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【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@キス係コミカライズ
第二章「温泉まちおこし」編

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意外な新商品の予感です1

*前回ちらっと出たマリウムの元勤め先に名前をつけました。

*作者は化粧品成分に関しては素人ですので、いろいろ違っていてもファンタジーということでひとつ、お願いします。

 マリウムと面会した1週間後。本人から「今すぐ双子の店に来てちょうだい!」と連絡が届いた。今日はキャロルのハムレット・マニアの営業日。いいのかなと思いつつ店を覗くと「アンジェリカ様! お待ちしていましたわ」とキャロルがにこやかに迎えてくれた。


「マリウムはもう到着していますわ。ライトも店を抜けてくると言っていましたから、そろそろだと思います」

「わかったわ。ありがとう。忙しい中、ごめんね」

「アンジェリカ様が気にされることではありませんわ。マリウムがいつもの研究馬鹿を発揮したのでしょう?」


 研究馬鹿……言い得て妙だ。一度研究に熱中すると昼も夜もないような生活。こっちはハイネル公爵でだいぶ免疫があるけれど。


 とすればマリウムもまた、あの温泉水のサンプルから何かを思いついてくれた、ということだろうか。だとすればわくわくが止まらない。


「ライトも到着したみたいですわね。ショーン、ちょっと店を頼みますね」

「かしこまりました。キャロル様。アンジェリカ様もどうぞごゆっくり」


 恭しく返事をして頭を垂れたのは、このハムレット・マニアの副店長、ショーンさんだ。今日もびしっとスーツが決まった素敵なロマンスグレーっぷりだ。


 キャロルに促され裏の事務所に入ると、そこにはマリウムが優雅に鎮座していた。今日の衣装は濃紺の街行きのドレス。薄いオーガンジーが巻きスカートのように美しいラインを描いている。その隣には赤毛を丁寧に撫で付けたライトネルの姿。それだけでいつもより大人っぽく見えてどきりとした。


「こんにちは。マリウムさん。ライトも。少し髪型が変わったのね」

「え? あぁ、これか。うっとおしいから整えろって父がね」


 少し照れ臭そうに髪を引っ張るライトを見て、また一段と背が伸びたなと感じる。キャロルとは性別の違いもあるから、双子というより兄と妹のような体格差だ。何度も思ったことではあるが、この2人はあまり似ていない。父親で商会のオーナーであるジェームスさんのどこか鋭い目つきは、ライトネルよりもキャロルの方に受け継がれたようだ。ということはライトネルは母親似ということかもしれない。


 そんなことを考えながら、本題に入るべく、私はマリウムに向き直った。


「そうでした。マリウムさん。お誘いありがとうございます。化粧水のサンプルのことで何か進展があったのですか?」


 ライトもキャロルもこの人も、回りくどい挨拶などは本来は好きではないタイプだ。時は金なりを地でいく双子に、研究に没頭中の技術者。さくっと話を進めれば、案の定彼もすぐに乗ってきた。


「そうね。まずはあたしなりに温泉水の分析をしてみた結果を単刀直入に。あなたが望んだ“うるうるもちもちになるような化粧水”は、この温泉水からは作れないわね」

「え……」

「そもそもこの温泉水、保湿に向いている成分があまり含まれてないのよ」

「そんな……本当ですか?」

「えぇ。ミネラルとかメタケイ酸とか、それっぽいものもないわけじゃないけれど、特筆すべき分量でもないわね。これじゃぁとても保湿化粧水は作れないわ。どうしてもというなら別に保湿成分を補ってあげなきゃいけなくなる。たとえば、蜂蜜とか薔薇のエキスとかね」

「そうなんですか……」


 想像していたのと違う結果に、落胆せざるをえなかった。温泉=美肌、と思い込んでいただけに、技術者さえ見つけられたら簡単に事業化できると考えていた。


「うーん、蜂蜜成分や薔薇のエキスの化粧水はほかにもあるからなぁ」

「えぇ、高級化粧品シリーズを扱うホワイトリリーのメイン商品が、まさにそれですわ」


 ホワイトリリーというのは貴族御用達の化粧品高級ブランドだ。“白百合のような気高いあなたへ”のキャッチコピーで王国中を席巻しており、マリウムが以前勤めていた会社でもある。ホワイトリリーの商品はハムレット商会とはライバルの商会が扱っているそうで、双子たちにとっては馴染みが薄いものだが、そこは貴族相手の商売。最低限の知識は抑えているようだ。


 二番煎じというのはあまり頂けない。ましてや相手は王国でも1、2を争う化粧品ブランド。そんな大会社の後追いなぞしようものなら、喧嘩をふっかけるようなものである。


「どうしよう……」


 正直この化粧品事業に賭けているところがあった。温泉水を元にした化粧水を販売して当座の資金を作り、それを元に領内の温泉を整備するという計画だ。ほかにもいろいろ事業を興して、ゆくゆくは一大観光地にするつもりだった。夢物語のようなストーリーだが、やれる自信もあった。


 しょんぼりと肩を落とせば、沈黙が部屋を漂った。




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