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※2025年10/30-リメイク中。読書中の方は活動報告をご覧ください【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@キス係コミカライズ
第一章「じゃがいも奮闘記」編

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謁見です2

「恐れながら、実はわたくしも、この方法を隣国トゥキルスに広められないかとずっと考えておりました。もし王妃様のお力でそれが叶えば、我が国とかの国の間にあるいくつかの問題が解決すると思われます」

「……ほう。ちなみに、トゥキルスとの間にはどんな問題があると?」

「第一に食糧問題です。長い歴史の中で、我が国と隣国は何度か大きな戦争を繰り返してきました。もっとも新しいものは20年ほど前のものです。私は当時生まれておりませんため、歴史書で学んだだけではありますが、発端は食糧問題であったと聞いております」

「あぁ、そのとおりだ。国境付近で食糧や土地を巡る小競り合いが起き、それをきっかけとして2年の長きに渡る戦争状態に突入した。私は8つかそこらの子どもだったがよく憶えている」

「その数年前から小麦の不作が続いていたことも、大きな原因だったかと。いずれにせよどちらの国も疲弊していたところへの戦争とあって、和解した後も復興に多くの時間を要しました。未だ戦争の爪痕が残っている地域も少なくありません」


 騎士団をはじめとする王国全土に渡る財政難は、すべてこの戦争に端を発している。天候に左右されやすい食糧事情は改善されず、人命が失われ、働き手の少ない農村では収穫量がますます落ちた。都市部では雇用が失われ、かつては誉れ高い騎士だった者たちがならず者に身を落としていった。この美しい王都や、牧歌的な田舎の領に暮らしていては想像もつかないような状態が、未だあちこちにあるのが現実だ。


「皆様ご存知のとおり、じゃがいもは不作に強い食物です。また荒れた土地でも根付きやすく、連作の対策さえしっかりとれば、種芋からいくらでも増やしていくことができます。また育てるのに小麦や野菜ほどの手間もかからず、保存もききます。こんなに優れた農作物が私たちの主食となりえれば……この王国のみならず、隣国の食糧事情も必ずや改善されるでしょう」


 それがじゃがいもの食用化を推し進めたかった一番の事情だ。ほかにも領民たちの健康状態を改善することや、冬場の出稼ぎ家族をひとつでも減らしたいこと、ミシェルの命を守ることなど、たくさんの目的があった。加えて前世の私がNGOの職員として行ってきた現地支援、夢半ばで完遂できなかったあの情熱を思い出して、いてもたってもいられなかったという事情もある。


 それらが今、大きな力を持って、つながろうとしている。


「第二に、両国間の関係性の問題です。先の戦争は和解となり、ある意味双方痛み分けとなりました。我が国が苦しいのと同じように、かの国も苦しみを味わっているはずです。ですがそれも王妃様のお輿入れと、先の王弟殿下の婿入りが礎となり、次世代へと続く平和をもたらしてくださいますでしょう。ですが、お二方の努力や献身だけに胡座をかいてしまうのは違うと思うのです。我々はもっと、互いをよく知るための努力をより行っていくべきです」

「ふむ。どう努力すればよいのかな?」

「たとえば技術交流はいかがでしょう。じゃがいもの食用化という技術をこちらは提供できます。ほかにも、最近研究が進んでいる中和の概念を共同で研究するというのも面白いかもしれません。中和の概念はじゃがいものアク抜きの理論を説明づけることができるものですが、未だ研究半ばであると、地質学者のハイネル公爵から伺いました。なおこの技術は土地にも応用できるものと考えており、我が領ではその研究を進めているところです。こうした研究をトゥキルスの技術者や研究者たちと共同で行っていくことができると思うのです」


 現在トゥキルスとの間に国交はあるが、両国を行き来するのは王国関連の使者と商人たちだけだ。民間の交流はほとんどない。


 けれどともに豊かに発展していく方法を共同で研究していけば、さらなる技術革新が進む可能性が高い。


 そして何より私たちはお互いを知ることができる。顔を合わせ、挨拶をし、寝食までともにするような相手に武器を取ろうとは思わない。そうした民間のつながりこそ、この国の平和を保つ真の礎となりうるはずだ。その関係性は、かつての敵国から身ひとつで嫁いできた王妃様の、強い支えにもなるだろう。


 そんな言葉を重ねつつ、私はこの国で最も尊い女性を見ていた。同性の私でも惚れ惚れするような光り輝く美貌、高貴な佇まい、完璧で非の打ちどころのない貴族女性でありながら、騎士服をまとって剣を持ち、日々の鍛錬も欠かさず、一方で市井にも飛び出していく方。


 この人が、我がセレスティア王国の王妃様でよかったと、ほぼ初対面ながら強く感じた。これは単なる王妃様の気まぐれで設けられた席ではない。この人は、この国と祖国の未来のために、できる手を打てる人だ。


 王妃様の対面で静かに座すマクスウェル宰相にも目を移した。我が国の舵取りをほぼ一手に担い、国王陛下を支える彼が、先程から無言を貫いている。王妃様との気安い関係ややりこめられる様子の中に見えたのは、一見するとわかりにくい忠誠心。


 彼には彼の計算があることも察していた。でもそれだけではない。この邂逅がいい出目になると、この人は読んでくれたのだ。


「なるほど、アンジェリカ嬢の話はよくわかった。我が国にそなたのような考え方を持つ子どもたちが増えることを願おう。そなたたちは両国の宝だ。私と陛下、それにトゥキルス女王夫妻がなしえるよりも多くのことを、そなたたちはやれるのだから」


 そして王妃様は真面目な表情を崩し、軽くウインクした。


「話は膨らむ一方だが、まずは肝心のポテト料理を食してからだな。いい加減小腹がすいてきた。ポテト料理も出来立ての方がおいしいだろう?」


 そして佇む女官に目配せし、満を持してポテト料理の数々が運ばれてきた。



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