プレゼンのお時間です3
「アンジェリカちゃん、あなたの支援策はとても面白いと思うわ。でも、その“里親”をどうやって見つけるのかしら」
タイミングよくシンシア様が質問してくださり、私は意気揚々と答えた。
「里親を見つけるための発表会を開けばいいのです」
「発表会ですって?」
「はい。孤児院では毎年バザーを開催されているそうですね。バザーには貴族も平民も大勢の方が集まると聞きました」
毎年冬の社交シーズン中に、大教会でイベントが開催されるのに合わせて、孤児院でもバザーを出店する。子どもたちが手作りした作品や、孤児院にゆかりのある人たちが寄付してくれた品物などを売りに出すのだ。
「そのバザーで、子どもたちの特技を披露する場を作ってはどうかと思いました。たとえばシリウスに大勢の人の前でピアノを披露してもらいます。そして彼が望んでいること——ピアノの練習をしたいこと——を合わせて発表してもらい、聴衆から出資を募るのです」
彼のピアノを聴いた人で彼に出資したいと考える人は多いだろう。そしてその発表は何もピアノだけに限らない。子どもたちが登壇し、自分の夢を語る機会を与え、それに賛同する出資者を募ることで支援につなげるという案だ。
「なるほど。それで“発表会”というわけか」
父が納得したとばかりに頷く。けれどシンシア様からは心配する声が聞かれた。
「案としては面白いわ。でも、そううまく聴衆が集まるかしら。まぁシリウスの場合なら心配ないでしょうけど……でも、みんながみんなシリウスのような突出した才能の持ち主ではないわ。悪く言えば、”普通”の子どもたちが何かを発表するとして、それを観たさに人が集まるとは思えないもの」
「そうですよね……」
シンシア様の指摘はもっともだ。シリウスならすでにある程度知名度もあるから、人集めは比較的容易だろう。だがこれを毎年継続させるなら、それなりの集客方法を考えなくてはいけない。
実はこの点が計画をたてている中で行き詰まったところだった。私の頭だけではどうにも答えが出てこず、皆の意見を仰ぎたいところでもあった。
どうしたものかと私は逆に問いかけてみた。するとパトリシア様が声をあげてくれた。
「だったら孤児院の子どもたちだけでなく、貴族の子どもたちにも発表会に出演してもらったらどうかしら」
「貴族の子どもたちにも、ですか?」
「えぇ。どのおうちの子どももなんらかの習い事はしていると思うの。そうした家に声をかけて、発表会に出演してもらうのよ。子どもが出るとなれば親や親戚は必ず観にくるわ」
「なるほど! 孤児院の子どもたちだけでなく、貴族の子どもたちと合同の発表会にするのですね」
確かにそれなら集客は問題なく行えそうだ。
「チャリティーの一環ということを押し出せば、慈善事業に関われるっていう大義名分も得られるから、賛同する貴族も多いはずよ」
パトリシア様がそう補足すれば、隣でシンシア様が頷いた。
「貴族の子どもたちが出演するなら、いっそのこと大教会を舞台にしてもいいかもしれないわね。教会で演奏やダンスなどの特技が披露できるとなれば、興味を持つ人たちも増えるかもしれないわ」
「シンシアお義姉様、素敵な案ですわ。大教会を動かすのは大変ですけれど、参加する貴族が多ければやりやすいですわね」
「なんだったら貴族からは出演料をとってもいいかもしれないわね。それを教会への寄付にすれば、教会も否やを言わないでしょう。もしくは、参加貴族には孤児の“里親”になってもらうことを前提とするとか。そうすれば途切れのない支援につながりやすいわ」
上位貴族の2人がぽんぽんとアイデアを出してくれるアイデアを頭の中に必死にメモしながら、私も拳を握った。
「シンシア様、パトリシア様、素敵なご意見ありがとうございます! そういうの、どんどんください!」
意気込んだ私の前で、話を聞いていたミシェルが手をあげた。
「あの、ちょっといいかな。孤児院には騎士に憧れる子どもたちもいるんだよね。だったら騎士団に頼んで出張講座を開いてもらったらどうかな。乗馬体験とか護身術体験とか、模擬の剣で剣術指南とか。見込みのある子どもは定期的に指導が受けられるよう、騎士団に里親になってもらうんだ。騎士団にとっては未来の騎士を青田買いできるチャンスにもなるから、旨味は感じてくれると思う」
「なるほど! それもいい案だわ! 騎士団にはツテもあるし」
孤児院から騎士になった者が出た過去はあるが、決して多くはない。それは騎士団の入団試験がなかなかに厳しいものだからだ。だが事前教育が受けられるとなれば道は広がる。バレーリ団長、ロイド副団長というつながりがある今、それを利用しない手はない。騎士のみなさんをタダで動かすのは本来ならNGだが、ミシェルの言う通り、未来の優秀な騎士のスカウトが可能となれば、お金のない騎士団でも時間を割いてくれるかもしれない。
「アンジェリカ。もしかしたら父のツテを辿って、芸術院の方々にもお声がけできるかもしれないわ。音楽だけでなくて絵画や彫刻なんかの指導者もたくさんいるし、いろいろレクチャーしてくれるかもしれないわよ」
「そうですね、ぜひお願いしたいです!」
「芸術院が動いてくれるなら、王立学院や医術院も動いてくれるかもしれないね。王立学院はただの貴族の学校というだけでなく、ひとつの研究機関だから、多岐にわたる教育プログラムを持っている。その指導者たちの教育が受けられるなら、学院には入れなくとも一分野に秀でた子どもが出てくるかもしれない」
父がそう付け足す。皆の言う通り、支援者は個人である必要はない。団体にお願いするのもありだ。その団体が無料で行ってくれるならそれでもいいが、難しいならその教育を受けられる資金を貴族から集めればいい。貴族にとっては”慈善事業”がひとつのステータスだ。
どんどん出てくる意見をまとめながら、私はハムレット商会の双子たちに教えてもらったことを思い出していた。「タダでもいい」という程度のものは流行らないし、長続きもしない。正当な働きには正当な対価が必要だ。ボランティアではなく、教える側にもメリットが得られるような仕組みを作らなければならない。
子どもたちがどのように育つかはわからない。支援を得られても、目指す仕事に就けない子も当然出てくるだろう。だがチャンスすら与えられなかった今までとは違い、その機会が提供されるということは、大きな一歩となるはずだ。
そしてそのチャンスを掴めるだけの力を発揮できるかは、その子次第。シリウスが教会での演奏者としての枠を掴めたように、その子の才能と努力が物を言う。孤児だからと差別されるのは大問題だが、孤児だからと優遇されるのも違う話だ。
これは彼らを優遇するプランではなく、彼らをほかの子どもたちと公平にスタートラインに立たせてあげるプランだ。
まだまだ詰めなければならないところはたくさんある。それでも確かな手応えを掴めた私は、立案していたもうひとつのプランについても説明することにした。
そして6名の聴衆は、第1の案以上の驚きを持って私の話を聞いてくれることになった。




