犯人探しが終わりました8
ルビィの処遇が決まるまでかなりの時間を要した。理由は諸々の手配方に時間がかかったためである。
父がロイと相談しつつ決めた彼女への罰は、ダスティン領からの追放、及び隣領となるウォーレス領にある心療内科の病院への措置入院だった。
父曰く、ルビィの歪んだ認知は心の病と捉えるべきであり、自分の罪と向き合うためにも過去を再認識し直すべきと判断したとのことだった。なぜウォーレス領かというと、なんと継母のいとこで現ウォーレス子爵でもある人は医者らしい。
「ウォーレス家は医者の家系なのよ。医者といっても代々の当主がみんな人のいい性格だから、ちっとも儲かってはいないのだけど。跡取り娘のいとこはとても優秀な人で、王立学院を卒業した後、医師や薬師を育てる医術院に進んだの。専門は精神科だからルビィの心の病もきっとよくなると思うわ」
継母のいとこである現子爵にルビィの預かりを打診したところ、快諾を貰えたとのこと。処遇が決まるやいなやルビィはすぐさま病院に送還されたため、私が彼女に再び会うことはなかった。ダスティン領からの追放も加わっているから、ルビィがこの地に足を踏み入れることは二度とない。
彼女の罪を軽いと思う人もいるかもしれない。ただ、そうは言っても畑荒らしは軽犯罪。本来であれば追放とまではならない。それが、主家の令嬢に対する恨みからの犯行であったことが彼女の罪を重くし、さらに彼女の今までの献身が考慮され、病院預かりという、ひとまずは露頭に迷わないですむ方法がとられた。病院でのカウンセリングにどれだけ時間を要するかはわからない。
ルビィの主治医となる継母のいとこからは定期的な報告が入る手筈になっている。ある意味監視下に置けることにもなり、私が害されることは二度と起きないだろう。
今回の処遇はベストな判断だったと思っている。
今回の事件でひとつ副産物があった。
「お嬢様、これくらいでよろしいのでしょうか」
「あ、うん。確かじゃがいものときもそれくらいだったわ」
私が頷くのを確認し、ロイは灰を撒いた土地に土をふわりとかぶせた。
「このまま2週間ほど寝かせるのでしたね」
「う、うん。じゃがいものときはそうしたわ」
今何をしているかって聞かれると、驚くことなかれ、ロイと一緒にお花を植えている。
なぜこうなったのかというと、じゃがいもの秋植えチャレンジで思った以上の成果を出したことに彼が食いつき、自分も実験したいと言い出したのだ。
この土地は作物が育ちにくいが花も然りだ。そのため家を飾る花のほとんどが地植えの野生の花だった。私がこの家に引き取られたときも窓際にプランターの花が見えたが、あれもこの地方特有の野生にもある草花だったことを憶えている。
そしてそれを育てていたのは継母やルビィではなく、ロイだった。
聞けば昔から植物に興味があり、本当は植物学者を目指していたらしい。野の花も嫌いではないが、本来なら美しい花を交配させて新種を生み出すようなことがしてみたかったのだとか。ダスティン家に就職してからもなんとか美しい花を咲かせようと土に栄養を加えたりしてみたが、結果は芳しくなかった。
それが、この間のじゃがいもの結果である。灰を肥料と間違えて(ということにしてある)配合した私にやり方を教えてほしいと頼んできたので、一緒に花を植えているイマココ状態。
彼の思わぬ(失礼)趣味に、なぜこのスーパー執事が畑仕事まで手伝ってくれていたのかを理解した。野菜も植物には違いなく、彼は好きでやっていたのだ。
今回ロイが用意したのは色鮮やかな花を咲かせる球根だった。もし土の改良がうまくいけば、春先には目にも鮮やかな光景が見られるかもしれない。実に楽しみだ。
「これで準備はOKよ。お天気がしばらく続くといいのだけど」
「例年この季節は雨が少ないですから、大丈夫だと思います」
「ならよかったわ」
雨で土が流れたりしたらうまくいかない可能性もあるので、そう聞いて安心した。
作業も終わって片付けをしていると何やら視線を感じた。振り向けばロイがこちらをじっと見ていた。
「なぁに?」
首を傾げると、ロイは畏まったように姿勢を正した。
「お嬢様に謝らなければならないことがあります」
そして彼は私に向かって頭を垂れた。
「えっ、何!? どうしたの、急に改まって」
「私は、以前からルビィさんの態度に気がついていました。彼女がお嬢様に辛辣な言葉を投げかけていることを知っていました。知っていながら、放置していたのです」
「え……」
距離感を感じていた執事の突然の告白に、花植えの道具を抱えたまましばし固まってしまった。
ルビィ視点の話を別小説(ヒロインなんかじゃいられない!!アナザーストーリー)にて公開中です。




