怪談絵本コンテスト応募作品「きのみ」
あるひ せかいじゅうのみんなに まっかなきのみがひとつぶ ふってきた
ぼくいがいのみんなに ふってきた
みんなはしあわせそうなかおで きのみをたべていた
どんなあじがするんだろう
つぎのひ
がっこうではみんなが そのきのみのはなしをしていた
「きのうきのみたべた?」
「うん。ぼくあんなにおいしいものたべたのはじめて」
「おれもだよ。またたべたいな」
どこにいっても みんなきのみのはなしをしていた
おとなも こどもも
みんながきのみにむちゅう
おとうさんも おかあさんも ともだちも せんせいも
みんながきのみにむちゅう
たべてないのはぼくだけ
いちどでいいからたべてみたいな
つぎのひ
きょうもみんなは きのみのはなしをしていた
みちにいるおとなたちも きのみのはなしをしていた
「またきのみたべたいね」
「はやくふってこないかな」
じゅぎょうちゅうも みんなそのはなしばっかり
せいとも せんせいも みんなきのみにむちゅう
いえにかえるときょうはカレーだった
ぼくのだいこうぶつ うれしいな
カレーはやっぱりすごくおいしい
でも
「なんだかきょうのカレーはあじがしないな」
「そうなのよねー」
おとうさんとおかあさんは なんだかおいしくなさそう
きのみをたべたからかな
きのみのせいで くちがおかしくなったのかな
なんだかすこしこわくなった
つぎのひ
いつもはあさはやくにしごとへいっちゃうのに きょうはいえにおとうさんがいた
「きのみがほしい。きのみがほしい…ハァ…ハァ……」
「きのみ…きのみ……」
おとうさんもおかあさんも めをちまなこにして いえをあるきまわっている
きのみをさがしている
すごくこわい
ぼくはいそいでいえをとびだした
でも みちにもきのみをさがすひとがたくさんいた
「きのみ…どこだ…きのみ……」
せかいじゅうがおかしくなっている
にんげんがきのみなんかにおかしくされている
こわいよ
がっこうのほうからは
きのみをさがしにせんせいやともだちがあるいてくる
いつものみんなはどこにいっちゃったの?
きのみこわいよ
きのみこわいよ
"かみさま、みんなを、せかいじゅうのみんなを、もとにもどしてください"
ぼくは てをあわせて ぜんりょくでかみさまにおねがいした
すると
そらがあかくひかり
そして
まっかなきのみがそらからふってきた
おちてくるきのみは あっというまにぼくのくちのなかへと とびこんできた
「おいしい!」
きのみは くちのなかにはいるといっしゅんでとけ
そして あじがからだじゅうにひろがった
とてもことばではつたえられない
さいこうのしあわせ
きのみのあじはつぎつぎとかわり
すきとおるようにぼくのなかにしみこんでいく
なんだかからだがかるい
そらをとんでいるみたいだ
てんごくにいるみたいだ
きのみは なんどもなんどもからだじゅうにひろがり
そしてきえた
「ああ……もうひとつぶたべたいな」
きがつくと ぼくはたくさんのひとにかこまれていた
「まっかなきのみおまえがたべた」
「おまえがけした」
「おまえのせいでなくなった」
「おまえのせいだ」
「おまえのせいだ」
「おまえのせいだ」
ひとがどんどんふえていく