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【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@キス係コミカライズ
第一章「じゃがいも奮闘記」編

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領地を見て回ります2

 馬で街道まで降りてきたあと、父は脇道に入っていった。整備もおぼつかない道の先には畑が広がっており、領民が農作業をしていた。


「あ、領主様だ!」


 作業中の子どもが声をあげると、一家の大人たちが手を止めてこちらに深くお辞儀をした。


「領主様、その子、だぁれ?」


 同い年くらいの男の子が父に抱かれた私を不思議そうに指さす。背後で大人たちが「これ! 失礼なこと言うんじゃないよっ」とその子を叱り飛ばした。


「あぁ、気にしないでくれ。この子は私の娘だ。アンジェリカという」

「えぇ! 領主様、養子をお取りになったんですかい!?」

「いや、この子は正真正銘、私の血を分けた子どもだ。次のダスティン男爵でもある」

「領主様のお子……もしかして、あの」


 どうやら領民たちの間にも母のことは知れ渡っているらしい。悪評がすべて漏れ聞こえていたらどうしよう。家の中だけでなくこちらの対処まで必要となると大変だ。


「近々皆にもお披露目をしようと思っているよ。そのときはぜひ館まで来ておくれ」

「もちろんでございますとも! いやぁ、よかった。これで男爵家も安泰ですね。領主様とお嬢様に精霊の御加護がありますように!」


 そう言って人の良さそうなご主人とおかみさんは、私に向かって満面の笑みを見せた。ひとまず母の評判に関してはなんとか大丈夫そうだ。


「それにしても、麦の収穫はまだ先だが……」

「えぇ……」


 話が彼らが世話している麦に及ぶと、とたんに歯切れが悪くなった。


「毎年毎年、ぎりぎりのところでやってきたんですが……出来は悪くなる一方で」

「茎も痩せ細って実も小さいままで……。それでも実が詰まってくれていたらいいんですが、どうも半分ほどしか入っていないようで」


 領民夫婦の視線の先には麦畑が広がっていたが、小さな畑に実る麦はまばらで、前世の私が知る麦畑の光景には程遠かった。麦の収穫時期は夏。今頃は麦秋と呼ばれる、麦がたわわに実った美しい光景が見られるはずだ。


 だが目の前の土地はお世辞にも豊作とは言えない。しかも先ほどの話から察するに、不作は今年だけの話ではないようだ。


「領主様からいただいた地の精霊石を使ってみた奴らのところは、ここよりはマシな出来ですよ。私らは野菜畑の方に使ってしまったので、こっちには回せなかったんですが」


 地の精霊石は強化の加護がある。作物などと一緒に土に埋めればその実りを豊かにしてくれし、建物や刃物を作るときに混ぜ込むことでそれらを頑丈にしてくれたりもする。ただし効果は永久ではなく、農業で畑に使用した場合は一シーズンが限界だ。この夫婦の家でも野菜畑の方はそこそこの収穫らしい。


 精霊石は安価ではなく、領民の収入では簡単に購入できない。それを父が手に入れて配布したようだ。


(地の精霊石が豊富にあればいいけど、土地柄難しいのよね。そもそもこんなに作物が育たないってことは、土や水に問題があるんじゃないのかな)


 父と一緒に馬から降りて、畑の土を手にとってみた。けれど土の良し悪しがわかるわけもない。


(前世だったら専門機関に預けて成分分析してもらうんだけど……)


 NGO団体に就職し、最初の1年近くは研修を兼ねていくつかの現場を見せてもらった。そのひとつに土壌改良の仕事があった。ただしそれは成分分析をした上で着手できたことだ。分析したデータがあれば、本職でないにしてもいくらかわかることがありそうなのだが、この世界ではそれは叶わない。


 麦を育てている家族とわかれてほかの畑も見て回った。どこも作物は似たような状況だ。牛や豚を育てている農家もあったが、餌となる飼料がこちらも豊富でなく、家畜の太りやミルクの出もいまいちだ。他領に出荷するというより、領内で流通させることが精一杯という状況だった。


「おとうさま、この領地の特産品はなんなのですか?」


 隣のアッシュバーン領であれば答えは明白。特産品は鉱石だ。地の霊精が宿る土地では精霊の加護のおかげで良質な鉱石がとれる。アッシュバーン領ではとりわけ金や銀、鉄の出荷がさかんだ。鉱石は値もはるし他領への輸出もしやすい。また鉱山があることで鉱夫などの働き口も多く、大勢の人が仕事を求めて集まってくる。人が多ければその生活を支えるあらゆる産業が育つため、税収もあがる一方だ。羨ましいこと限りない。


「特産品? 特産……なぁ」


 父は顎に手をやり、考えはじめた。


「今見せていただいたところ、農作物や畜産は大きな収益をあげているように見えませんでした。ほかに何か、他領に負けないような物はありませんか?」

「収益だなんて、アンジェリカは難しい言葉を知っているね」


 父はにこにこ顔で私の頭に手をやる。うん、おとうさま、今それいらないから質問に答えてほしいな。


「品物が難しければ、技術や産業でもいいです。あと、風景とか文化……たとえばお祭りとかでも!」

「うーん、そういったものは……あっ、そうだ!」

「なんですか!」


 私は期待をこめて父を見上げた。


「ダスティン男爵領の特産は、”人”だよ!」

「……ひと?」


 得意顔で満面の笑みを浮かべる父に対し、私は首を傾げた。


「ひとって何……あっ、もしかして人間国宝的な!」

「にん、げん……こくほ? なんだね、それは」

「い、いえっ、なんでもありません! それで、その”ひと”というのは!?」


 思わず口走った前世の知識をどうにかごまかし、父に詰め寄った。


「”人”といえば領民のことだよ! なんと我がダスティン領では10年以上、犯罪がおきてないんだ! 10年前に一度あったけれど、それはお腹を空かせた旅人が畑の作物を勝手にひっこぬいて食べてしまったというもので、うちの領民の仕業じゃなかったんだよ!」

「……」


 嬉々として胸を張る父に、私はなんとも言えない気持ちになった。


「えっと、おとうさま、そういうものではなく……」

「何をいってるんだい、アンジェリカ。領民は我が領の宝だよ。彼らがいるから税を収めてもらえるし、彼らのおかげで私たちの生活が成り立っているんだ」

「た、たしかにそうですが……」


 私が辟易していると、父は厳かに話を続けた。


「彼らの中にはもっといい暮らしがしたいと思っている者も大勢いるだろう。もっと蓄えが得られるようになれば、冬の閑散期に一家の働き手が鉱山へ出稼ぎにいってしまうようなことも避けられる。それでも彼らはこの地に留まってくれているんだ。この土地とこの土地の過去と、代々の私たちを愛してくれているからこそだ。それを忘れちゃいけないよ」


 父の言葉にはっとした。そうだ、貴族の所領は領民がいないと成り立たない。彼らが富を求めて領地を捨ててしまえば、ゴーストタウンになってしまう。


 前世で消えてしまった集落を見ることがあった。水が枯渇して住めなくなったり、土壌が汚染され住めなくなったり、焼畑農業のしすぎで草の一本も生えない不毛な土地になってしまったり。どんなに偉い人が君臨していても、そこで生活をする大勢の人々がいなければ、領地経営は行き詰まるだけだ。


「……申し訳ありません、軽率でした」


 反省しきりの私に、父は優しく声をかけた。


「アンジェリカが領地のことに興味を持ってくれて嬉しいよ。それじゃぁ、ご褒美にとっておきの場所に案内しよう」

「とっておきの場所?」

「一緒に行けばわかるよ」


 そうして父は再び馬を別の高台の方に向けた。



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― 新着の感想 ―
人は城人は石垣人は堀ってやつですね
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