2章番外編 夏祭り1/2
タイトル通りになります。2章番外編です。
日が僅かに地平線に姿を見せたころに深雪は目を覚ました。そして、隣で眠る崇正の横顔に気づいて、ぼんやりと昨夜のことを思い出して――一気に顔が火照った。
――今までにない深い愛され方をされてしまった。夫婦が同衾するというのは、ああいう風に愛される為だったんだ……。
顔の火照りが、頭の中にまで回ってしまったのかも知れないと思うほどに、深雪の思考はぐるぐると回った。
けれども、それは決して悪い気分ではなく。
心が満たされるような感覚もあって、深雪は自分自身でも気づかないうちに、なんとも幸せそうに微笑んでいた。
☆
崇正はしばらく休みを取ってはいるものの、しかし、だからといって深雪の仕事まで連動して休みになるわけではない。
まだ崇正が眠っているうちに、深雪は朝食の支度を初めて、いつも通りのやる事をこなしていった。日課のようになりつつあるお陰もあってか、何も考えずとも手が勝手に動く。
そうこうしているうちに、崇正が起きて来た。
「おはよう……」
「おはようございます。朝食の準備は出来て……」
二人はそんな朝の挨拶をしつつ互いの顔を見やり――それと同時に、揃って固まり押し黙った。
両者ともに顔が赤らんでいる。
理由は考えずとも分かる。
二人が思い出しているのは、互いに、昨夜のことなのだ。
「その……」
「……は、はい。なんでしょうか」
「僕なりに優しくしたつもり……なんだけれど、嫌じゃなかったかなって」
頬を掻きながら、崇正がなんだか少し不安そうな表情になった。
深雪はその様子を窺いつつも、本音を言うことにした。嫌だとは微塵にも思っていないので、取り繕う必要もウソを言う必要も無いからだ。
「嫌では無かったです。満たされるような感じがあって、その……とても嬉しかったです」
そして、再び二人はしばし無言になった。お互いの顔は林檎よりも赤くなっていた。
と、その時であった。
外から微かに騒がしいような物音が聞こえたのだ。
深雪が慌てて二階の窓から様子を確認すると、少し離れたところに見える大通りの方向で、なにやら屋台を組み始めている人たちがいた。
あれは一体……?
深雪が首を傾げていると、遅れて深雪の後ろから窓の外を眺めた崇正が、「あっ」と何かに気づいたような声を上げた。
「えっと……旦那さま?」
「今日は夏祭りだったんだっけ」
「夏祭り……?」
「うん。あれはその準備だね。的屋さん。お昼が終わったら本格的に始めるのかな。……そういえば、深雪はお祭りとか行ったことないよね?」
あるわけがない。なので深雪は頷いた。すると、崇正が笑顔になった。
「じゃあもう少ししたら……夕方あたりになったら行ってみようか。その頃から花火もやるハズだから」
お祭りも花火も、言葉自体は知っているけれど、実際に体験するのは初めてだ。少し楽しみだ。
深雪はふと思った。
――座敷牢にいた時には考えられなかったような、外の世界の楽しいと嬉しいに触れられて。
――そのうえ素敵な旦那さまがいて、愛しても貰えて。
今の自分はやはり幸せなのだ。そうに違いないと、深雪は現実を認識した。
座敷牢にずっといたし、多少は幸せになって誰も文句は言わないはず……。




