表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@キス係コミカライズ
第一章「じゃがいも奮闘記」編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

186/308

王都を後にします4

「恐れながら、宰相様にご協力いただきたいことがあります。実は王都孤児院の子どもたちが、大教会の近くにお店を出す計画を立てています。今、出資者を募っているところですが、こちらの計画にマクスウェル侯爵家もご協力いただけないでしょうか」

「王都孤児院だと? 初耳だが、なんの店だ?」

「ポテト料理を提供するお店です。孤児院の子どもたちが調理や配膳、会計などを担って運営するポテト食堂です」


 そう、この案は、私が孤児院支援のために考えた計画のひとつで、アッシュバーン家の居間で披露したプレゼンの最後に登場したものだった。


 継続的な支援のために何が必要か。そして子どもたちの将来のために足りないものは何か。それを突き詰めていくと、やはり「自分たちでお金を稼ぐ」のが良策ではなかろうかと考えた。そのためには自分たちが店を運営すればいいという単純な考えだ。


 孤児院の子どもたちは、将来手に職をつけ自活できるよう、小さい頃から色々な技術を仕込まれる。ただしルルやシリウスのように、希望する職業に就けない者も大勢いる。


 そんな子どもたちが、押し付けられた手習いをすることなく、第二、第三の道を模索できたらよりよい未来につながるのではないか。お店で出した収益を元にして違う仕事に就きたいと思う子どもを支援する仕組みを作れば、ルルのように体が弱い子どもでも、就ける仕事の幅が広がるかもしれない、そう考えた。


「王都では新しく店を開くのは困難ですが、既に在住している者であれば比較的容易だと聞きました。孤児院のクレメント院長に打診して、大元の精霊庁にも確認してもらいましたが、出店自体には問題がないそうです」


 孤児院は精霊庁の管轄であり、土地自体も精霊庁のものだ。その辺りをクリアにしておかなければと思い、クレメント院長に確認してもらったところ、精霊庁のものではあるが、孤児院に無償貸与されている扱いとなっているそうで、孤児院の敷地内であればなんとでもなるとの返事をもらえた。


「なるほど。孤児院が自活の道を歩むのは悪くない話だ。だが、なぜポテト料理なのだ?」

「それは我が家がそのお店に出資するからです。ただし我が家には金銭的な余裕がないため、出資するのは金銭でなく技術になります。ポテト料理のノウハウを孤児院に無償提供します」


 じゃがいもの食用化についてはクレメント院長も興味を持ってくれている。ポテトクッキーは子どもたちに大人気だし、精霊祭でも完売した。そのノウハウを得られることは孤児院にとってもプラスになるし、何より子どもたちがおなかいっぱい食べることができる。


 そして、我が家にも大きなメリットがあった。


「既にアッシュバーン辺境伯家とハイネル公爵家、それにバレーリ侯爵家も出資をお約束いただいています。さらにハイネル公爵家とバレーリ侯爵家には、お店が完成した暁には、住み込みでポテト料理のノウハウが学べるという特権を見返りとしてお約束しています」


 騎士団のバレーリ団長の実家は海軍を持つ侯爵家だ。アッシュバーン家と同じく軍人を多く抱えている。そのノウハウをバレーリ領にも広めたいと、バレーリ団長が甥である実家の侯爵に話をつけてくれた。


 学びたがる者はたくさんいる。問題はどうやって教えるか、だ。


 王都ですでにポテト料理のノウハウを持っているのは騎士団とアッシュバーン家だけだが、騎士団に習いにくるのはさすがにNGだ。うちから人を派遣するにも人材が足りない。アッシュバーン本家がしたようにうちに料理人を寄越してくれれば喜んで教えるが、我が家は遠すぎるし、使用人部屋も限られるから大人数は受け入れられない。


 でも、もし王都でポテト料理を大々的に振る舞える場所があれば? 問題はあらかた解決する。王国の中心となる王都なら行き来がしやすいし、宿も多いから滞在場所にも困らない。


 王都にお店を構えて、そこで各領の人たちに集まってもらい、ポテト料理のノウハウを提供する。非常に理想的な形だが、王都で新参者が店を構えることは極めて難しい。


 それなら孤児院でお店を出してもらって、そこで伝えればいいのではと考えた。


 加えて孤児院の立地も理想的だ。孤児院は観光スポットでもある大教会の近くにある。社交シーズンでなくとも客足が途絶えない場所だ。周辺で飲食物を提供しているのは屋台がほとんどだから、ここにきちんと食事がとれるお店があれば絶対に成功すると、現場リサーチをして判断した。


 孤児院は自分たちの食糧事情を改善でき、かつ新たな収入源を得られる。我が家はダスティン領の名前が売れるし、何よりポテト料理を広く知らしめることができる。


 このお店で食事するのは王都在住の者だけとは限らない。観光客も大勢くるだろう。彼らがポテト料理の味を覚え、それを故郷に持ち帰ってくれる可能性もある。同時進行で騎士団の各地の砦でもポテト料理が広がっていく。


 点と点が次々と線で結ばれていけば、それが面になる日も、そう遠い未来ではない。


 私の依頼に、宰相様は口元を綻ばせた。


「いいだろう。マクスウェル侯爵家も出資させていただこう」

「ありがとうございます!」


 アッシュバーン辺境伯家にハイネル公爵家、それにマクスウェル侯爵家。これだけ高位の貴族が集まれば今後の展開もしやすい。我が家もぜひと声をあげる家がほかにも出てくること間違いなしだ。


 思っていた以上の大収穫に感無量になっていると、宰相様が静かに口を開いた。


「そなたたちが頼んでくるとしたら、“ポテト料理を広げるために宰相である私に手を貸してほしい”という内容だと思っていた」


 それは以前、私が父を通じて送った手紙に書いたことだ。この画期的な案を宰相様の手腕で王国全土に広めてもらえればと願っていた。結果は……以前あった通りだ。私は自分の計画の甘さに気付かされることになった。


 確かにそれをここで依頼することもできた。王都のたった一軒のお店から地味に広げるより、宰相様の権力と王国の予算を使って一気に持っていく方がずっと早い


 けれど——。


「今回は、宰相様でなくマクスウェル侯爵からのご依頼でしたので、マクスウェル侯爵にお願いしようと思いました。それに……」


 今回の依頼は、侯爵夫人ノーラ様にポテト料理を提供するという私的なもの。それを叶えたからといって宰相様の権力をあてにするのは違うと思った。だから出資を募るに留めた。


「それに、ポテト料理を広めるために、私個人にできることがまだまだあると思っています。最善の準備と最大限の努力をした上で、自信を持って広げられる見通しが持てたら……そのときはまた、謁見を申し込みます」


 今度はマクスウェル侯爵でなく、マクスウェル宰相宛に。場所も侯爵邸でなく、王城の宰相室で。一国の宰相を相手に商談するというのは、それほどの準備と覚悟を得てからの話だ。


 私の答えに、マクスウェル宰相はまた口元を綻ばせた。


「ふむ。バレーリ団長やロイドが言っていただけのことはあるな。アンジェリカ嬢、今後もよく学ばれよ」

「お言葉、しかと胸に刻みます」


 そうして私と父は侯爵家を後にしたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ