2章終話 狐憑きと旦那さまは身も心も夫婦になります。
装いもいつも通りに戻った二人は、式を終えて家に帰ると、今日の式についての話をした。
崇正の膝の上に乗った深雪が、今日どれだけ嬉しかったのかを、喜んだのかを一生懸命に伝えて。
そして、崇正が、相槌を打ちながらそれを聞いて優しく笑んで。
そういう感じで進んだ話は、けれども、やがて話題も尽きて来てしまい「そろそろ寝よう」ということになった。
崇正に抱き上げられ、深雪は自室まで運ばれるとベッドに降ろされる。
「おやすみ……」
言って、崇正が深雪の額に口づけをした――その時だ。深雪は崇正の首に腕を回すと、強引にベッドに引きずり込んだ。
「み、深雪……?」
「旦那さまは、以前に自分で言った言葉をお忘れですか……?」
「以前に……?」
「式が終われば一緒に寝ると、そう言って下さいました」
深雪は覚えていた。初日のあの夜の会話を。一体どうして夫婦が床を共にするのかは、それは今でも分からないけれど、しかしこれを経て初めて本物の夫婦になるのだと思った。
そう直感していたのだ。
「深雪……本当に良いの?」
崇正の顔が真っ赤に染まる。
釣られて深雪の顔も真っ赤に染まる。
「はい……」
深雪が頷くと、崇正が上に覆い被さって来た。
深雪はこの時に初めて気づいた。
夫婦が床を共にするというのは、ただ一緒に睡眠を取るという意味ではなく、何かを行うことも示唆していたのだ、と。
何をされるのか分からない。
けれども、深雪は怖く無かった。
きっと崇正は優しくしてくれると、そう信じて疑わないからだ。
というか、怖さよりもむしろ、なんだか妙な胸の高鳴りを感じてならず。
きっと、接吻なんかよりも凄いことをされてしまう――そう思うと、自然と呼吸も荒くなり始めた。
「深雪……」
「旦那さま……」
二人はこの日この夜。
心だけではなく、その身をも含めて、本当の夫婦となった。
深雪は、今までに受けたことのない種類の愛に、終始とろけるような感覚を味わう。自前の狐耳もすっかり脱力しきり、力なくぺたんと折れてしまった。
今まで受けた愛の中でも、一番に確かな形で愛されていると、そう実感出来る営みであった。
☆
さてそれから。
数日後。
浅葱家のポストに、一枚の写真が届けられた。
それは、白無垢に綿帽子の深雪と紋付き袴の崇正の二人が映っている、結婚式の時の写真であった。
2章終了です。面白い、続きが気になる、等々思って頂けましたら、ブックマーク&☆応援評価ポイントを貰えると嬉しいです。




