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狐憑きのわたしが嫁いだ相手は軍人将校さまです。  作者: 陸奥こはる
3章 狐憑きと旦那さまと楪家編。
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3章1 お手伝い……?

こそっと更新です。

 式が終わり夏祭りを楽しみ、二人の間には一日中甘い時間が漂っている。

 しかし、崇正の休暇が終わり仕事に行くようになったことで、それにも終わりが訪れていた。


「いってらっしゃいませ」

「うん。いってくるよ」


 いつも通りと言わんばかりに、仕事へ向かう前に崇正が深雪の額に口づけをする。

 柔らかい感触に、深雪は少しばかり嬉しそうに眼を細める。

 式以降一緒に寝るようになっていて、口づけ以上に凄いことをする仲にはなったものの――心とは不思議なものだ。

 なんだか、この小さな仕草に慣れず、今でも僅かばかりにどきどきしてしまう。


「……」


 崇正の後ろ姿が見えなくなった頃に、深雪は自らの額を撫でる。

 一日中甘い時間だけを過ごすことは出来なくなった。

 けれども、しかし、朝と夜にはしっかりと蜂蜜のような雰囲気になるのであった。





 崇正を見送った後、深雪はてきぱきと掃除や家事を進めていく。そして、一通りが終わった後、応接室のソファにぐたっと座った。ふかふかで沈み込むこのソファは、深雪の秘密のお気に入りであった。


「ふいー」


 ごろんと横になって、「今日は少しお昼寝でもしようかな」――と、深雪がそんなことを考えていた時だ。

 窓の外に、二又に分かれた猫の尻尾が見えた。


「なんだろう……」


 むくり、と起き上がって深雪は窓の外を確認しに行く。すると、以前に郵便局の所で出会った猫がいた。確か物の怪だ。

 物の怪はあまり人前には姿を現さない、という話であったハズだけれども……崇正とは既知のようだし、もしかすると、何か用事があるのかも知れない。


 崇正の軍人としての仕事は、人知れず帝都に現れる悪い妖怪を懲らしめたり、困っている物の怪を助けたりとか、そういう類のものなのだから。

 深雪が窓を開けると、猫がこちらに気づいた。猫は振り返りつつ、前脚で顔を拭い姿勢を正した。


「どうしたの?」

「……浅葱の旦那は家にいるかにゃ?」

「旦那さまは仕事に行ったけど……」

「にゃぁ……。もう仕事に行ったのかにゃ」

「何かあったの?」

「手伝って欲しいことがあったんだにゃ。にゃけど、ちょっとしたことにゃから……」

「……別に仕事中でも旦那さまは力になってくれると思うよ。そもそも、それが仕事だって言っていたし」

「それは知っているにゃ。でも、小さなことにゃし、浅葱の旦那も何か忙しい案件とかあるのかも知れにゃいし……」


 もごもごと煮え切らない態度の猫は、しかしながら、急にハッとしたような表情になり、二又の尻尾をピンと張った。


「――そうだにゃ。君に手伝って貰うにゃ」


 そんな猫の提案に、深雪は、きょとんと眼を丸くした。どうやら猫は、深雪にお手伝いを頼もうと考え至ったらしい。


「駄目かにゃ……?」


 ごろにゃん、と猫は首を傾げる。深雪は顎に手を当て少し考える。危険なことであれば断るし、あとで崇正に伝えると言おうと思うけれど……そんな雰囲気ではない。

 本当にちょっとしたことを手伝って欲しい、と言っているようだ。

 それならば、と深雪は頷いた。

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