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【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@キス係コミカライズ
第一章「じゃがいも奮闘記」編

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王都行き計画の立案です

 今すぐ行きましょう!と言ったところで、すぐには行けないわけでして。


 まず私たちは今後の予定を確認し、計画を立案することにした。


 そもそもなぜカエサル・バレーリ団長から、じゃがいも食用化に関する問い合わせが寄せられたのか。


「おそらく騎士団内の食糧事情と予算が理由ではないかと思う」


 父曰く、王立騎士団はアッシュバーン家の騎士団よりもさらに大所帯であり、維持だけでも相当のお金がかかるのだとか。


 だが王国にはそもそも潤沢な資金がない。20年前の戦争の圧縮財政を未だ引きずっている状態だ。


 20年前の隣国トゥキルスとの戦争は和解という形で終焉を迎えた。勝ち戦ではなかったため、隣国から賠償金や土地などをとることができず、お互いが痛み分けとなった状態だ。国が潤わないままでは復興もなかなか進まない。そんな状況だから騎士団の予算も年々削減傾向にあるようだ。


 この話はそのままアッシュバーン家の事情にもつながる。アッシュバーン家がポテト料理に興味を持ったきっかけもまた、じゃがいもという安価に手に入る新たな食糧を使って自前騎士たちを養いたいという発想からきていた。だからこそまずは自領の騎士たちに広めるという考えだったわけだ。


「アッシュバーン領で行った騎士向けの施策を、王立騎士団でも採用できるか検討したいということですね」

「おそらくは。そして王立騎士団にその案を進言したのはおそらくロイド・アッシュバーン副団長であろう」

「伯爵翁様ではないのでしょうか」

「翁はあくまでアッシュバーン家の人間だからね。もちろん元辺境伯という身分は相当なものだが、王立騎士団に意見できるほどのルートはお持ちではないだろう。それにロイド副団長は次期団長とも噂される逸材だ。次男君が辺境伯家を継いだことで、ご本人は王立騎士団に身を埋めることになった。自領での成功例を上長であるバレーリ団長に進言したことは十分に考えられる」


 ロイド・アッシュバーン副団長。噂に聞くだけでお会いしたことはないが、あの伯爵翁様の息子だ。有能でないわけがない。


「そういえば、副団長様からのお手紙も同封されていたのですよね。そちらには何が書かれていたのですか?」

「こちらは招待状だよ。“騎士団でポテト料理についてのレクチャーをする間はアッシュバーン家の邸宅に滞在されたし”と書かれている」

「それって……」

「ようは王都に滞在中はアッシュバーン家のお屋敷で過ごしてほしい、というご招待だ。おそらくうちの事情――小さい子どもがいることも承知の上でのご配慮だろう。だから遠慮なくお受けするのもいいんじゃないかと思ってね」


 つまりこの社交シーズンの間、我が家は王都のアッシュバーン家に滞在し、騎士寮に通いながらポテト料理を披露する、という計画だ。


「でもおとうさま、そうなると私やおかあさまだけでは心許ないです。伯爵翁様にポテト料理を披露したときも、フルコースを作ってくれたのはマリサですから」


 そうなのだ。私と継母は家事や料理をするとはいっても、せいぜいパンやクッキーなどの種を準備する程度。味付けや火の調整など、本格的なところはすべてマリサが行っている。


「そこなんだよ。今回のお話を受けるためにはマリサにも同行してもらう必要があるから、彼女の意向も聞いてみないとね」

「おとうさま、どうせならロイも一緒に行けないのですか?」


 私は父の背後に控える執事を見た。今回の依頼はアッシュバーン家からのときとはわけが違う。伯爵翁様がポテト料理に興味を示してくださったのは、じゃがいもの可能性にいち早く気付いてもらえたこともあるが、うちとのつながりが元々強かったことが大きい。辺境伯家が代替わりしたとはいえ、伯爵翁様の影響力は未だ健在だ。その彼が旗振りをしてくれたおかげで、アッシュバーン家に瞬く間にポテト料理が認知され、調理人たちが我が領に習いにくるという離れ技がとれた。


 だが今回はそのつながりには頼れない。騎士団でポテト料理を採用してもらうためには、バレーリ団長やロイド副団長に、味はもちろん、その有効性を正しく理解してもらわなくてはいけない。


そのためにロイの存在が頼りになると思ったのだが。


「お嬢様、あいにくではありますが、私は王都には少々悪縁がありまして……同行は致しかねるかと」


 彼は残念そうにそう告げた。そうだった、彼は王都から逃げてきた人だ。父親の事件から何十年も経ったとはいえ、未だ当時のことを覚えている人は多いだろう。まして騎士団は捕物も行う仕事だ。彼の父親を捕縛したり調査に当たった者もいないとは限らない。


「その、ロイには家畜の世話を任せようと思っていたのでね。彼がいれば百人力ではあるのだが、今回は留守番してもらおうと思っているよ」


 父が何かをごまかすかのように咳払いをした。彼は私がロイの事情を知っているということを知らない。私も失言だったと思い、それ以上は口をつぐんだ。


「ですがお嬢様、これはルシアンのお店にとっても朗報です」

「どういうこと?」


 突然ロイが出してきた料理教室の話題に、私は首を傾げた。


「今年の社交シーズンをもしアッシュバーン家の邸宅でお世話になるのだとすれば、予算面でかなりの節約になります。社交シーズンは毎年王都でタウンハウスを借りておりましたが、その予算がすべて浮くことになりますので。そうなるとルシアンのお店を維持するための当面の資金が確保できます。お店を手放さなくてよくなりますよ」

「なるほど!」


 そういうことかと膝を打つ。ポテト料理教室も惣菜販売も順調にきていて、このまま終わりにするのはもったいないと話していたところだった。それを維持するための資金をどうするかということで、ここのところあーでもないこーでもないと議論していたわけだが、まさかのこんなところで賄えるとは! ロイ、さすがの分析だ。


「ただしそのためには、ポテト料理を団長様たちに認めていただかなくてはなりません。意気揚々と披露したはいいものの、“採用の価値なし”と判断されれば計画はその瞬間終わります。そうなればお嬢様方がアッシュバーン家の邸宅に滞在し続ける理由もなくなり、旦那様は改めてタウンハウスを借りなくてはならなくなるでしょう。奥様とお嬢様はダスティン領にとんぼ返り、ここで暮せばその分食費も嵩みますから、ひいてはお店を維持する資金も目減りすることになります。ですのでなんとしてでも、今回のプロジェクトを成功させねばなりません」

「わかったわ! 私、頑張ってみせるから!」


 かくしてここに「冬の王都・アッシュバーン家居候計画」が立ち上がることとなった。ちなみにマリサにこの話を持ち込んだら「王都に行けるんですかい!?」と大喜びだったので問題なし。父がマリサの同行について打診したところ、彼女には騎士寮の使用人部屋を用意してもらえることとなり、晴れてこの冬、我が家は王都を目指すことになったわけです。




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