始まり
僕はリネスカ王国と言う小国で力も弱い弱小国家の辺境の地で生まれた。
僕はその辺境の地のとある名前もない農村で育ち、親の仕事を手伝いながら生活をしていた。
家族はお母さんにお父さん、おばあちゃん、それと弟と妹が1人ずつ、みんな優しくて、僕はみんなが大好きだった。
村の人もみんないい人たちで、隣の家のお兄さんは狩りがとても上手で仕留めてきた兎や鳥をよくおすそ分けしてくれた。
前の家のおじさんとおばさんは僕が両親の仕事を手伝っている時に弟と妹を預かって可愛がってくれた。
村の端の方にある教会のおじいさんとお姉さんはよく僕にお菓子をくれた。
村の村長さんも領主様への報告や相談なんかで忙しいのに僕みたいな子供たちと一緒に遊んでくれた。
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母は家の机の下で狼の牙で内蔵を引きずり出され死んでいた。
父は家の扉を守るようにして頭を棍棒で叩き潰され死んでいた。
弟は近所の子供達と一緒にスライムに頭から飲み込まれ死んでいた。
妹は糸によって首をネジ斬られ、操られて他の人の頭を持ちながら死んでいた。
隣の家のお兄さんは森に入る道に口を大きくして何かを伝えようとして飛んできた矢に首を貫かれ死んでいた。
前の家のおじさんおばさんは2人とも四肢を杭で家の壁に磔にされ、大量の血を流し死んでいた。
村の端の方にある教会にいたおじいさんとお姉さんは目から黄色い触手が飛び出しながら死んでいた。
村の村長さんは右手がグシャリとひしゃげ、変な方向に曲がりながら地面に何度も叩きつけられ死んでいた。
他にも体中から白く小さなイボが全身に出て死んでいるもの。
体の1部だけが石化し、頭がちょうど半分になって死んでいるもの。
雷に撃たれ焼け焦げ、角で斬られたもの。
股から2つに割かれ、絶叫しながら死んだもの。
村の人の全てが区別なくあらゆる考えられる酷い方法で惨殺されていた。
そこにもう村の人々の命は残っておらず、また人々を襲ったであろう化け物ももうその場を後にしていた。
僕は6時間くらい前に近くの森へと入り、昨日お兄さんに教えて貰った罠に獲物がかかっていないか確認しに行った時、罠の近くに直径が大人一人分程の大きな穴があいていた。
罠には何もかかっていなかったから穴に気をつけて帰ろうとして穴に注意した時、近くにあった木の根に足がつまづき、昨日に雨が降っていたためぬかるんでいたせいで踏ん張れず、そのまま穴に頭から落ち、意識が途絶えた。
起きた時にはもうこの有様だった。
僕は村の中央の広場でその惨状に心が折られ、膝をついて泣いていた。
何時間、いやもしかしたら数日たってとっくの前に涙も枯れた時、肩に手が置かれた。
もしかしたら村の人が生きていたのかと思って後ろを振り向く。
「君、この村の住人か……ってうわぁ!酷い顔してるなぁ……大丈夫?いや大丈夫じゃ無いだろうけどさ、今からいくつか質問するから答えられる?」
……この人は誰だろう。
「もしもし?聞こえてる?……あーこりゃダメかなぁ、とりあえず1回連れて帰るかー」
そう目の前の男の人が言うと背中におんぶされ、僕は眠くなり、そのまま意識が無くなった。
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窓の隙間から差し込む光で目を覚ます。
見たことない天井だ、うちの天井は木で出来ているけれどここの天井は白くて様々な装飾が施されている。
部屋も様々な装飾品があるし、ベッドも村では見たことも無い上等のものだった。
ガチャリ、と部屋の扉が開けられる
そこからは1人の頭に白いカチューシャを付け、白と黒の衣装を身にまとった女性が入ってきた。
「……お目覚めになられましたか」
とその女性が一言言うと、主を呼んで参ります、少々お待ちくださいと部屋から出ていった。
暫くたつと先程の女性がまた来て、
「立つことは出来ますか?」
と聞いたきた。
それを確かめようと足を床に伸ばし立とうとすると全然力が入らない。
首を横に振って女性に無理だと伝えると女性が僕を抱っこして移動し始めた。
どうやらここは誰かすごい人が住んでいるようなお屋敷だと言うことが分かった。
廊下がとても広いし、僕を抱っこしているお姉さんと同じ格好をしている女の人と時々すれ違ったり、黒いシャツにズボンを着た人が赤い紐を首から下げて歩いている男の人とよくすれ違った。
僕を抱いた女性が通ってきた廊下になるなかで1番大きな扉の前で立ち止まり、ノックを3回する。
すると中から「入れ」と言う声が聞こえ、女性は僕を抱きながら中へはいる。
そこには大きな机が真正面に1つ、両隣に多くの本棚が並ぶ部屋で机の向こう側に30代ほどの男の人が椅子に腰掛け座っていた。
机の前にはもう1つ空席の椅子があり、その男性が指でその椅子を指しながら、
「座りたまえ、少し……話を聞きたい」
と、言ってきた。
女性が僕を椅子の上に乗せ、部屋から出ていく。
そして目の前の男性が僕に質問をしてきた。
「君はオスカナ男爵領にあるノスカーナ村の子供で間違い無いかね?」
僕はそれの意味が分からなかった。
村には住んでいたが村の名前など知らない、むしろあったのかと今思った。
僕は口を開き、下が下顎に引っ付いて動かすのに少し苦労して「知らない」と言う。
「そうか……そうだな、周りが全部森で囲まれていて村の中央に今まで村にいた人の名前が刻まれた石像があった村だ、覚えはあるかい?」
そう言われると僕は首を縦に振り、「覚えている」と伝える。
「ふむ、では次の質問だ、君は村の人々が何時、どうやって知っているか分かるかい?」
僕はそれを知らない、首を横に振る。
「わかった、まだあと少し質問があるから答えて欲しい、君は村を襲った化け物……【魔物】というのだが、……それが全て男爵の館に向かう森の道の中で倒されていたのだが……それについて何かしっていないかね?」
僕はそれを聞き驚く。村の人々、父さんやお兄さんなんかはとても力が強くて、獣相手にも力比べで勝った事があるほどだった。
そんな人達を抵抗もさせずに殺していた化け物達が全て死んでいると聞いて、僕は少し安心した、みんなの命を奪ったものが全てもう死んでいることに。
「うーむ、その反応を見るにどうやら知らないようだね、……うん、最後の質問だ、……君は
──腰に下げてある剣に、見覚えはあるかね?」
召喚された勇者どもが来るのはもっと後かなぁ