いろいろ披露してみました1
領民の皆様への私のお披露目パーティの日は快晴だった。
朝起きてカーテンを開いたとき、思わず「よしっ」とガッツポーズをした。お屋敷は全員を収容できるほど広くないので、庭でのガーデンパーティ方式をとったのだ。雨なら雨でテントを張る予定にしていたが、晴れるにこしたことはない。
私は朝食もそこそこに、庭に飛び出した。そこには朝早くから手伝いに駆けつけてくれた領民の姿がすでにあった。通いのメイドのルシアンとミリーも忙しく立ち動いている。
私はいくつかのテーブルのうち、緑のクロスが敷かれた大きなテーブルに近づいた。そこにはすでにいくつかの料理が並んでいる。クッキーやパンなど、比較的日持ちがする物が中心だ。この日のためにせっせと焼いて準備したじゃがいもクッキーとじゃがいもパン、それにじゃがいもペーストにクラッカー。ここに後でじゃがいも料理が加わることになっている。
そう、このテーブルはじゃがいもづくしのじゃがいもテーブルだった。今日は私のお披露目でもあるが、この数々のじゃがいも料理のお披露目でもある。むしろ私的にはそっちがメイン。この日のために前世の記憶を呼び起こしたり試行錯誤したりして、じゃがいも料理を考案していた。実験台と称して父や継母、マリサたちにも食べてもらった。ルビィだけは頑なに拒否したが、その他の面々にはお墨付きをいただいたものばかりだ。
私は辺りを見渡し、即席のカマドを準備していた父を見つけた。
「おとうさま! 準備はいかがですか」
「おぉ、アンジェリカ。こちらはばっちりだよ」
父は領民と一緒になって、捌いたキジやウサギを焼いていた。辺りには肉の焼けるおいしそうな匂いが漂っている。この日のために山に出て仕留めてきた獲物だ。ほかにも鹿を仕留めてきてくれたので、キッチンの大鍋で数日前からことこと煮込んでシチューにしている。そのほか絞めた鶏を領民の方たちが持ってきてくれたので、それもローストしている。ちなみに鶏のお腹には豆類や香草と一緒にたっぷりのじゃがいもも詰め込んだ。肉汁を吸ったじゃがいもや豆は絶対においしいはずだ。
その光景を見ながら私は胸がいっぱいになっていた。今日パーティを開くことを伝えたその日から、多くの領民が屋敷を訪れ、料理に使ってくださいと様々な食材を提供してくれた。当日の人材の提供も申し出てくれた。食料自給率がぎりぎりのこの土地で、どれも大切な食料だろうに、お祝いだからと惜しみなく提供してくれる、その優しさや思いやりに心を打たれた。この領の特産は領民!と胸を張って答えた父の真意がようやく理解できた。
彼らの思いに応えるためにも、なんとしてもじゃがいも料理を普及させなくてはならない。私は決意も新たに、キッチンに向かった。
キッチンの中はまさに戦争状態だった。マリサに継母、それに手伝いにきてくれた領の女性陣でごった返している。
「お嬢様、ちょうどよかった。今からコレを揚げますよ。私はスープの方にかかるので、この人に教えてあげてくださいな」
マリサに呼び止められ、私は油鍋の近くで作業中の女性の元に近づいた。彼女が抱えているボウルには、アク抜きして潰したじゃがいもを丸めて片栗粉をまぶした、その名もじゃがいもボールが入っている。味付けは塩とハーブとチーズだ。本当はフライドポテトが作りたかったのだけど、アク抜きの性質上、一度どうしても煮詰めなくてはならず、あの棒状のまま素揚げするような調理はできなかったため、この形で妥協した。妥協とは言えこれも十分おいしい。とくに揚げたては絶品だ。
「お嬢様、これを揚げ油に入れたらいいんですかね」
「えぇ。そのまま中温の油で揚げてください。きつね色になったら油からひきあげてくださいね。中身はすでに火が通っているから、周囲が色づけば完成です」
「お嬢様、ちょっとこっちを見てくださいな!」
「はいっ!」
今度はフライパンでクレープやガレットを焼いている女性に声をかけられる。もちろんこれもペースト状にしたじゃがいもが練り込んである。ほかにも、マカロニを抜いてじゃがいもを主役にしたポテトグラタン、潰したじゃがいもにマヨネーズとハーブを加えたポテトサラダ、ブイヨンでじっくり煮込んだじゃがいもが主役のポトフ、じゃがいもを裏ごしして作った冷製スープのヴィシソワーズ、潰したじゃがいものコンソメとベーコンを混ぜたカナッペ、純粋にじゃがいもを味わってもらえるよう、じゃがバターもある。どれも出来立てがおいしいので、時間差で外に運んでもらえるよう、手配している。
うん、料理の準備は順調。あとは開始の時間を待つばかりだ。