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【書籍化決定】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@アンジェリカ書籍化決定
第一章「じゃがいも奮闘記」編

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犯人探しが始まりました4

 静まりかえった室内に響くのは、ロイの硬質な声だけだった。


「さて、これはあくまで犯人を探すための調査です。一方的にあなたを糾弾するつもりはありません。反論があるのであればお聞きしましょう」


 黒いショートブーツを示したまま、彼はルビィの発言を待った。


「……私は存じません」


 しばしの沈黙を保った後、ルビィは低い声でそう答えた。


「確かに私のブーツは昨日、仕事中に壊れました。でも、そのパーツをいつどこで無くしたのかわかりません。気がつけばなくなっていたのです」

「ほう、つまりあなたはじゃがいも畑には行っていないと?」

「えぇ。なぜそのパーツがそこにあったのか、不思議です。まるで誰かが私を貶めるために、そこに置いたかのようですわ」


 そしてルビィは視線を私に向けた。


「たとえば私のことを嫌っている人間が、私が落としたパーツをわざと畑に置いたのかもしれませんね」


 言いながらも彼女は私から視線を逸らさない。まるで私がそうしたかのような言い草に、反論の言葉が出てこなかった。


 ロイの推理から私にはもう犯人がわかっていた。それでもその人が犯人であってほしくないと願ったのは、ひとえに継母のためだ。


 だが今、ここに来て私に嫌疑をかけようとしているところを見て、この人を信じたことを悔やんだ。


 私が唇を噛み締めている間にも、ルビィは話し続けた。


「それに先ほどロイ様は、犯人が汚れた衣服を隠し持っている可能性があるとおっしゃいました。私のクローゼットやリネン室をどれだけ確認していただいてもかまいませんわ。だって、そんなものありませんから」

「あぁ、確かにそうですね。ですが、その件に関してはあなたの場合、疑いをはらす理由になりません。あなたはこの屋敷において、精霊石の管理を行う立場にあります。水の精霊石が自由に使える立場ですから、いつでもご自分の服や靴を綺麗にすることができます」


 そうだった。家政を取り仕切るルビィは火と水の精霊石の管理を行なっている。火の精霊石に関しては主な使用者であるマリサに一定量託しているが、水の精霊石は完全にルビィの管理下だ。ミリーが洗濯を行う際にはいつもルビィに貰ってから使用している。そして管理といっても厳密な個数まで記録しているわけではない。


 つまり彼女なら、昨晩犯行に及んだとしても、証拠となる汚れた衣服や靴をまるで何事もなかったかのように綺麗にしてごまかすことができる。もし犯行の最中に手足に怪我をしたとしても、同じく水の精霊石の力で治してしまうことができるだろう。それを糾弾するための証拠は何もない。


 またじゃがいも畑に落ちていたパーツに関しても、彼女の言い分は通ってしまう。誰かが、たとえば私が彼女の靴のパーツを拾って、それを畑に落としてから畑を荒らして彼女の犯行に見せかけたというストーリーは、十分成り立ってしまう。


 形勢は完全に逆転していた。ルビィが犯人だという証拠はどれも不十分。余裕が出てきたのか、ルビィはうっすらと笑みすら浮かべている。


「まったく、とんだ茶番ですわね。この私が疑われるとは。畑を荒らした犯人探しを続けられるなら、私を陥れようとした犯人も見つけてほしいですわ」

「……そうですね」


 ゆったりと頷くロイは、裏返しにしていたブーツを元に戻した。欠けたかかとの部分が見えなければ、それはごく普通のブーツにほかならない。


「もうよろしいでしょうか。ブーツを返してくださいな」

「えぇ。わかりました。ただし、最後にもう2つ、確認させてください」

「まだ何か?」


 未だ話を引っ張ろうとするロイに苛立ったのか、ルビィは眉間に皺を寄せた。


「えぇ、この2つで最後の質問にします。このブーツはずいぶん傷がついて傷んでいますね。いつの間にこんなに傷だらけになったのでしょう」

「それは仕事中にいつの間にか……、あ」


 答えの途中でルビィが何かに気づいたように声を詰まらせた。それを見たロイが冷たい笑みを浮かべる。


「思い出されましたか? 3日前、私が旦那様方の靴の修繕を行なったことを。定期的に行なっている作業ですが、私はいつものようにあなたに声をかけました。“よろしければあなたの靴もついでに磨きますよ”と。あなたは非番で、私服姿で部屋にいらっしゃいました。私はこのブーツを預かって綺麗に磨いた後、あなたにお返ししました。そのときにはこのような目立つ傷はありませんでした」


 ロイはブーツを横に倒し、内側の部分を見せた。そこには真横に一本の大きな傷が走っていた。まるで何かで乱暴に切り裂いたかのようだ。よく見ればほかの部分にも細かい傷がたくさんついている。全体としては綺麗に黒光りしているが、そこかしこに傷がある状態はどこか異様だった。


「この3日の間の仕事中についた傷だとは思えませんが、それでもあなたがそう主張するのであれば仕方ありません。では次の質問です。クローゼットの中に私服のワンピースがありましたね。萌黄色の、休日などによくお見かけする……そう、3日前にこのブーツを預かったときにも着ていらした、あの服です。見たところ大変綺麗で洗濯仕立てのようでしたが、裾の辺りがずいぶん皺くちゃでした。洗濯はしてあるのにアイロンはかけていない。なぜでしょう? あぁ、答えていただかなくともわかります。洗濯はしたけれどアイロンをかけ忘れたのですね。それでもいいでしょう。ですが裾の一部が破れているのはなぜですか。これもこの3日の間に起こったことですよね。裾が破れるほどの激しい動き方をしたということでしょうか。たとえば、畑仕事に出て、誤って硬い靴で裾を踏んでしまったか、あるいは鉈のような刃物でじゃがいもを潰している間に、誤って切ってしまったとか」


 畳み掛けるようなロイの追及に、今度はルビィが押し黙った。



 


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