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【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情  作者: ayame@キス係コミカライズ
第一章「じゃがいも奮闘記」編

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王都滞在は楽しくなりそうです1

 うきうき盛り上がるパトリシア様を止められる者など誰もいない。シンシア様がなんだか生温い目でこちらを見ていた。


「アンジェリカ嬢……私もアンジェリカちゃんって呼んでいいかしら」

「え? はい、もちろんです」


 ちゃん付けはまったくもってデフォルトではないのだけど、パトリシア様がいつの間にかそう呼んでいたから今更拒絶するのもおかしな話だ。


「うちにも娘が2人いるのだけど、もう王立学院にあがっているし、ドレスなどとはあまり縁のない生活をしているから、パトリシア様を満足させてあげられるのは今のところあなただけなのよ。だから……頑張って?」

「……はい」


 よくわからない励ましを受けなんとか立ち直りつつ、私はシンシア様に尋ねた。


「シンシア様のお嬢様方は学院からお戻りではないのですか?」


 学院にも年末年始休暇があると聞く。この時期は親の方が王都に出てくることも多いから、タウンハウスが手狭な場合は学院の寮に残る人もいるそうだ。しかしアッシュバーン家の大邸宅ならその心配も無用だろう。戻っていてもおかしくないのに姿を見かけないのが気になった。


「いえ、昨日から戻ってきているわ。ただ自主訓練のために今日も学院に通っているのよ」

「自主訓練、ですか?」

「えぇ。うちの2人の娘は騎士科を専攻しているの。学院がお休みになっても鍛錬を怠るわけにはいかないって、2人してトレーニングに励んでいるわ。女の子なのに変わり者でしょう?」


 言いながら優しげに微笑むシンシア様の言葉には、娘を誇らしく思う気持ちがあふれていた。


「いいえ、さすがはアッシュバーン家のお嬢様方ですね。女性騎士、憧れます」


 少なくともぴらぴらドレス自慢をしあうことしかできない貴族令嬢なんかよりよほど素敵だ。


「ありがとう。将来は2人とも王立騎士団に入団して、王妃様付きの騎士になりたいと言っているの」


 騎士団には数は少ないが女性もいる。男性に混ざって職務に邁進する彼女たちはとくに精鋭揃いで、王妃様の信頼も厚いと聞く。


 そんな女性騎士を目指しているという御令嬢方に興味が湧いた。きっと夕食の席ではご一緒できるだろう。アッシュバーン辺境伯も既に王都入りしていて、今は王宮に挨拶に行っているそう。こちらも夕食には間に合うと教えてもらった。ロイド副団長は残念ながら年末年始パーティの警備のためずっと騎士団に詰めており、お戻りは年明けになるとのこと。私たちがバレーリ騎士団団長と面会するのも年明けの予定だ。





 夕方になり、アッシュバーン辺境伯とシンシア様のお嬢様方が立て続けに帰宅した。辺境伯とお会いするのはギルフォードの誕生会以来だ。父はルシアンのお店の開店について相談するために何度かお会いしているから、辺境伯とも気安い仲だ。


「ポテト料理教室が盛況のようで何よりです。かの街にじゃがいも文化が根づけば、こちらとしても大変ありがたい。とくに東部地域は鉱山が多いことで人が密集している割に、農地に適した場所がほとんどないんです。西部地域に穀倉地帯があるおかげで領内は十分にまかなえるのですが、各地域での食糧調達を可能にしたいと常々思っていました。ポテト料理の普及については、今は騎士団の駐在地がメインですが、いずれは全土に広げたいと思っています。ただ調理法が独特なので、浸透させるには時間がかかるかもしれません」


 アッシュバーン辺境伯アレクセイ様のポテト料理の評価は変わらず高いままで安心した。領地での普及の滑り出しが順調だったおかげで王立騎士団の目に留まったといっても過言ではないから、こちらとしても感謝の気持ちでいっぱいだ。


 私の代わりに父が辺境伯に今後の構想について打ち明けた。


「じつは、ポテト料理教室を存続させたいと考えておりまして。今の総菜販売が好調ですので、今後は食堂などを運営してみようかと思っています」

「それはいいですね。こちらとしては契約の半年間で普及活動を終えていただければ、その後はどうしていただいてもかまいません。もちろん領内での商売となると正式な手続きは踏んでいただかなくてはいけませんが」

「もちろんです。もしお店を経営することになれば、今度は娘のアンジェリカに任せようと思っています」

「なんと、御令嬢にですか? いや、しかし……」


 辺境伯が軽く目を見開く。驚くのも無理ない。私はまだ6歳で、彼からすれば末息子と同じ年のガキンチョだ。ギルフォードに商売をさせると想像してみると……うん、私でも盛大に止めるわ。


 しかし父は鷹揚とした笑みを浮かべ、私の肩に手を置いた。


「じつは今の総菜販売が好調なきっかけを作ったのも娘なのです。私はお店の運営からは一切手をひいていますので」


 父の言うことは本当だ。総菜販売を始めたのはサリーの提案からだったが、その後運営方法を変更した。それまでは予めパッケージしたものを売っていたのを、お客さんが好きな量だけ持ち帰れる量り売りに変えたのだ。前世の惣菜屋さんでは一般的な方法だったし、こちらの世界でも肉や野菜はそうして売られている。そのノウハウを総菜販売にも持ち込んだことで、食べたいものを食べたい量だけ買えるようにした。


 運営方法の変更によって、それまでの主な購買層だった独身男性だけでなく、夕食にあと1品と主婦層が家族の分だけ買い求めてくれるようになった。家飲み用のちょっとしたおつまみにご主人の分だけ買っていくなど、客層のバリエーションも増えている。もちろんそうした惣菜利用の仕方を提案する宣伝もちゃんと打った。店内にポップを用意したり、日替わり料理を大量に作ってそれが売れるようイチオシ宣伝したりと、広報にも力を入れている。そのおかげもあって秒で売り切れる人気メニューも出てきた。


 何かすごいことをしたわけではなく、前世の知識を思い出して投入しただけなのだが、この世界では新鮮なアイデアだったみたいだ。最近ルシアンから届く手紙では私のことがことのほか讃美されていてちょっといたたまれない。


 そんな話を父から聞かされた辺境伯は、感嘆のため息を漏らした。


「うちの愚息とはずいぶん違うと父からも聞いておりましたが……いやはや、将来が楽しみな御令嬢ですね。これなら騎士団での活躍も間違いないでしょう。期待しています」


 辺境伯がエールを送ってくれたと解釈した私は、背筋を伸ばして礼を言った。


「ありがとうございます。ご期待に添えるよう、精一杯努めさせていただきます」


 何しろ今回のミッションには今後のお店の行く末がかかっている。当面の運営資金を稼ぐために、私たち一家はできるだけ長くこのおうちに滞在させてもらわなければならない。「冬の王都・アッシュバーン家居候計画」が頓挫すればすべて夢と消えてしまうし、今から3年後の国境での暴動を抑えられないことにもなる。


 愛息子ミシェルの命を守るためにも、辺境伯にも協力をいただきたいところだ。


 私たちの会話が終わるのを待っていたのだろう、学院の制服らしきものを着た少女2人がシンシア様とともに近づいてきた。貴族令嬢としての礼節が行き届いた彼女たちは大人の会話に割り込むようなことはしないし、初対面の私たちに直接話しかけるという無礼もおかさない。この場でもっとも身分が高いアッシュバーン辺境伯からの声かけをじっと待っているようだった。


 気づいた辺境伯が笑みを漏らして2人を呼んだ。





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