犯人探しが終わりました1
もう疑う余地はなかった。傷だらけのブーツと裾の破れたワンピースが何よりの証拠だ。
ルビィはおそらく昨夜、じゃがいも畑に赴いた。制服から私服に着替えたのは、汚れる可能性を考慮したからか。精霊石で綺麗にできるとはいえ、仕事着に何かあれば困るという思いが働いたのだろう。だが水の精霊石は、服の汚れを落とすことや傷を癒すことはできても、傷んだ靴や破れた服を元どおりにはできない。そして奇しくもそれは、3日前という直近で無事なことをロイに確認されていた。これを言い訳するのは難しい。
しん、と静まりかえった室内で、ルビィは視線を誰とも合わせないまま、無言を貫いていた。強張った表情からは、もうこれ以上の言い逃れは出てきそうになかった。
そんな緊迫した中、今まで声を発することのなかった継母が、静かに口を開いた。
「どういうことなの?」
誰に向かっての問いかけなのかと、私は継母を見つめた。彼女はただ、まっすぐルビィを見ていた。
「ルビィ、あなたはいったい、何をしたの? 答えてちょうだい」
いつもは優しく、おっとりした継母の声は、同じ声質を保ちながらも、ずいぶん違うように聞こえた。優しいはずの眼差しは、今は有無を言わせぬ鋭さをもって、長年自分に仕えてくれた存在を見ていた。
「答えてちょうだい、ルビィ。あなたはあの畑で……アンジェリカが大切に作り上げたあの畑で、何をしたの」
声を荒らげなくとも、立板に水のごとく捲し立てなくとも、人は、何かを問いただすことができるのだと、その声の持つ強さは抗えない力を持って、あたりに静かに響いていた。
「奥様……」
ルビィも、その声に楯突くことなどできなかったのだろう。こぼれたのは、継母への呼びかけだった。
「……お許しいただけるとは思っていません。ただ……、ただ、許せなかったのです」
そしてルビィは崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
「あの女がかつて奥様に対して行なった仕打ちが、どうしても許せませんでした」
「……私は何度も言ったわよね。これは仕方のないことだと。その上で、アンジェリカを迎えることに心から賛成していると」
「それでも、納得がいかなかったのです。あの女だけでなく、何も知らずに、降って湧いたような境遇に甘んじているお嬢様の存在も、到底許せませんでした。皆がお嬢様の提案に飲まれて流されていくのを見ると、余計に腹立たしく……。だから、その根元となる畑を壊しました」
私が提案したじゃがいもやサツマイモの料理を、決して口にしようとしなかったルビィ。初対面のときから、私の実母と私に対して、嫌悪感をあらわにしていた。手こそあげられなかったものの、両親が見ていない場所では辛辣な言葉を浴びせられることも続いた。
彼女はずっと、私に対する憎悪を積み上げてきていたのだろう。私がじゃがいも料理を提案し、それが領内や近隣に広がっていく様を、どれほど苦々しい思いで見ていたことか。
だが彼女は明らかに間違っていた。彼女の憎悪が私の実母に向けられるのは致し方ない。けれど娘の私をまで憎しみの対象にするのは、どう考えてもおかしい。
継母はそれ以上、言葉を発せないようだった。怒りとも悲しみともつかない表情で、膝をついたルビィを見下ろしていた。長年自分に仕えてくれた、姉のように慕っていた者の、大いなる裏切り。感情がまとまらないのは当然だ。それでも、それを追及する声をあげた。精一杯の行動がルビィの自供を導いた。そんな継母に対してかける言葉が見つからない。私よりもはるかに長い年月が、ルビィとの間にはあったはずだから。
やるせない思いで息を詰めたそのとき、私の背中に触れる手があった。その手は私の肩に回されたかと思うと、触れた人物はそのまま私の前に出た。大きな影が、私の上に落ちてくる。
「ルビィ、今より謹慎を命ずる。この部屋から出ることはならない。破ればさらなる罪が加わることになる」
私を自らの背で庇いながら、父が厳かにそう告げた。