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【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@キス係コミカライズ
第一章「じゃがいも奮闘記」編

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あの食べ物とご対面です

2025年10月のリメイク中にこちらをご覧になられた皆様へ。ここに出てくるかまどの灰の話は、以前は石灰として登場させていました。リメイク完了まではこの先も石灰のままで出てくる可能性があります。同じ用途のものと解釈してお読みください。

 私は継母とマリサの元にとって返し、許可をもらって台所の脇に貯められていたそれを持ち出した。


「やっぱりあった! 木を燃やしたあとの(はい)!」


 そう、かまどの火を熾すのに欠かせない薪。それが燃え尽きた後に大量に出るのが灰だ。いつもは水に混ぜて防虫剤にしたり洗剤代わりに使用したりしているそうだが、この灰には別の用途がある。


 灰は強いアルカリ性を示す。よって酸性に傾いた土壌に混ぜれば中和してくれるのだ。それによって作物が実りやすい土に変えることができる。


「でも、灰があるといっても、混ぜる度合いがわからないのよね」


 灰の混ぜ方は憶えている。確か作物の作付けをする2、3週間くらい前に、畑の土を30センチくらい掘り起こして混ぜるのだ。ただ、どのくらいが適量だったのか、混ぜた後は何もしなくていいのか、追加で灰を加えたりなどしなくてはいけないのかなどなど、細かなところまでは不確かだ。1ヶ月の研修では土壌に混ぜたところで終わってしまい、作物の収穫はおろか、作付けさえも見届けていなかった。


 しかたない、これはもう細かく実験するしかない。灰の量を調整して混ぜたいくつかの区域を作り、実際に作付けして育ち具合を比較してみよう。息の長い話になるが、私はまだ5歳。時間だけはたっぷりある。しかもここには転勤制度も退避命令もない。じっくり腰を落ち着けてやっていこうじゃないの。


 まずはこの計画を父に伝えて、土地を用意してもらわなければならない。そもそも灰もこれだけじゃ足りないかも。それから酸性度が強い土地でも育つあの作物……。


 そのとき、はっと気がついた。


(そういえば、前世でよく食べていたあの野菜、この世界で見かけない……。まさかここにはないとか!?)


 この世界の食事に使われる食材は前世とほぼ同じだ。肉なら牛や豚、鶏、羊など。狩猟もさかんなので猪や鹿、うさぎやキジも食べる。魚はこの地域だと川魚。野菜も玉ねぎやにんじん、豆、などあるが、前世より種類が少ない。そういえば葉物野菜はほとんどなくて、山で採ってきた山菜が食卓に並ぶことも多い。


 だが、アレはない。自分が食べたことがないだけだろうか……。


 私は納屋から飛び出し、外にいた父に再び質問した。


「おとうさま、質問があります!」

「なんだい、アンジェリカ。おまえはいつも質問だらけで勉強熱心だね」


 にこにこと娘との会話を楽しむ父に、私は真剣に詰め寄った。


「おとうさまの畑には芋類はないのですか?」

「イモ? それなら奥にあるよ」

「あるのですか!?」


 なんだ、私が知らなかっただけか、と安堵する。


「でも、あんなものどうするんだい? 今度は家畜の世話に興味があるのかい?」

「家畜? いえ、芋類の生育状況を見たいのです」


 芋類、わかりやすいところでいえばじゃがいもやサツマイモのことだ。これらの根菜類は酸性度が高めの土地でも育ちやすい。ほかにもニンニクや生姜なども向いている。この際、タロイモとかでもいい。


 芋類の何がいいかって、どんな荒れた土地でも水分が少なめでも、とにかく根付きやすく育ちやすいという点だ。逆にいえば芋も育たない土地では見通しは悪い。


「家畜小屋の隣が芋畑だよ。その方が便利だからね。ほら、こっちだ」

「便利?」


 家畜の近くだと何が便利なのだろう。


 そう思いながら父の後をついていくと、家の裏手の家畜小屋についた。ここでは牛と豚、鶏を飼っている。そして父の言う通り、家畜小屋の隣に表の野菜畑ほどではないが、割と広々とした畑があった。


 そしてそこには見覚えのある植物があった。


「じゃがいも! みつけた!」


 私は嬉しくなって畑に駆け出した。土から見える実は小ぶりながらも見覚えのあるそれだ。発育状況は決してよいとはいえないが、最悪でもない。これなら望みはある。


 それにしても、と私は疑問を抱いた。


「おとうさま、こんなにじゃがいもがたくさん採れているのに、どうして食事には出てこないんですか?」

「どうしてって、じゃがいもは食べられないからだよ」

「えっ!?」

「じゃがいもは苦味が強くて、とてもじゃないけど食べられないんだ。だからこれらはすべて家畜の餌用だよ」

「えええっ!?」


 嘘でしょ!?と口元を押さえる。じゃがいも、あんなにおいしいのに。


 けれど、ひとつの推測に至って、私ははたと考え込んだ。


(もしかしたら、前世のじゃがいもは改良されて食べやすくなっていたとか?)


 長い年月をかけて改良され、人の口に入るようになった野菜もたくさんある。もしかしたらこの世界のじゃがいもはまだその段階にないのかもしれない。


 父に話を聞けば、ここでもじゃがいもは春から夏にかけてたくさん穫れるらしい。そして秋にはなんとサツマイモが穫れる。だがそのすべては潰して家畜の餌にするのだとか。


(なんてもったいない……)


 酸性度の強い土地でも比較的収穫量が見込める芋類が、家畜の餌としてしか使用されないとは。芋類は炭水化物だから十分主食となりうる。もしこれらが人の口に入る程度に改良されれば、この領の食糧問題は最低ラインから平均レベルくらいにまでは持っていけるかもしれない。


(まてよ、ようはアクが抜ければいいんだよね)


 作物の改良には専門知識や膨大な時間が必要だが、アク抜き自体は簡単に行える。それこそ今もらってきた灰の出番じゃないか。


 灰を水に溶かしたものの中に作物を浸しておくか、灰と一緒に作物を煮炊きするかすることでエグみがとれるのだ。


「おとうさま! このじゃがいも、もらっていいですか!?」

「え、あぁ、いいけど。どうするんだい?」

「私、これを食べられるよう実験してみたいんです。このダスティン領でも、芋類は比較的生育状況がいいんですよね? もしこれが食べられたら、みんなおなかいっぱいになれると思います」

「え? あぁ、なんだ、ままごとがしたかったのか。いいよ、好きなだけ持っておいき」


 若干勘違いな父の発言にずっこけそうになったが、とりあえず言質はとった。私は目の前の小さなじゃがいもをかき集め、再び台所にとって返した。



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