いろいろ披露してみました2
正午になりいよいよパーティが始まる、という直前、隣の領からスノウとフローラと伯父もかけつけてくれた。
「お姉ちゃま! きょうはおめでとうございます」
3歳にしてはずいぶん言葉もしっかりしたフローラが私に飛びついてくる。その後ろから、以前よりはよそよそしさも減ったスノウが顔を覗かせる。そして私に何やら箱を押し付けた。
「これ、やるよ」
「えっ?」
渡されたのはリボンがかかった小さな箱。私は箱とスノウを見比べる。
「こら、ちゃんと『お披露目』のお祝いって伝えなきゃだめだろう」
後ろから伯父がスノウの頭をはたいた。
「プレゼントなの? 私に?」
驚いて彼を見返すと、目元を赤く染めた状態でふいっと顔を背けた。なんだ、このかわいさ。
「開けてみてもいいかしら」
「……好きにすれば」
ツンデレ感にほくそ笑みながらリボンをほどく。丁寧に箱を開けていくと、中にはネックレスが入っていた。赤い革紐の先に、木造りのハートのペンダントトップがある。
「あのね、このひもはね、フローラが選んだのよ! お姉ちゃまのストロベリーブロンドには赤がにあうと思ったの!」
「まぁ。フローラ、素敵なセンスね。ありがとう。スノウも」
丁寧にお礼を言うと、伯父がうっそりと笑った。
「よければ革紐だけでなく、その先っちょも褒めてやってくれないかな。こいつが一生懸命彫ったり磨いたりしたんだ」
「なっ……! 父さん! それは内緒っていただろっ」
「えっ、これ、スノウの手作りなの!?」
私は改めてまじまじとネックレスを見た。生成り色のハートは私の掌より一回り小さいくらいの大きさで、よく磨かれたのか艶光りしている。丸っこいフォルムがとてもかわいらしい。それにしてもスノウは5歳なのに、こんなに器用に物を作るのか。さすがは貴族ながら家具職人として身を立てる伯父の息子でもある。
私は首からそのネックレスを下げた。今日のドレスは継母が作ってくれたあのピンク基調のドレスだ。綺麗目のドレスに木訥としたネックレスは似合わないかもしれない。それでも私はそれを使いたかった。
首からかけたそれを丁寧に撫でているとき、不意に私の脳裏に懐かしい記憶が蘇った。
前世で支援にあたっていた村に到着したばかりの頃、色鮮やかな現地刺繍に感動した私たちに、村の子どもたちがプレゼントしてくれたのが、余った糸で作られたミサンガだった。私はそれをスマホのストラップにしていた。本当は手首や足首につけるのが普通だが、所属団体の衛生上の規約で、取り外しのできないものを身につけることが許されなかったのだ。
あのミサンガはどうなっただろう。銃で撃たれたどさくさで、スマホもなくなってしまったかもしれない。遺品として妹の手に渡ってくれたら嬉しいのだけど。
「スノウ、フローラ、ありがとう。大事にするね」
「おまえ、それ、あんまり似合ってないから、無理してつけなくてもいいぜ」
ドレスの綺麗さとネックレスの素朴なデザインのミスマッチに思うところがあったのか、スノウが小さな声で付け加えた。
「いいの。私はこれがつけたいの」
「……なら、別にいいけど」
目を逸らした彼の頭に、伯父が手を置き、そっと撫でた。
「スノウもフローラも、もちろん伯父様も! 今日は楽しんでいってくださいね。おいしいお料理たくさん用意したんです! じゃがいもクッキーもたっぷりあるわよ」
「ほんとう!?」
フローラが目を輝かせる。はじめてじゃがいもクッキーを焼いた日、両親にお披露目したあと、遊びにやってきた二人にも、継母に許可をもらって1つだけわけてあげた。たくさんじゃがいもを食した私がお腹を壊さなかったから、たぶん大丈夫だろうと思ったのだ。二人ともじゃがいもが食べられるという事実に驚き、そしてクッキーの美味しさにも驚いてくれた。今日は思う存分食べてもらおう。
「さぁ、パーティがはじまるわ! 庭にきてちょうだい!」
私はスノウとフローラの手をとり、庭へと駆け出した。