゃにゃにゃ」と笑った。
「猫吉の沢山の同士に驚いたかにゃ」
「う、うん。というか、猫吉……?」
「俺の名前だにゃ。覚えておくといいにゃ」
どうやら、この猫又の猫は猫吉と言うらしい。何気に初めて知った。
「猫吉くんね、分かった」
「にゃ。それで、手伝って欲しいことはアレにゃ」
猫吉は器用に二つの尻尾を同じ方向に向けた。その先には、ふてぶてしく座る白い猫がいた。
「あいつと俺はここでボスの座をかけて争っているにゃ。今日は決着を着けるにゃ。その勝負の審判をして欲しいんだにゃ」
「な、なるほどね。……あの白いにゃんこも物の怪なの?」
「違うにゃ。この中では俺だけにゃ。変な術は使わずちゃんと猫の勝負をするにゃから、心配は無用だにゃ。あとで難癖つけられても困るにゃからね」
ふんす、と猫吉が鼻息を荒くすると、白い猫がゆっくりとした足取りで寄り、じろじろと深雪を見やる。公正な審判をするか疑っているのかも知れない。
深雪が「贔屓はしないよ」と告げると、満足気に尻尾を揺らした。
まもなくして二匹は睨み合い、じりじりと距離を詰め――勝負が始まった。
「ふしゃー!」
「にゃ! にゃ! にゃっ!」
やっていたのは、猫パンチの応酬だった。
なんとも可愛らしい勝負だけれども、勝負と言うからには結果が出るものであり、それは訪れる。
「……にゃ」
猫吉が壁を背にぺたんを座り込んでしまった。
白い猫がトドメとばかりに、その頬を尻尾でぺちんと叩いた。
「……猫吉くん、負けちゃったね」
「俺の勝ちじゃにゃい?」
「どう見ても……負けだね」
深雪がそう言うと、白い猫は空き地に捨ててある家具の天辺に登り、ふんぞり返った。審判からのお墨付きを貰ったのだから、ここのボスは名実共に自分だと主張していた。
周りの猫たちも、白い猫の下座に集まった。
「あにゃぁ……」
猫吉は力無く二又の尻尾をぴこぴこ動かした。
負けを認めたくはないけれど、負けたのは覆らない事実であって、そのことがショックなようだ。
深雪はなんと声を掛けたら良いのか悩んだ。
しかし、猫吉は意外と気持ちの切り替えが上手なのか、「はぁ……」と溜め息を一度点くといつも通りになった。
「……もう大丈夫なんだ?」
「負けは負けにゃ。しょーがにゃい。また別の縄張りを求めて俺は彷徨うだけにゃ」
「あはは……あの白いにゃんこの下につくのは嫌なんだ?」
「嫌にゃ。あいつメス猫にゃ。俺はオスにゃ。……他の軟弱なオス猫みたいにメスに尻尾振るなんてしないにゃ」
あの白い猫は女の子だったんだ、という点はさておき。猫吉の言い分を前時代的、と切り捨てることもどうにも難しい。
人間の世界だって男女の隔ては強く残っている。
だから、そんな人間の社会を生きる自分には、「そんな風な考え持たなくてもいいと思うよ」等と言う資格も無い気がした。
「そっか……」
肯定とも否定とも取れない、そんな曖昧な相槌を打った。
前脚をぺろぺろと舐める猫吉を眺めつつ、さてそれじゃあお願いも叶えたのでと、深雪はキリが良いところで帰ることにした。
すると、猫吉は帰ろうとする深雪の足元に纏わりついて来た。
「どうしたの? もうわたし帰るよ」
「居場所がなくなったから、しばらくは浅葱の旦那の家に厄介になろうと思うにゃ。あそこ縄張りにするにゃ」
「え……えぇ? 急にそんなこと言われても」
「にゃ」
「にゃ、じゃなくて……」
「旦那には俺から直接言うにゃ。それで駄目ならしょうがにゃい。諦めるにゃ」
「……う~ん。まぁそれなら」
「決まりにゃ」
押し切られる形で、深雪はしぶしぶと猫吉の提案を受けることになった。
崇正がなんと言うかは分からないけれども、自分の口からきちんと話を通すと言うのであれば、それを拒む権利も自分には無い。
どうするかを決めるべきは、話をされる崇正本人だ。
☆
夕方になり帰宅した崇正は、猫吉の話を聞くと、なんとも怪訝そうに見やった。
「要するにだけど、つまりその、猫吉は縄張り争いに負けたから僕の家を新しい縄張りにしたいと?」
「にゃ」
「これまた急だね……」
「そうでも無いにゃ。元から候補の一つにしてたにゃ。困った物の怪を助けるのも旦那の仕事にゃ?」
「それはそうだけど、だからって、勝手に人の家を候補にしないでくれるかな……」
「それでどうにゃん?」
深雪が椅子に座って経過を眺めていたら、猫吉が膝の上に乗って来た。
なんとなく撫でてみる。
ふわふわしていて凄く気持ちいい毛並みだった。思わず瞬きしてしまう程だった。
「にゃははは、ちゃんとキレイキレイしてるにゃから、触り心地は抜群にゃ」
「深雪に取り入ろうとは……」
「そんなつもりは無いにゃ。んー、でも、浅葱の旦那の気持ちも分かるにゃよ」
「……?」
「こんな可愛い子と一緒に生活してるにゃ。そりゃあねぇ……?」
「何が言いたいの……?」
「そうやってはぐらかさなくても良いにゃ。いちゃいちゃ出来にゃくなるのを心配してるんにゃよね」
いちゃいちゃ――その単語に、深雪と崇正は同時に顔を真っ赤にした。確かに、普段からいちゃついていると言えばいちゃついている。
二人だけの時は全く気にしていなかったが、第三者から指摘されると、ものすごく恥ずかしく感じた。
「なっ……」
「ね、猫吉くんっ……」
「仕方ないにゃ。二人の邪魔は出来ないにゃ。……思う存分二人のセカイに浸っていちゃつくと良いにゃ。職務放棄していちゃつくと良いにゃ」
「あ~もう! 分かったよ、分かった!」
顔を真っ赤にしたまま、崇正は頭を掻きむしるとそう言った。
羞恥に負けたのか許可を出したのだ。
すると、猫吉が嬉しそうに目を大きく見開いた。
「……にゃ?」
「行き場が無いなら物の怪専用の一時保護所とかに入れたいところだけど、どうせ嫌だって言うんでしょ?」
「にゃはははは」
「次の縄張りを見つけるまでだからね?」
「にゃい」
猫吉を二つの尻尾をぱたぱた交互に動かすと、深雪の膝から降りて、音も無く跳んで窓の淵に立った。
妙に幻想的な動きだった。
猫吉が普通の獣では無いのだと、二又の尻尾以外の部分で深雪は改めて認識させられた。
「……猫吉くん、どこか行くの?」
「夜は徘徊の時間にゃ。ここが縄張りにゃから、周辺も俺の縄張りにゃ。見張るにゃよ。朝になったら戻って来るにゃ。にゃにゃにゃ、二人の時間の邪魔するつもりも無いって意味もあるにゃけど」
「二人の時間の……邪魔……?」
一体何の邪魔だろうか?
深雪は怪訝に首を傾げたけれども――それが、いちゃつく時間のことを指しているのだとすぐに気づき、頬に再び熱をともしてあわあわと俯いた。
「い、行くならさっさと!」
崇正がしっしと手で振り払うと、猫吉は笑いながら夜闇に溶けて行った。
「猫吉の言ったことは、き、気にしなくていいからね深雪」
「は、はい……」
心を落ち着けようと、深雪は心の中で何度も何度も深呼吸を繰り返した。
けれども、再び襲ってきた羞恥はなぜか中々取れなかった。
なんとも言えない空気が続いて。
いつもならばしているお帰りのキスも、今日はまだしていなくて、だからとてもしたいのだけれども、恥ずかしくて動くことも出来なくて。
言い出せなくて。
でも、そのうちに崇正の方から動いてくれた。
頬を掻きながら近づいて来た崇正は、「まだ今日の分をしていなかったから」と言って、優しく口づけをしてくれた。
にゃーん。
※.カクヨムでも本作の投稿を開始しました。文章がおかしい部分とかを確認しつつ、なろうと相互に修正しつつ一日二話ペースで投稿してます。そのうち追い付くと思います。
※.文字数が増えれば、何かしらの賞かコンテストに出そうかな、と思っていますが果たして……。若干TLっぽいですので、あまり期待はしておりませぬ。
※.カクヨムでの本作のURLは https://kakuyomu.jp/works/16816452219491297654 です。内容に大きな変化はありませんが、まだなろうに追い付いていないこともあり、文字数的にも読み返しされる場合には丁度良いかもです。よろしければ。




