とんでもないもの発見しました
*区切りがいいので今回短めです
父の案内で馬をゆったり進めること20分。
「アンジェリカ、着いたよ! ほら、すごいだろう!」
馬から私を下ろしご満悦な父の笑みなど、私の目には映っていなかった。目の前の光景に驚いて顎ががくんと落ちる。
まさか、そんなことって……。
「もしかして初めて見るかな? もっと近づいていいんだよ。そんなに熱くはないから。本当は着替えも用意してくるといいんだが、今日は時間がなくてね。あぁ、初めて見るんだったら知らないかな。ここは自然にお湯が湧き出ているところなんだよ。名前は”おんせ……”」
「おおおおおおおおお、温泉————————!!!!!」
父の言葉を遮って私の絶叫がこだました。ごつごつした岩肌の一部が自然にえぐれ、そこから白い湯気がもくもくと湧いてでている。駆け寄った私が見下ろしたのは岩のくぼみに溜まったお湯。それもただ貯留しているだけでなく、池の中心部からぼこっ、ぼこっとあぶくが湧き出している。
我を忘れて手を浸してみれば、じんわりとした温かさが手に伝わってきた。温度もちょうどいい。大きく息を吸うと、日本人には馴染みのある硫黄の匂いがつんと鼻の奥をついた。
間違いない、これは懐かしき「温泉」だ!
「ふふっ、ふふふっ、ふふふふふふ……」
「ア、アンジェリカ、どうしたんだい? なんだか顔がおかし……いや、顔色がおかしいよ?」
心配そうに私の背後に寄り添う父に、私は大きく振り返った。
「特産あるじゃないのぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」
何が”人”だよこのすっとこどっこいっ!(いや領民が大事なのはわかるけどね!)という言葉をぐっと飲み込み、温泉に向き直った。
(天然の温泉、イケる、これはイケるわ……!!)
貧乏男爵領をもっと発展させるために私がやれること。それは「特産」を発掘して育てること。そう、まさしく前世でやってきた途上国支援のそれだ。
なぜ私がこの世界に転生したのかわからない。「ごっめーん、うっかり死なせちゃった(てへぺろ)お詫びに好きな世界に転生させてあげる☆」的な女神も現れず、ファンタジーあるあるのチートとやらも与えられず、聖女様と崇められることも何かを使役することもなく(妹のおかげでわりと詳しいな私)、おバカなヒロインポジションというちっぽけな存在ににしかなれなかったわけだが、幸いにして私を愛してくれる存在に巡り合えた。前世での知識もある。
それならここでその能力を生かすべきじゃない?
それに、やり残した仕事を、別の形にはなったとしても完遂させたい。私がここにいていいんだって、そう思いたいから。
少し熱いくらいの湯に手をひたしながら、久々に全身が高揚するのを感じた。温泉のようにやる気がふつふつと湧いてきて、今なら世界征服だってできそうな勢いだ。
こうして私の明確な目標がまたひとつ定まった。
ちなみにこのとき発掘した(ていうか昔からここにあったんだけどさ)この源泉が、のちにダスティン男爵領を王国一の観光スポットに導いてくれることを、このときまだ誰も知らない。




