犯人探しが終わりました5
ルビィは昨晩、12時を回った頃にじゃがいも畑に赴いた。服装は萌黄色のドレスに、普段仕事で履いている黒のショートブーツ。彼女が持っている靴は仕事用の黒のブーツと、普段用の明るい茶色のブーツ、それにフォーマル用のヒール靴が一足。茶色のブーツは特にお気に入りで、今回の犯行に使用するのは躊躇われた。そのため、仕事用のブーツを履いていったそうだ。
以前から私がじゃがいも料理を考案したり、畑で実験していることを快く思っていなかった彼女は、私が丹精込めて育てたじゃがいもを傷つけるつもりで畑に向かった。領内の畑が獣に襲われる事象についても知っていたから、猪か何かの仕業に見えるよう、細工することを思いつき、まずは敷地の奥の柵を壊すつもりで、手持ちのナイフを持って向かった。柵は思いのほか頑丈にできており、ロープを切るのに苦労したが、なんとかやり終えた。
その足で畑に戻り、まずは茎を引き抜こうとしたが、簡単には抜けなかった。いつも遠目に見ていたじゃがいもの収穫場ではもっと楽に抜けていたはずなのに……と思ったそうだ。おそらくじゃがいもが育ち過ぎていて、簡単にはいかなかったのだろう。それでもなんとか引き抜いたじゃがいもを、足で踏み潰そうとしたが、じゃがいもが思ったより大きくて、まったく歯が立たなかった。
「小さなじゃがいもなら簡単に踏み潰してしまえると思っていたのに、引き抜いたものは私のこぶしほどに大きくて。何度も何度もかかとを打ち付けたのですが、せいぜい傷がつく程度にしかなりませんでした」
そうやってブーツを酷使していた間に、かかとのプレートが外れてしまったのだろう。だが、畑荒らしに熱中していた彼女はまったく気がつかなかったそうだ。
「このままでは計画通りにいかないと焦っていたとき、納屋のことを思い出したのです」
あの中にきっと、じゃがいもを潰せるような道具があるはず、そう思い、彼女は納屋に向かった。そして中で鉈を見つけた。
「本当はもっと潰せるような道具が欲しかったのですが、ほかにめぼしいものが見当たらず……。仕方なく鉈を使って、じゃがいもを切りつけることにしました」
彼女は畑に戻り、引き抜いたじゃがいもや茎を鉈を使って何等分かに切った。そうして細かくしたものを足で踏みつけ、潰していった。だがじゃがいもの量がかなり多く、だんだん疲れ果ててしまったこともあり、最後は枯れた茎をすべて鉈で払ったり、土をえぐったりして事を終えた。
部屋に戻った彼女は、あらかじめ手元に用意しておいた水の精霊石を使って汚れたドレスを綺麗にした。そのとき、裾を切り裂いていたことに気がついた。同じくブーツも綺麗にしようと手にしたが、靴の内側に大きな傷が入っていた。さらに、かかとのプレートまで無くしたことにも気づき、さすがに焦ったが、今から探しに戻ったところで、暗闇の中見つけられる可能性は低い。
彼女はプレートについては諦め、ひとまず綺麗にしたドレスと靴をクローゼットにしまった。手にできた擦り傷も水の精霊石をこすりつけると綺麗に治り、痛みもまったくなくなったそうだ。
以上が、昨晩のルビィの行動だ。
私は無言で父の話を聞いていた。おおよそのストーリーはロイが推理したものと同じだ。じゃがいもをかかとで潰そうとしたことも、納屋にあった鉈を持ち出してじゃがいもを切り刻んだことも。
「ルビィが犯行に及んだ理由は……もう説明するまでもないな」
父が頭を軽く振りながら、嘆息とともに呟いた。早朝に彼女の口から語られた言葉がすべてだ。今更繰り返すこともないと思ったのだろう。
「ルビィの処分についてだが、これから決定する。ロイともまだ話をしなければならないし、最終的な決定は明日にでも……」
「……待ってちょうだい」
父が話を一旦切り上げようとしたのを、継母が強い意志で止めた。
「あなた……どうか、私のことも処罰してください」
「カトレア!? いったい何を……」
「ルビィの行動には、私にも責任があります」
「いや、君は関係ないよ。ただ彼女の女主人だったというだけだ」
思いもよらぬ継母の申し出を、父は冷静に退けようとした。
「ルビィの行動は、彼女の歪んだ考えから及んだものだ。君の責任ではない」
「いいえ、その彼女の考え方こそが、私が長年目を逸らしていたことなんです。本来は私が……ちゃんと受け止めてあげるべきだった。それをせずに、彼女の女主人という身分にただ甘んじていた私も悪いの……」
「……いったいどういうことだい?」
継母は父を見て、そして私を見た。いつもは穏やかな茶色の瞳が、うっすらと潤んでいる。それでも何かを伝えなければならないという強さが、その眼差しにはあった。
「これは今まであなたには伝えていなかったことです。もちろん、ロイやアンジェリカにも。ルビィの……身の上に起きた話です」
そして継母は、長い昔話を始めた。




