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狐憑きのわたしが嫁いだ相手は軍人将校さまです。  作者: 陸奥こはる
2章 狐憑きと旦那さまの結婚式編。
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2章6 怖いので。

 目を覚ました深雪は、自身の掌が温かいことに気づいた。どうやら、深雪が寝入ってからも、崇正がずっと手を握り続けてくれていたようだ。

 椅子に座って、すぅすぅと寝息を立てる崇正が見えた。


 一晩中崇正が手を握り続けてくれた事で、深雪の心も幾分か落ち着き、少なくとも震えるようなことはなくなった。昨夜のような状態から脱することが出来たと言える。

 けれども、昨日の急な襲撃の恐怖は完全に拭い去れず、一人で動くには些かの不安は残っていた。ので、朝の仕事はすぐに行わず、ひとまず崇正が起きるのを待つことにして、それまで深雪は時間を潰すことにした。


 崇正に触れていると気持ちがより安らぐので、指を絡めてみたり頬に口づけをしてみたり、ぎゅっと抱きしめてみたり……。そうこうして時間を潰していると、崇正が「んん……」と目を覚まし始めたので、深雪はそっと離れた。





 今日の深雪の朝の仕事においては、常に傍らに崇正がいた。深雪がそれを求める前に、崇正が自発的に、自然にそうしてくれたのだ。


「今日は僕も手伝うよ」

「傍にいてくれるだけで構いません」

「……見ているだけ、というのも僕の居心地が悪くなるからさ」


 そう言われてしまうと、深雪に拒否は出来なかった。崇正の居心地を悪くしたいわけではなかったからだ。


「分かりました」

「僕は何をすればいいかな?」

「それでは……」


 どのような事情があれ、経緯があれ、妻の仕事を手伝わせるのは、いまだ男女の優位差がある世間一般的には「なんということだ」と思われてしまうことではある。

 そして、妻が旦那に心配を掛けさせることも、御法度に近い。

 そういうものであったし、深雪も本で見た知識として知っていた。


 しかしながらだ。

 世間さまではそうだとしても。

 こうして心配をしてくれて傍にいて貰えると、今の深雪はとても嬉しい気持ちになるのだから、仕方がない。

 しばらくの間、世間さまの常識とやらには目を瞑っていて貰いたい。





「本当は明日から数日間休暇を取る予定だったんだけれど、それを少し早めて、今日からにしようと思う。そのことで話をしに行ってくるから、深雪は少し待っていて。大丈夫すぐに戻って来るから。……兄さんも、昨日の今日ですぐにどうこうは無いとは思うけれど、念の為に鍵をかけて待っていて」


 玄関先で、崇正がそんなことを言った。深雪は「分かりました」とお澄ましした表情でいながら、けれども僅かな間でも一人になるという事態に、急に不安が再燃して来てしまった。

 がしっと崇正の服の裾を掴んだ。


「……深雪?」

「いってらっしゃいませ」


 見送りの言葉を贈りつつも、なお、深雪は崇正の裾を離さなかった。

 すると、崇正はしばし頬を掻いて思案する様子を見せた後に、「……話をしに行くだけだし、なんなら深雪も一緒に行こうか」という提案を出してくれた。

 次の瞬間。

 深雪はあっという間に支度を済ませ、釣鐘帽を深く被った出で立ちとなった。


「旦那さま、それでは行きましょう」


 瞬く間に準備を済ませた深雪を見て、崇正は微笑んで手を差し出して来る。深雪は迷わずにその手を握った。

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