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【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@キス係コミカライズ
第二章「温泉まちおこし」編

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悪役令嬢に会えません2

 残された私はふう、と息をつく。


「さて、このルートはダメ、ということね」


 ダメならダメでいつまでも居座るのは無駄だ。踵を返して大教会を出た後、孤児院へと向かった。あちらに帰りの馬車が迎えにくる予定にしてある。


 エヴァンジェリンの周囲にはメイドや護衛が付き従っているし、同じ実行委員という名目の取り巻き令嬢たちもいる。私が訪ねた情報など、彼女の耳に入る前に握りつぶされると考えるべきだろう。


(だけどもし、彼女が私の来訪を知った上で、会わないという選択をしたのだとしたら……)


 そんな不安が浮かんでくる。妹が話してくれたゲームの中で、エヴァンジェリンは身分をかさに下の者を見下す性悪悪役令嬢だった。当然ヒロイン役のアンジェリカのことも憎らしく思い、数々の嫌がらせをしてきた。


 そんな彼女が良い子であったことに安堵したものだが、子どもというのは良くも悪くも大人に左右される。


 良識ある父親から引き離され、悪役マダム一色の母親とその息のかかった使用人たちに囲まれ、その柔軟な思考が蹂躙され書き換えられたとしても不思議ではなかった。孤児院のクレメント院長の話では、しばらくは頻回に孤児院を訪問してくれたエヴァンジェリンだが、この春以降は一度も訪れがなく、発表会の出演者交渉についても、実行委員会名のそれと手紙のやりとりがあっただけで、直接的な関わりはないそうだ。春以降、というのは、母親がエヴァンジェリンの行動により目を光らせるようになった頃と一致するから、背後に母親の思惑があることは想像できる。


(それに、今しがたの令嬢の発言も――)


 赤信号が放った、カイルハート殿下の筆頭婚約者候補という台詞。エリオットからの報告で、エヴァンジェリンがしょっちゅう王宮に出入りしているというものがあった。具体的にはエヴァンジェリンだけでなく、カイルハート殿下と歳の近い貴族子女が王妃様のお茶会に招かれているという話だが、その中でもエヴァンジェリンの存在は光っているらしい。その背後には、彼女の弟、5歳になるステファン公爵令息の存在がある。


 エヴァンジェリンと同じく銀の髪に紫の瞳をもって生まれた少年が、昨年の春に精霊と契約したという話が公表された。つまり彼こそが、ハイネル公爵家の次期当主となるわけだ。


 この世界の貴族当主は血で決まる。当主直系の子どもたちの中から、その土地の精霊が次期当主を選んで契約する。契約内容は人ぞれぞれであり、その話を口外することは禁じられているから詳細は不明だが、ある日の朝、ステファン少年の指にハイネル公爵家の家紋が刻まれているのが発見されたらしい。私が精霊と契約したときと似た状況だ。


 ステファンが跡目を継ぐことが決まったということは、実姉であるエヴァンジェリンが他家へ嫁ぐことが可能になったということを意味する。母親である公爵夫人が彼女の行動を制限し監視するようになった背景には、この事情もあったに違いない。


 血筋の良さもさることながら、完璧令嬢と名高いエヴァンジェリンは、当然ながら王国一の地位にあるカイルハート殿下の筆頭婚約者候補として扱われるようになった。エヴァンジェリン以外にも候補と呼ばれる少女たちはいるが、そもそも王家に嫁げる身分は名門と呼ばれる伯爵家以上、さらに年齢のつりあいも考えるとそれほど数がいるわけではない。新聞の社交欄をよく賑わせる話題ではあるが、候補の中でも群を抜いているのはエヴァンジェリンだった。


 両陛下の間にはカイルハート殿下しかお子がいない。まだお若く、仲も睦まじいと聞いているから、子どもが今後生まれる可能性もあるが、少なくともゲームの世界で、カイルハートはすでに“王太子”だった。ということは王立学院入学時点で、彼もまた精霊と契約を結んでいたことになる。ちなみに王家は4大精霊すべてとの契約を結ぶことになるため、指には4種類の王家紋が刻まれることになる。


 そんな彼の隣に並び立つエヴァンジェリン。きらきらしいそのツーショットは完璧で齟齬がない。飛ぶ様に売れる姿絵にほくほく顔のハムレット兄妹の顔すら浮かんでくる。


 私は歩きざまじっと左手を見た。うっすらと浮かぶ赤い家紋。これが私の運命。これと似たものが、いずれカイルハート殿下の指にも刻まれ、そしてエヴァンジェリンの指はずっと美しく白いままだ。


 落ち込みそうになる心を、かぶりを振って奮い立たせる。この寂しさはエヴァンジェリンに会えなかった残念な気持ちからくるものだ。もしくは彼女の性質が悪い方に変わってしまったかもという不安からくるもの。


 それ以外の要素なんて何もない。絶対にない。


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