王都滞在は楽しくなりそうです2
「ダスティン男爵、奥方殿、アンジェリカ嬢も、姪を紹介させてください。2人とも王立学院の生徒です」
「はじめまして、ダスティン男爵様、奥方様、アンジェリカ様。王立騎士団副団長、ロイド・アッシュバーンの長女、ナタリーと申します」
「同じく次女のエメリアです。皆様方にはご機嫌麗しゅう」
小さく膝を折って挨拶する。学院のスカートはふくらはぎ程度の長さなので、カーテシーをすると逆に無作法になるのだ。これが制服着用時の正式な挨拶なのだろう。
長女のナタリーはすらりと背が高く、ミシェルと同じ亜麻色の綺麗な髪をひとつにまとめていた。次女のエメリアはシンシア様と同じくらい小柄で、焦茶色のふわふわした髪をまとめている。後れ毛がふわっと揺れてどこかかわいらしい雰囲気だ。
父と継母がまず挨拶を交わし、私もそれに続いた。ナタリーはきりりとした表情で私のことを観察していた。
「あなたがアンジェリカ様ですか。パトリシア叔母様が夢中になるだけのことはありますね」
「でも確かに、こんなにかわいい子なら着せ替えも楽しそう! 叔母様、私もぜひ参加させてください!」
「もちろんいいわよ。あなたたちのドレスもちゃんと用意してよ?」
「いえ、私は結構です」
「あたしも……いいかな」
姉妹が顔を見合わせ、苦虫を噛んだような顔をする。パトリシア様、こんなところにも禍根を残していらっしゃるのですね……。すがるような目つきで姉妹を見上げるも、2人ともふっと目を逸らすあたり、応対がミシェルと同じだ。
「着せ替えは遠慮しますが、滞在中はぜひ仲良くしてください」
「ほんと! 王都には楽しいことがたくさんあるんです。私たち、普段は学院の寮で過ごすんですけど、週末は外出ができるから、一緒にお出かけできると嬉しいです」
「ありがとうございます。私のことはどうぞアンジェリカとお呼びください。年下ですので普通に話していただけるとありがたいです。」
「では遠慮なく。それなら私もナタリーでかまわないよ」
「あたしはエメリアおねえさまって呼んでくれると嬉しいな。こんなかわいい妹が欲しかったの」
「姉が全然かわいくないから、妹分で補給したいんだそうだ」
「お姉様はお綺麗だからいいんです。でもたまにはかわいいものも愛でましょうよ」
「愛でる趣味はあるぞ。エメリアもアンジェリカもかわいいから連れて歩きたいな」
「そんなことばかり言うから学院にお姉さまの親衛隊が出来るんですよ。かわいい女の子ばかりひっかけちゃって」
「ひっかけるとはひどい言い様だ。私は常に彼女たちに礼を尽くしているよ」
「それが、“憧れの蔓薔薇の騎士様に声をかけてもらえた!”と、彼女たちを余計に夢中にさせるんです。この間だって、頭のおかしな伯爵家のぼんぼんに決闘を申し込まれてたじゃないですか。彼が片思いしている御令嬢がお姉さまに夢中なのが気に入らないって」
「問題ないよ、3分で片付けたから。それにあれは決闘というレベルじゃない。肩慣らしにもならなかった。おかげで先生たちからもお咎めなしだった」
「問題大アリです、お姉様……」
額に手を当てるエメリア。何をそんなに責められているのかわからないといったふうのナタリー。会話を聞くに、なかなか個性的な御令嬢たちのようだ。
「ナタリーお姉様は“蔓薔薇の騎士”と呼ばれていらっしゃるのですか?」
「そう呼ぶ者がいるとは聞いているよ」
「アッシュバーン家の家紋には蔓薔薇の意匠がありますよね。ナタリーお姉様にぴったりだと思います」
そう、アッシュバーン家の家紋は蔓薔薇と剣だ。以前訪れた領都のお屋敷にも至るところに蔓薔薇が見えた。
ナタリーは騎士科に所属する数少ない女生徒だからか、男装の麗人として女子学生に慕われているようだ。今は学院のスカートを穿いているが、騎士装束を身につけるとすらりとした身長も相待ってかなり素敵に仕上がるだろう。対するエメリアはシンシア様似の小柄な体型。年頃になればシンシア様のようなふくよかなナイスバディになりそうな印象。2人とも美人の部類に入ることは間違いない。
その後は一家の夕食に混ぜてもらい、豪華な夕食を頂いた。
この冬この屋敷に滞在するのはシンシア様と娘のナタリー&エメリア姉妹、年が明ければロイド副団長も戻ってくる。それにアッシュバーン辺境伯アレクセイ様と妻のパトリシア様、長男のミシェルと次男のギルフォード。加えてうちの家族という大所帯だ。
ちなみにアッシュバーン家の三男君は領地に残っているのだそう。彼は普段から隣国トゥキルスとの国境に近い北の砦を守っている。隣国との関係は今のところ友好的ではあるものの、長期に渡って領内に一族の人間が不在という状況は避けたいとのことで、例年三男君と伯爵翁様は領地で過ごしておられる。
年末年始のシーズン開幕パーティまであと3日。こうして王都初日の夜はなごやかに更けていったわけです。




