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終わり方ってこれでいいんですかね?2

 そうして小一時間ほど過ごした後。


 たいそうむくれた顔で部屋に現れたギルフォードを見て、私はパーティが終わったことを悟った。


「ああぁ! なんでみんなでクッキー食べてるんだよ! うわっもう残ってないし」


 持ってきたクッキーは私と殿下、ミシェルに加え、パトリシア様と両親、さらには珍しがったメイドの皆さんにもわけてあげたので、なくなってしまった。


「アンジェリカ! 俺にくれるって約束したじゃないか」

「申し訳ありません。ギルフォード様のこと、すっかり忘れておりました」


 正直に答えると彼はさらにむくれてみせた。


「なんだよ、兄上もいなくなって、俺ひとりで残されて退屈してたんだぞ。寄ってくるのはベタベタ触ってくる女ばっかりで。なんか変な匂いもするし。早くみんな帰ってこないかなってずっと待ってたのに、ここでサボってるとか」


 ぐちぐち言うギルフォードに、殿下がかわいくごめんね?と首を傾げるも、さすがに男同士ではその破壊力も効かなかったようだ。どうしようかと思っていたとき、妙案を思いついた。


「そういえば、今度、伯爵老様が我が領においでになるのです。じゃがいも料理の視察のために。そのときお土産にクッキーをお渡ししますわ。それで許していただけませんか?」

「ほんとか? なら、俺も行きたい!」

「はい?」


 思わぬ展開に私は首を傾げた。


「ほかにもおいしいものがあるんだろ? だったら俺も食べたい」

「でも、伯爵老様は視察でおいでになるので……」

「大丈夫だ! 俺はもうひとりで馬にも乗れるから」

「いえ、そういう問題ではなく」


 仕事でくるのにお子様がついてきちゃダメだろ、と突っ込みたかったが、すでに私の話を聞いちゃいない。まぁいいか、いざとなれば伯爵老がうまくとりなしてくださるだろう、と私はスルーすることにした。


 ほかの客はパーティが終わったため、帰路につくらしい。パトリシア様の姿は見送りのため既になく、父も到着した御者の対応があるため席をたった。殿下とミシェルは明日発つ予定なので、今日はもう一泊されるとのこと。私は継母に促されて、三人に挨拶をしてから部屋を後にした。


「まさかもう一泊することになるとはねぇ」


 おっとり言う継母に、私は「申し訳ありません」と謝った。継母は首を振り「アンジェリカのせいじゃないわ」と微笑んだ。


「殿下にジュースがかかりそうになるのをかばった、と聞いたわ」

「……まぁ、はい」


 正確には子爵令嬢に背中を押されて、その結果としてかばった形になったのだが、それは言わないでおく方がいいだろう。私が誰かにいじめられたと知ったら、この人はたぶん悲しむ。パトリシア様は敏感に察しておられたようだけれど、継母にいらぬ話を聞かせるような人でもないだろう。


「王子殿下を身をもってお守りした、アンジェリカのしたことは正しいことよ。でも、どうか自分の身も大事にしてね? 女の子なんだから、とか、そういうことではなくて、自分が危ないと思ったら逃げていいのよ。あなたは、その、とても耐える子のようだから、私はそれが心配で……」


 少し曇った継母の顔を見上げる。じんわりと暖かなものが胸にこみあげてきた。


「はい、わかりました。おかあさま」


 そう答えると、継母は少しほっとした顔をみせた。




 結局御者は一泊させてもらうことになったようだ。私たちは部屋に戻り、荷造りしかけていた荷物をもう一度ほどいた。このあとはきっと晩餐に招待されるはずだ。そのため着替えずにそのまま待つことにした。そして例の如く部屋から出るのはやんわりと窘められた。「ドレスを汚してしまったら大変でしょう?」と言われたら従わざるをえない。


「そうそう、先ほど伯爵老から話があって、二週間後に我が家におこしくださるそうだ」

「二週間後ですか? また急ですね」

「それだけ興味がおありなんだろう。料理は間に合うかね」

「大丈夫です、ねぇ、アンジェリカ」

「はい!」


 せっかくのチャンスだ、何がなんでも間に合わせたい。じゃがいものフルコースを振る舞うと約束した。今からメニューを考えるのが楽しみだ。わくわくしながら思いを馳せていたとき、私はあることを思い出した。


「おとうさま、お願いがあるのです」

「なんだね?」

「家畜小屋の前の畑をわけていただきたいのです」

「芋の畑かい?」

「はい。じゃがいもを植えてみたくて」

「じゃがいもを? でもじゃがいもは春先に植えるものだよ」


 それは知っている。じゃがいもはだいたい3月から4月にかけて種芋を植え付け、6月中旬頃収穫する。この前、私のお披露目パーティがあった頃はじゃがいも収穫の全盛期だった。おかげで今、領内のじゃがいもはそこそこ潤っている。


 だが、じつはじゃがいもは一年に二度収穫が可能な野菜なのだ。2回目は8月中旬から9月にかけて植え付け、11月に収穫可能となる。2期作が可能なのは比較的温暖な地域のみだが、ダスティン領ならうまくいくのではないかと考えた。


「もしじゃがいも料理を普及させたいのなら、今の量では足りないと思うのです。家畜たちの餌分も必要ですし。年に二回収穫ができるなら、倍の量が見込めますので、実験してみたいのです。ほんのちょっとのスペースでいいんです。わけていただけないでしょうか」

「まぁ、畑はあまっているし。一部だけでいいなら使ってもいいか。ただし、サツマイモを植えているスペースもあるから、そこには入らないように」

「わかりました」


 そう、じゃがいも畑の一角は今、サツマイモ畑になっている。サツマイモは5月頃植えて、秋に収穫だ。


「おとうさま、サツマイモが収穫できたら、サツマイモでもアク抜きを試してみたいです」

「たしかに、同じ方法が使えそうだね」


 サツマイモも用途が広い野菜だ。砂糖などを加えればスイーツにもなる。裏ごししてスイートポテトとか、生クリームを混ぜてケーキにトッピングしたりもできそう。女子受け間違いないから、こちらの方がとっつきやすいかもしれない。楽しみだ。


 もしじゃがいもが春・秋、サツマイモが秋に収穫が可能となり、それらの食用が流通すれば、食料事情は一変することになりそうだ。


 ただ、我が領で、芋類は比較的収穫が見込めるとはいえ、全領民が主食にできるほどの量はまだ見込めない。そのためにはやはり土壌改良が必須になってくる。本当は畑一面使って大々的に石灰を混ぜ込みたいところだが、この知識は前世のもの。いきなり私がそれを始めたら、訝しく思う人が出てくるだろう。じゃがいものアク抜き技ですらひやひやものだったのだ。


 時間は惜しいが、慎重にいくことにしよう。まずは一部のスペースでこっそり実験し、うまくいくことを示してから、次回の春植え時に展開する。その方略も考えないといけないな。


 そんなふうに今後の予定を話し合いながら、夕食までの時間を潰した。






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