スーパー執事の告白です3
ロイから一連の話を聞いて「そういうことだったのか」と納得いくことしきりだった。ロイのことを常々優秀な人だと思っていたが、その理由がはっきりした。平民が王立学院に合格するのはかなり大変なことだと聞いている。その難関を突破しただけでなく、学院で常にトップの成績を維持し、経営学の専攻の傍ら趣味の植物学まで研究し続け、さらには平民代表として生徒会にも関わる。彼の才能であれば、本来なら王宮に勤め、それなりの部署で相当な出世も可能だったはずだ。それが父親の犯した罪にまるで連座させられるかのように未来を断たれ、行く宛もないままここに来た。
「あのとき私を助けてくださった旦那様と奥様のためなら、私は生涯をかけて恩をお返しする所存です。もし旦那様が罪を犯せと命令すれば、迷いなく従うでしょう。それが、私がお二方にお仕えする理由です」
そしてそれは同時に、彼が私に興味がなかった理由でもある。彼の恩義は私に向けられているものではない。だが今、彼は私が行ったいくつかの改革に興味を持ってくれている。私が推進している計画を応援することが、両親の助けになると気付いたからだ。それがルビィでなく私に味方した理由。
これはこれでなかなか大変な男だ。彼の言葉を信じるなら、もし将来私が両親と敵対するようなことが起こったとき、彼は平気で私を裏切ることになる。
だが私は、彼のことをやっぱり嫌いにはなれなかった。
「……よく、わかったわ。とても辛いことだったのに、話してくれてありがとう」
「私を軽蔑されますか? 私は旦那様と奥様の味方ではありますが、あなたの味方ではないと告白したようなものです」
「いいえ? 私はあなたを頼りにしているわ。だってあなたは両親を、この領の未来を裏切らないでしょう? 私はこの領を発展させたいと思っている。両親や領民に喜んでほしいと思っているから。あなたの目的と私の目的は、全部ではないけれど、被ってるもの。だから、信頼するわ」
ルビィは私が行っている改革をある意味邪魔したけれど、彼は傍観していただけで、邪魔をしたわけではない。見ぬふりをすることも罪だと言う人がいるかもしれないが、私はそんなことに頓着しない。
「今は慢性的な人手不足だもの。信頼がおける優秀な人材は、しっかりこきつかわないと。私ひとりじゃできないことばかりだもの。だから、あなたにも助けてほしいと思っているわ。この領の未来のためにーーー」
そう、動機は違えど目的が一緒なら、私たちは手を取り合える。私は彼に自分の手を差し出した。彼は驚いたように目を丸くしたあと、おずおずと、でも最後はしっかりその手を握り返してくれた。
「思い出します。あの日も旦那様は、今のお嬢様のように握手を求めてこられました」
「え?」
父が彼に男爵家の執事の仕事を打診したとき、ロイからすれば手を差し伸べてくれた父に頭をさげて感謝すべきだった。しかし父は「引き受けてくれてありがとう」と逆に頭を下げた。
「―――あなたはやはり、あの方の娘ですね」
その言葉は、私がこの家に来てから初めて聞かされる言葉だった。父と私が似ていると誰も評してくれたことがない。容姿が実母似の私は父に似ておらず、共通点は金色の瞳だけだ。
だが今初めて他人から「似ている」と指摘されて、心の奥の方がじんわりと温かくなるのを感じた。その言葉を嬉しいと感じた。
「まずは、その花を咲かせましょう」
彼が手にする球根。他領からわざわざ取り寄せたものと聞いている。私が石灰を混ぜた畑のじゃがいもの生育がいいことに、彼はずっと興味を持っていた。だから結果が出るよりも早く、球根を取り寄せずにはいられなかった。
それはかつてのロイ少年が追い求めた夢の一片。あの頃は叶わなかったけれど、今また取り戻せるかもしれないこと。
25年の歳月が流れたのだ。そろそろ彼の過去もルビィの過去も、綺麗に浄化されたらいいと思う。この花が咲いたら、それもまた叶うかもしれない。
今はまだ寒さが増す季節、だけど春は確実にやってきて、この地に根を張り、生まれ変わったような姿を見せてくれるだろう。私はまだ見ぬ色とりどりの光景に思いを馳せた。