表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/308

犯人探しが終わりました4

 マリサの発見を聞いて、私たちはまず畑の片付けに取り掛かることにした。


 ルビィの処遇について早く結論を出すべきなのだろうが、荒れ果てた畑を放置しておくのは偲びなく、壊された柵も今晩までに直さなければならない。また少しでもじゃがいもが残っているなら、ついでに収穫してしまおうということになった。ロイは柵の手直しの手伝いを領民に依頼するために一度屋敷を離れたので、父と継母と3人で畑に入ることになった。


 父はともかくとして、継母は畑仕事などほぼしたことがない。せいぜい野菜畑になった野菜を夕食用にちょっといただく程度だ。ドレスが汚れるのでやめた方が、と提案したけれど、「片付けくらいはできるから、させてちょうだい」と譲らなかった。


 改めて畑を見ると、確かに不自然な点が目についた。獣が現れたのなら、もっと無秩序に荒らされているべきだが、荒らされているのは手前側に偏っている。奥の方は茎こそ抜かれて土も一部掘られているが、よく見ればじゃがいもの姿もまだ残っている。ルビィも畑仕事になど縁がない人だ。この狭いスペースとはいえ、暗闇の中ですべてを掘り返して荒らすことには無理があったのかもしれない。


 茎がほとんど切り取られていたので、私と父は手作業で掘り返した。するとすぐにいくつかのじゃがいもが姿を見せた。マリサの言ったとおり、まだ少しは残っているようだ。


「春植えよりも栄養分が行き届いたからかな、ずいぶん深く伸びているね」


 父が感心しながら、じゃがいもを傷つけないように小さなスコップで土を避けていく。私も負けじと自分の手元の土を避けていった。途中、切れた茎の先を見つけたので、ある程度土を払いながらその茎をつかみ、勢いよく土の中から引っ張り上げた。ところが勢いが過ぎて、そのまま後ろにひっくり返ってしまった。


「きゃああぁぁっ」

「「アンジェリカ!」」


 思わず出た悲鳴に、両親がそれぞれの道具を放り出して私の元に駆け寄る。


「大丈夫か!」

「は、はい。ちょっと尻餅をついただけです」


 蔓の勢いに負けて後ろに転んだ私は、上半身を起こしてお腹の上のじゃがいもを確認した。私が掴んだ茎の先には、手のひらよりも大きいじゃがいもが鈴なりになっていた。


「すごい! こんなにたくさん!」


 春植えのじゃがいもよりも大きいじゃがいもがごろごろとなっている。私は嬉しくなってそれを両親に見せた。


「本当、すごいわ……」

「これほどの大きさのものが穫れたのは初めてのことだよ。これがもし、領内の畑一面で収穫されたら……」

「みんなおなかいっぱいじゃがいもが食べられますね!」


 私がぶらさげたじゃがいもを感嘆しながら見つめる両親は、じゃがいもだけでなくきっとこの領の未来も見つめている。とりたてて特産もない、自給自足もぎりぎりやっとのこの領内で、この食材が起こしてきた数々の奇跡の中でも、今回の挑戦が一番の大金星かもしれない。


「次の春が待ち遠しいですね!」


 元気よく私がそう続けると、父は感極まったように私を強く抱きしめた。


「アンジェリカ! おまえは本当にすごい子だ……!!」

「お、おとうさま! 今はじゃがいもを探すことの方が先ですから!」


 12月のうっすらと寒い好天の中、土塗みれになりながら、私は笑顔を取り戻していた。






 結論から言うと、じゃがいもは畑の半分程度は残っていた。石灰による土壌改良のおかげでたくましく育ったじゃがいもの根が、ルビィの力に勝ったのだろう。


 潰されたり切断されたりしたじゃがいもは、いつもの通り家畜の餌として使われることになった。そもそもじゃがいもは家畜用の食料で、収穫後に細かく潰して天日で乾燥させるのが通常運転だったから、父もやり方を心得ている。ちょうどロイの声かけで柵を直すために集まってくれた領民たちが、家畜用じゃがいもの加工も手伝ってくれて、作業は夕方には完了した。


 「アンジェリカの石灰すっとぼけ大作戦」の結果もしっかり回収した。3つの畝で石灰の分量を変更していたのだが、残されたじゃがいもから推察するに、真ん中の畝の育ちが一番良かった模様だ。まだまだ研究の余地はあるが、ひとまず次の春には今回の結果を踏まえて石灰を撒いてみたいと思う。


 思わぬ展開となった秋植えチャレンジだが、パーフェクトとまではいかなくとも、求めていた結果は得ることができたわけで。ただ、残った後味の悪さが解消されるには、まだ時間がかかりそうだ。


 そして、後片付けを含む作業がいち段落ついた頃、ルビィの処遇についての話し合いが行われることになった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ