プレゼントを選びましょう3
ショーンさんが星見を包装をしてくれている間に、改めて使い方についてのレクチャーを受けた。今見たのは冬の星座バージョンだったが、春・夏・秋バージョンもある。丸い金属の装置を入れ替えて使うそうだ。
「説明書はつけておきますが、できればどなたかが殿下やその周囲の方にきちんと説明をしていただけたらありがたいです。なんといっても火や風の精霊石を使いますから、扱いは極めて慎重にお願いします」
火と風の精霊石を合わせたら、簡単に大火事を起こすことだってできてしまうから、彼女の心配は当然のことだった。誕生日プレゼントは両親が王宮での開幕パーティのときに持参する予定でいたが、今回選んだ物が物なので、個人的なお祝いのために登城するというミシェルに託すことにして、彼から用途の説明をしてもらうことにした。
子どもだけでは扱わないこと、換気に気を付けること、装置が鉄製なので火傷に注意することなど、細々した説明を受けながら商品を受け取った。ちなみに肝心の値段についてだが、今回は驚くほど安くしてもらえた。
「じつはハムレット・マニアで扱う商品にしては少々高くつきすぎてしまうのです。反射レンズが特注ですし、原価やもろもろ考慮して売値を決めるとなると、庶民には手が届く値段にはなりませんの」
レンズには土の精霊石が使われているため、装置本体がどうしても高価になってしまう。装置を動かすために火と風の精霊石も必要ということもあり、庶民よりは貴族向けの商品となりそうだった。
「売り方について考えなければならないと思っていたのですが、王子殿下にご利用いただけるのであれば貴族間に広まりそうですから、店舗には出さず裏メニューとして展開できますわ。完成品とはいえプロトタイプでもありますし、宣伝料分を割り引いて今回はこちらでご請求させていただきます」
割り引いた分もちゃんと元が取れるとキャロルはそろばんを弾いたようだ。
この商品、貴族を相手にするのであれば決して無茶な値段ではない。ミシェルが言ったように星を読む勉強にもなるし、大人でも十分楽しめるから流行りそうな予感がする。
「きっと大成功します)。それに、春夏秋冬のバージョンも用意されているのがすごいです。ただ、もし可能なら星空が動くと面白いかも」
「動く?」
「えぇ、だって星も太陽と同じように東からのぼって西に沈んでいくでしょう? 時間ごとに見える位置が変わってくるから、それを再現できたらいいか……」
「それ! 面白いですわ!!」
涼やかな目をくわっと見開いたキャロルが、突然私の肩を掴んだ。
「なるほどですわ! 確かに星も移動しますから、その動きが大事ですわよね!」
「キャ、キャロルさん!?」
肩をがしがしと揺さぶられ、頭が激しくクラッシュする。かと思うと次の瞬間、キャロルはメガネの位置を直しながら「球体を回転させる……左右なら簡単にできるけれど、どうせなら上下の動きもつけたいわね……」とぶつぶつ呟きはじめた。
そしてぽん、と手を叩いたかと思うと再び私に向き直った。
「うん! なんとかなりそうですわ! ありがとうございます、アンジェリカ様。おかげでよりよい改良ができそうです」
「よ、よかったです。新しいものも楽しみにしてますね」
「アンジェリカ様、もしよろしければ今後も私の相談にのっていただけないでしょうか。今のように商品に関するアイデアを教えていただきたいのです」
「え? でも、私にキャロルさんを満足させるようなアイデアなんて出せるかしら……」
「大丈夫です! 今だって何気ない一言が素晴らしいアイデアにつながりましたもの! こんなふうに普通に感想を教えていただくだけで結構ですわ。なんでしたら今店頭にあるものもいくつか貸し出しますから、後日意見を聴取……」
「ダメだ! アンジェリカ嬢はすでに俺の味方だ!」
勢いづくキャロルを押し除けるようにしてライトネルが間に割って入った。
「俺たちはさっき友達になったんだ。だからアンジェリカ嬢がおまえの味方をすることはない。おまえは俺たちのライバルだからな」
「まぁなんて心が狭量なんでしょう。友達なら相手の行動を制限するものではありません。そんなんだから斬新な商売のアイデアが出せないんですわ」
「なんだと……! おい、アンジェリカ嬢、あんたは俺の味方だよな」
「アンジェリカ様、ぜひ私の友達になっていただきたいわ」
「アンジェリカ嬢!!」
「アンジェリカ様!!」
ハムレット家の才能豊かな双子に詰め寄られ、返す言葉に困った。正直言うとどちらとも友達になりたいし、どちらかを排除なんてできるわけがない。
「ええっと……みんなで仲良く新しい商売のあり方を考える……というのはいかがでしょう?」
「無理だな」
「無理ですわ」
見事なユニゾンで断られ、冷や汗をかきつつ背後のミシェルを振り返った。彼は苦笑しながらも仲裁に立ち上がってくれた。
「2人ともそこまで。アンジェリカは王都に遊びに来ているわけじゃないんだ。仕事で来ているんだよ。だから2人別々に時間を使うことはできないよ」
「「しごと?」」
ミシェルの説明に双子は同じ角度で首を傾げた。こんなところはそっくりなんだけど、と思わず口から出そうになるのを押し留める。
そう、私が王都にきたのは決して両親のひっつき虫的な役割のためではない。年が明けてバレーリ騎士団長との面会が叶えば、その後は騎士団でポテト料理の講習が控えている。
その話をミシェルが私に代わって双子たちにしてくれた。話が進むにつれ双子たちの瞳は爛々と輝きを増した。
「なんだそれ、すごいな! じゃがいもの食用化に成功したなんて!!」
「食生活における大いなる革命ですわ! ああぁ! 新しい商売の匂いがいたします!!」
「とはいえうちは生鮮食品は扱わないからな……展開するとすれば料理にあう調味料か?」
「調味料のコーナーで調理法を紹介すればいいんじゃないかしら」
「なるほど! あとは……家畜の飼料に使われなくなると、家畜用の餌が別にいるよな」
「麦わらが高騰するかも! 今から作付けの農家との契約を増やした方がいいわね」
「小麦自体が売れなくなる可能性は?」
「そこまで食料は余剰してないわ。じゃがいもが代替食品だとしても、それで小麦の需要が落ち込むとは思えない。むしろ安定供給が可能になって相乗効果で売り上げが伸びるのじゃないかしら」
先ほどまでの険悪なムードはどこへやら、目を輝かせる2人は今にも手を取り合わんばかりに白熱の議論を展開している。どちらかが意見を言えばもう片方がそれを膨らませ、新たな視点が出てくればお互い褒めちぎって次の提案をする。阿吽の呼吸とはまさにこのことだ。
「なんというか……すごいわね」
「この双子をおとなしくさせようと思ったら、商売のネタを投下するのが一番効果的なんだよ」
澄ました横顔でそう述べるミシェルに、最強なのはこの人かもしれないと思った。




